JEITAテープストレージ専門委員会コラム
「21世紀のデジタル情報保管を考える」



デジタル暗黒時代
突然ですが、「デジタル暗黒時代」という言葉をご存知でしょうか?
2015年の米国科学振興協会(AAAS)で「インターネットの父」と呼ばれるヴィントン・グレイ・サーフ氏が言及したことで話題になりました。
急速な技術の進化によって、古い記録メディアや記録フォーマットのデジタルデータを読み出す方法が次々と廃れていき、結果として情報を読み出すことができなくなってしまう可能性があるというものです。
これによって21世紀という時代が将来忘れ去られてしまうのではないかとまで言われています。
実際に、20年前には当たり前のように使用されていたフロッピーディスクは今ではほとんど見かけることがなくなりました。現状では何世紀も先まで残るようなデジタルデータ保管の仕組みは確立されていないため、HDDやSSDに保管されているデータもいつかアクセスできなくなるかもしれません。まさに暗黒時代の到来です。

21世紀の情報を残していくために
このデジタル暗黒時代を乗り越え、私たちの時代の情報を後世に残していくには何ができるでしょうか。企業や大学では、この問題を恒久的に解決するための様々な研究が行われていますが、ここでは今の技術で私たちができることを、ストレージの観点から考えていきたいと思います。
1番目の解決策はデータの移行(マイグレーション)を定期的に行うことです。
幸いにもデジタルデータはアナログデータとは異なり、劣化なく何度でもコピーすることができます。記録メディアやストレージ技術の寿命が永久でなくとも、その寿命が尽きる前にデータを新しい記録メディアやストレージ技術に移行していくことで、半永久的にデータを残していくことができるのです。
マイグレーションは手間やコストがかかるためネガティブに捉えられがちですが、悪いことだけではありません。より新しい記録メディアにデータを移し変えることによって大容量・高速・省スペースとなり、より高効率にデジタルデータを保管することができるようになります。また、自動で簡単にデータマイグレーションを行えるようなソフトウェアやサービスも各社から出てきておりますので、それらを活用することで手間やコストを抑えることもできるでしょう。磁気テープを用いデジタルデータを長期的に保管する方法を記したJIS規格「JIS Z 6019:2018」の中でも、記録メディアやストレージシステムの寿命を越えデータを残していくための方法としてマイグレーションが言及されています。また、マイグレーションの他にもデジタルデータ長期保管のための様々なポイントが記されておりますので、ぜひ一読いただきたいと思います。

※ JIS規格は日本工業標準調査会ウェブサイトから閲覧可能です。
https://www.jisc.go.jp/app/jis/general/GnrJISSearch.html [検索JIS番号: JIS Z 6019]

2番目の解決策として、標準化されたストレージ技術を採用していくことです。
特定のベンダのみが扱っているようなクローズドな技術でデータを保管してしまいますと何らかの理由でベンダがその技術を供給できなくなった場合に、突如として技術は寿命を迎えてしまいます。また、標準化されていない技術はその独自性ゆえ、別の技術への移行作業が大変である場合が多いです。
このようなケースを避けるためにも、オープンで標準化された技術を採用することはとても重要です。
例えば、テープストレージの「LTO(Linear Tape-Open)」は標準化された規格であり、複数のベンダが製品を提供しておりますので長期的な供給が期待できます。
最近アーカイブ用途での活用が増えているテープストレージへのデータ記録方式「LTFS(Linear Tape File System)」もまた、ISOで標準化された規格です。異なるベンダのテープ装置間であってもデータの読取りや書込みが可能になるため、安心して長期に使用することができます。
標準化という点においても、テープストレージは長期保管用途に適しているのです。

このように、テープストレージをはじめ現在存在する技術をもって、デジタル暗黒時代に立ち向かう術は十分にあると考えます。
一方で課題もあります。たとえば、データを残すという一見収益につながらないように見える目的のために、企業はどれだけ投資をすることができるでしょうか?ストレージベンダはどれだけ技術をオープン化できるでしょうか?
この問題については企業1社1社だけでなく、業界全体で検討していくことが不可欠ではないかと思います。
これから先、この素晴らしい時代を暗黒時代としないために何ができるか、我々テープストレージ専門委員会も継続的に検討し、その内容を発信していきたいと思います。

一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA) テープストレージ専門委員会

http://home.jeita.or.jp/cgi-bin/about/detail.cgi?ca=1&ca2=292

本内容にてご質問などございましたら、JDSF事務局経由でお願いいたします。

 

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