JEITAテープストレージ専門委員会コラム
「同じだけど同じじゃない、磁気テープヘッドの話」



磁気ストレージでデータを書き込むことは、簡単にいえば媒体表面に微小な磁石を並べることに相当する。HDD (Hard Disk Drive)なら媒体はプラッタであり、テープならテープメディアになる。HDDの筐体の大きさやテープカートリッジの大きさを変えずにより多くのデータを記録するには、1ビットに相当する媒体上の磁石の大きさをより小さくする必要がある。磁石の大きさを小さくすると信号出力が小さくなるためにデータの読み出しが難しくなる。エンタープライズ用テープドライブやLTO (Linear Tape Open)テープドライブは、HDDでも使用されている磁気抵抗効果を利用した読み出しヘッドを搭載して微弱な信号を読み出している。 テープの記憶容量が増加するに従い、読み出しヘッドは強磁性体の異方性磁気抵抗効果を利用したAMR (Anisotropic Magneto Resistive)ヘッド, 磁性体・非磁性体・磁性体構造のGMR(Giant Magneto Resistive)ヘッドを経て、2019年4月現在では1巻あたり10TB(テラバイト、テラは10の12乗)を超える容量のエンタープライズテープドライブやLTOテープドライブには磁性体・絶縁層・磁性体構造のTMR(Tunnel Magneto Resistive)ヘッドが使用されている。図1にTMRヘッドの仕組みを示す。テープ表面に配置された磁石の向きによって、ヘッドの磁性体層(フリー層)の磁化の向き(赤い矢印)が変化する。磁化の向きが上下の磁性体層で同じ時は大きな電流が流れて、逆の時は減少する特性を持つ。この差異を検出してデータを読み出している。




前述したように、これらのヘッドはHDDの技術を応用しているが、動作環境・特性の違いにより技術基盤には大きな相違がある。ざっくばらんに、誤解を恐れず言えば、HDDのTMRヘッドをそのままテープドライブに搭載することはできない。
例えば、テープのデータの書き込み・読み出しはマルチチャネル方式で実現されており、最新のテープドライブには書き込み・読み出し専用のヘッドが各々32チャネル分搭載されている。チャネル数はデータの転送速度と比例関係にあるので、チャネル数の増加は性能向上に大きく寄与しており、エンタープライズテープでは1秒当たり400MB(メガバイト, メガは10の6乗)のデータ転送が可能な製品も出荷されている。製品化にはチャネル数分のTMRヘッドから一様に品質を保った信号を出力する必要があるが、安定して磁化の変化を検出しやすくするバイアス磁石の特性を工夫することでヘッドの磁気安定性を得ることに成功している[1]。また、HDDがヘッドとディスク表面の間に微小な隙間を保ってデータを書き込み・読み出すのとは対照的に、テープではヘッドとテープ表面が接触した状態でデータを書き込み・読み出す。信号品質を良好に維持するためには、テープ表面とヘッドが円滑に接触して、テープ走行する必要があり、ヘッド皮膜やヘッドギャップの工夫が適用されている。
INSIC(Information Storage Industry Consortium)の報告では、2025年までにテープのチャネル数は60を超えることが予想されていると共に、引き続きヘッド・テープの接触関連技術の進展が期待されている[2]。
このようにテープヘッドは、HDDのテクノロジーを適用するだけでなく、独自の技術によりテープの大容量化、高速化に貢献しており、これからもビットサイズの狭小化やチャネル数の増加に対応するための技術革新を進めていくのである。
[1]https://aip.scitation.org/doi/10.1063/1.5007788
[2]http://www.insic.org/news/2015%20roadmap/15pdfs/2015%20Technical%20Roadmap.pdf

一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA) テープストレージ専門委員会
http://home.jeita.or.jp/cgi-bin/about/detail.cgi?ca=1&ca2=292
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