JEITA磁気記録媒体標準化専門委員会コラム 「テープストレージのエコ貢献度」

当委員会のグリーンストレージ分科会では、磁気テープ装置の運用時における消費電力やCO2排出量などを指標として、その省エネ性を定量的に示すことに取り組んでいます。現時点では、個々の磁気テープ装置の省エネ性能の差異を示すことよりも、一般に磁気テープ装置がどのくらい省エネ性に優れているかということと、どのような用途/運用においてその特性を十分に生かすことができるのかを明らかにしようとしています。  読者の皆さんは、磁気テープ装置が記憶容量とビットコストに優れ、さらに省エネ性においても優れたストレージであることを既にご承知のことと思いますが、その省エネ性について、どのくらい優位性があるのかを認識されている方は少ないのではないでしょうか。当分科会では、想定した運用事例に対し、ディスク装置(RAID)と磁気テープライブラリ装置および両者の組み合わせにおいて、それぞれのケースにおけるCO2排出量がどの程度になるかシミュレーションを行いました。

図1は、運用事例としてメールアーカイブを想定し、データを長期保存するストレージの種類とその組み合わせにおける記憶容量の比率を変えた場合に、各構成において年間に排出されるCO2の量の違いを示したものです。グラフの横軸は事例毎に想定した保存データ量、縦軸は年間のCO2排出量を示します。グラフ内の凡例に示すストレージの組み合わせ(構成)は、アーカイブデータを保存するRAID(SASおよびSATA)とテープ装置の容量比率によって6通りを想定しました(図2参照)。それぞれのシミュレーションは、RAIDおよび磁気テープライブラリ装置を供給している5社が目的および運用条件に見合う自社の製品を基に算出し、図1では各社による算出結果の平均値をグラフ化しています。同様のことは、2008年度の活動においても行いました(注1参照)が、今回は、その後に出された各社の新製品をベースとし、さらにパラメータや想定事例を増やすなどして検証を行いました。

今回、アーカイブの容量として想定した以下の5つの規模(A1~A5)について、それぞれ年間のCO2排出量をシミュレーションしました。

■アーカイブ容量例(An)
・保存データ量: A1・・・ 1.7TB
A2・・・ 3.4TB
A3・・・ 8.5TB
A4・・・  17TB
A5・・・ 170TB

図1 ストレージ構成とCO2排出量の比較

ストレージのCO2排出量(消費電力)は、記憶容量とともに必要とする最大性能に影響されるところが大きいのですが、A1~A5のメールアーカイブの例では、アーカイブデータの保存(書き込み)は、毎日、新規発生分を1時間以内に行うこととし、データの参照(読み出し)は保存と比較してほとんど無視できる頻度であることを前提として装置の構成を決めています。

図1の凡例に示すストレージ構成とは、長期保存すべきデータを異なるストレージ(RAIDと磁気テープライブラリ)にどのような配分で保存するかを示しています。図2は、そのイメージ図であり、オリジナルのデータをアーカイブ用の異なるストレージに異なる比率で保存する6つの構成例を示しています

図1からわかることとして、磁気テープに100%のデータを保存することが、CO2削減に圧倒的な効果をもたらすことは言うまでもありませんが、保存データ量が概ね10TB以上の場合において、RAIDと磁気テープの混在構成でもRAID(SATA)単独構成と比較して、CO2低減に効果があると言えそうです。(注2)

上記のシミュレーションに使用した各容量(A1~A5)は、一日の一人あたり平均メール受信数が100通、平均メールサイズ(容量)が100KBで、各メールを5年間保存すると想定した場合、A1で100人、A2で200人、A3で500人、A4で1000人、A5で10000人相当となります。

また、容量10TB以上のアーカイブという領域にあてはまる他の運用事例についても調査しましたので、それらのデータ量を図1にBn、Cn、Dnの記号で参考として示しておきます。これにより、各事例のデータ保存において発生するCO2排出量がストレージ構成によってどの程度変化するかをグラフから推定できます。Bn、Cn、Dnの各運用事例の概要は以下のとおりです。

■監視カメラ映像保存事例(Bn)
・画質/性能 : MPEG-4標準画質 / 1IPS(1画像/秒)
・想定カメラ台数および保存期間と保存データ量
B1・・・32台、2年間;14.6TB
B2・・・64台、2年間;29.2TB

■図書館蔵書電子化データ保存事例(Cn)
・長期保管用は高解像度で電子データ化、検索/閲覧用は低解像度で電子データ化
(1冊あたりの電子化データ量を1.1 GBとする)
・想定蔵書数と電子化データ量
(内、検索/閲覧用の低解像度データは約10%)   
C1・・・  1万冊 ;  11TB
C2・・・ 10万冊 ;  110TB

■放送局映像保存事例(Dn)
・撮影したハイビジョン映像を100Mbpsでデジタルデータ化(1時間分→約40GB)
・想定する年間新規作成映像量(時間)とデジタルデータ量(年間増加分)
D1・・・ 8,700時間 ; 約350TB

今回の調査およびシミュレーションから、データの保存先として磁気テープ装置の比率を高めることが省エネにつながり、CO2排出量の低減に大いに貢献できることを確認しました。また、RAIDと磁気テープ装置の混在構成においてCO2排出量の低減効果が発揮される、10TBのボーダーラインを超えるデータ量は、決して非現実的なものではなく、事例として挙げたほかにも様々な事業環境において存在すると考えられ、磁気テープ装置をより広く活用していくことが地球環境の保護につながります。

注1)http://home.jeita.or.jp/is/committee/tech-std/std/2008/CEATEC2008_v2.pdf
注2)今回のシミュレーションで10TB未満の領域において磁気テープ装置の効果が見られないのは、RAID(SATA)容量の最小構成の影響です。





(社)電子情報技術産業協会(JEITA) テープストレージ専門委員会
日本電気株式会社  酒井  清 志