JEITA連載寄稿

JEITAテープストレージ専門委員会コラム
「計画停電、電力総量規制の製造メーカーへの影響」
−東日本大震災からの計画停電及び夏季電力総量規制の製造への影響−

 

2011年3月11日14時46分、東日本を最大震度7、マグニチュード9.0の大きな地震が襲いました。これに伴い9月中旬現在、15千人の死亡者と4千人の行方不明者を出ています。同時にこの地震の大きな津波は東京電力の福島第一原子力発電所を襲い、全電源消失に伴う放射能物質の放出という最悪の原子力事故となりました。また、地震の影響によりその他の火力発電所でも損害が出た為に、東北地方、関東地方では深刻な電力不足に陥っています。その影響が製造メーカーにどのように与えたのか、ざっと見て行きたいと思います。

 

 

●計画(輪番)停電時の製造メーカーへの影響

 

東京電力管内では、さる3月14日から28日にかけて計画的な輪番停電が実施されました。 これはピーク時の電力需要超過が予測される事態が発生した為に実施された計画的な停電です。当初は周知徹底と準備不測により、非常に混乱を招きました。計画停電は5つのグループに分けられ、朝6:40から夜9:40まで最大3時間を一つの単位として順番に停電させて、ピーク時の電力を抑えて、広範囲な(全管内の)停電を無くす処置でした。

 

 

〜東京電力の電力停止時間と生産停止時間は一致しない〜

 

例として9:40から12:40の東京電力からの計画停電の時間と仮定します。その場合、ほとんどが10時から12時の2時間の電力の供給停止となっていました。ですが、9:40から10:00、また12:00から12:40のいつ電力がカットされ、また供給されるのかは分からない状況でした。その為、製造メーカーは9:40の電力停止に備え、数時間前から準備を行う必要がありました。そうしなければ、製品が流れているラインが唐突に止まってしまいます。そのような唐突な停止は、製造メーカーにとって、装置の保守や製品品質への影響に良いことではありません。その為に前もってラインを所定の操作法に沿って停止させる必要があります。同様に、電力が供給されても、直ぐに生産ラインは動きません。電力が供給され、それぞれのユーティリティが正しく供給されていることを確認してからの生産ライン稼動となります。また装置の立上げに、真空装置など使っている場合なども、直ぐに生産ラインを動かすことは出来ません。生産に必要な真空度まで、真空を引き、確認されてからの生産スタートとなります。結果、実質2時間の停電(計画としては3時間)に対して、準備や生産立上げでプラス数時間の生産ラインの停止となっていたのが実情でした。おそらく、どの職種(例えば、食品の工場)でも同じような状況だったのではと容易に推測できます。

 

 

〜電気の停止は電力のみのユーティリティの停止だけではない〜

 

多くのビル、製造現場でも同じような状況だったと思いますが、電気が止まると、圧縮空気や減圧空気などのユーティリティも止まります。これは、それぞれモーターを使い、圧縮や減圧している為です。それだけなら、生産ラインも停止しているので、仕方ないです。がしかし、水の供給も停止してしまいます。これは、マンションなども同じでありますが、一旦、高いところまで水を引き上げ、それからマンション/工場など、それぞれの階やセクションに供給する仕組みです。従って水の供給が止まるので、トイレなども、汲み置きした水を使うことになり、非常に不便になってしまいます。同時に水や電気が止まると、様々な環境を作っていた恒温槽なども停止してしまい、信頼性試験などを行うことも出来ませんでした。このように電力の停止は、製造メーカーの多くのユーティリティを止めてしまい、企業活動を大きく制限してしまいました。

 

 

〜発電機の導入〜

 

以下の総量規制時でも使用しましたが、どうしても電気が必要な状況では、発電機を導入しました。この発電機からの電力は、電力会社からの電力と違い、電圧変動など大きく使用する電気機器の制限もあり、ハンドリングが難しい状況の中使用してきました。また、多くの企業が同時に発電機を導入しており調達などの苦労も多かったです。(実際の使用では、ランニングコストが高いことも上げられます。)

 

 

●電力の総量規制の製造メーカーへの影響

 

また、この夏は原子力発電所の定期検査から再稼動出来ず、そのまま停止していた状況でしたので、結果として、電気使用制限令が発動され、土日祭日を除く9時から20時に、昨年同月の15%削減の電力使用となりました。 製造メーカーにとっては、昨年対比製造量が減っていても、増加していてもです。 東北地方の工場が被災して、これを関東の工場で、補完しようとしても(つまり製造量が増えても)、法令として遵守しなければなりません。 また、これには罰則規定があり、1時間毎に超過した場合、百万円の罰金と会社名の公表でした。7月1日から実施され、9月9日まで続けられました。

 

この制限令に対しても、各社超過しないように、7月1日以前から取組み、7月1日に備えました。 土日祭日が対象外との事で、製造メーカーでは、社員の休日を変更したり、夜間の生産体制として各社各様に対応していました。多くの企業は、エアコン温度を目安の28℃と設定していたようで、この設定も時と場合によっては、人の生産効率を落としているように思えました。 各企業とも同じ状況だと思いますが、日本国内の製造では、ギリギリのコストダウンを進めてきており、その中での電力の削減は、ガマンの節電となりました。 またそれでも15%の設定を超えそうな場合は、生産を一時的に中止して、この制限令を守らざるを得ない状況も多々発生し、計画停電時と同様に生産ラインの立ち下げ/立上げを繰り返し、生産活動に大きな足かせとなりました。

 



(社)電子情報技術産業協会(JEITA) テープストレージ専門委員会
TDK株式会社  曽宮 彰