JEITA連載寄稿

JEITAテープストレージ専門委員会コラム
「データマイグレーションの必要要件」

〜継続的マイグレーションによるデジタルデータの長期保存〜

デジタルデータの長期保存を考える時には、データ移行(データマイグレーション)の二つの側面を考える必要があります。ひとつはデジタルデータを読み出しできる状態で保存するために新しい記録メディアに移し替える物理マイグレーション、もう一つはデジタルデータを解釈可能な状態に保つために記録フォーマットをより新しいものに更新していく論理マイグレーションです。テープストレージの専門家が集まる当委員会では、前者の物理マイグレーションに焦点を置き、異なるメーカーの異なる種類のメディア間でもデータマイグレーションが容易に繰り返し行えるような記録データフォーマットを提案・標準化することを最終目的として活動しています。

 

では、マイグレーションを繰り返し行うための記録データフォーマットには、どのような特徴が備えられているべきなのかをでしょうか?この問に対する答えを見つける最初のステップとして、当分科会ではデータマイグレーション、特に物理マイグレーションにおける必要要件とは何か?という観点で既存の文献などを研究し、いくつかの要件を抽出しました。本コラムではその要件のいくつかをダイジェストで紹介します。

 

マイグレーションシステム(ハードウェア)の要件
マイグレーションを行う場合、入手が容易で信頼できる装置を使用する必要があります。故障した場合に代替装置を入手できなかったり、マイグレーション途中でエラーを起こすような事態を避けるためです。また、装置やメディアのコスト面でも入手が容易、つまり低コストであることは重要な要素です。

 

マイグレーションするデータの要件
長期保存されているデータには、複数の情報がセットとなって初めて意味をなすものがあります。例えば写真付きの日記を記録している場合、日記の文章とその日の写真データはセットで保存されていないと、オリジナルの写真付き日記は再現できません。物理マイグレーションを実施する際にも、このようなセットとなるデータはひとまとまりで一緒にマイグレーションする必要があります。

マイグレーション作業の要件
マイグレーションを実施した際には、必ず正常にマイグレーションされたかどうかを確認しなければいけません。一般的にマイグレーション元のデータがそのまま保管される保証は無いので、マイグレーションが失敗したことに気付かない場合は保管データの損失につながります。さらに、その結果を記録することも重要です。その記録がなければ、マイグレーション先のデータがオリジナルデータと同一であることを確認することが出来なくなります。

 

このような必要要件をまとめた資料「データマイグレーションの必要要件」をJEITAテープストレージ専門委員会のWWWページで公開しています。今回紹介した要件以外の内容も含まれておりますので、興味をお持ちの方は、http://home.jeita.or.jp/is/committee/tech-std/std/com02.html を参照してください。

 

現在長期保存分科会では、テープデバイスでファイルシステムを利用できるLTFS(Linear Tape File System) フォーマットをベースとして、記録データの論理フォーマットの標準化に向け議論・検討を開始しています。LTFSフォーマットをベースに採用することにより、テープメディアと他種メディア間のファイルレベルでのデータ移行を容易にすることができます。そして、関連データのパッケージング方法やマイグレーション結果を記録するためのメタデータなど、データマイグレーションの必要要件を満たす要素を定義・付加することで、継続的なマイグレーションのための特徴をもつ記録データフォーマットを策定します。

 

LTFS Specifications(英語)は以下のURLから入手できます。
http://www.trustlto.com/soar.html



 (社)電子情報技術産業協会(JEITA) テープストレージ専門委員会
日本アイ・ビー・エム(株) 板垣 浩