【連載】バックアップの真実
第9回 「クライアント・バックアップ」

以前、このメルマガで情報整理ツールにOneNoteというソフトを使っていると書いたことがありますが、このメルマガを書く前には、いつも、そこにスクラップされた記事や自分のメモを"何かネタがないか"と眺めることにしています。スクラップされている記事やメモは、ほとんどは完成形とは呼べない形で保存されていますが、後から何かキーワードを思い出したときに探し出せるように、それぞれのスクラップに必ずキーワードを付けています。全文検索機能があれば、敢えて特別にキーワードを付けなくても見つけ出せそうな気がしますが、実際にはそんなにうまくはいきませんでした。うまくいかない一番の理由は単純な検索ツールは文脈を理解できないのに、人間は文章、知識を文脈の中で理解していることにあると思います。概念検索が出来る検索ツールもありますが、記録されている内容を一定の知識の領域に絞らないとトンチンカンなものを探し出してしまうことがあるようです。Googleのような検索ツールを使うと、目的とは違うけれども思いがけず興味深いものが見つかって感動することがありますが、自分のスクラップは自分の頭の中を連想検索しなければいけません。うまくスクラップから捜し物を見つけるためには、それが再利用されるシーンをイメージして、場合によっては、そのスクラップの中で使われていないキーワードをスクラップに敢えて付けることもあります。時には後から"あっ、こんなこともあるんだ"と気がついて更にキーワードを付け加えることでスクラップの価値が増していきます。

クライアントPCには、時には意味もはっきりとしない様々なデータが蓄積されていきます(そんなことはない、と言う人もいるかも知れませんが)が、そんなデータがいつ価値を発揮するのかを考える余裕もなく、人間の処理能力を超えてデータは蓄積されます。クライアントPCのバックアップシステムはビットの固まりであるデータを単にバックアップしているだけですが、そのPCの所有者(利用者)にとってはアーカイブとしての重要な意味を持ったデータがバックアップされます。アーカイブという言葉は長期的な時間の中で付加価値を持つ記録を意味していますが、クライアントPCにはそのようなデータが比較的多く蓄積されているためにクライアントPCのデータ・バックアップは重要なことが多いのです。

アーカイブは、ただ単に貯めているだけでは役に立たないことが多いので、一定の意味づけをして管理しておく必要があります。コンテンツ管理システムの難しさはこの辺りにあるのかも知れません。今のコンピュータのストレージ管理システムは、このような意味を管理できません。せいぜい検索ツールで "言葉"を探し出すことくらいしかできないのです。図書館の司書のように、アーカイブの海を泳ぐにはナビゲータが必要になりますが、デジタル・アーカイブがドンドン大きくなるこれからの時代には、IT武装したコンテンツ管理システムや高度な連想検索、概念検索機能を備えた検索システムが非常に重要になってくると思われます。

ともあれ、企業の会計システムのようなシステムに蓄えられるデータと違い、クライアントPCのデータは、適切なキーワード、インデックスが無いとその関係や脈絡を理解するのも難しいことはわかっていただけたと思います。SOA(S ervice Oriented Architecture)、EA(Enterprise Architecture)が叫ばれ、企業が抱えるデータアセットを統合的に管理する時代になってきましたが、自分でPCにデータを貯めておいてこんなことを言うのも変ですが、ここでちょっと居直ることにします。そう、クライアントPCは"コンピュータシステム"ではないのです。所詮、整理されていないメチャクチャなノートの代わり。そう思うと気が楽になってきます。でも、ノートの紙をばりばりと食べてしまうコンピュータウィルス、人に断りもなく勝手にノートをコピーして配ってしまうWi nnyがいるところは困ったものです。自分のノートは人の言ったことを写しただけで内容は多少問題があっても、自分なりのメモも付いているので非常に大切ですが、PCには何百冊ものノートが入ってしまうので、ノート1冊を大切に保存するのとは比べものにならないくらい、PCの管理には注意が必要になるのです。

さて、クライアントPC、ノートPC特有のセキュリティ上の問題を解決する手段として、このメルマガではシンクライアントや暗号化の話を何回もしてきました。第8回までに出てきた単語の数を数えるとシンクライアントが17回、暗号化が15回です。無線LAN、携帯高速通信が実用的になってきたおかげでシンクライアントは企業の現場で現実的なソリューションになっています。暗号化や端末セキュリティがもう少し強化されればインターネットカフェの端末を使って仕事をすることも何の問題もなくなるでしょう。今、この記事を書いている端末が会社にあるとしても、実際はネットワークの向こうにつながっている自宅のPCでアプリケーションが動いている、というのは現実になるかもしれません。このようなハイブリッドな環境が登場してくる可能性が大きくなっているため、クライアントPCのバックアップは典型的なこれまでのレガシーな基幹システムのバックアップと違った技術、ソリューションが登場しています。CDP(Conti nuous Data Protection)というジャンルの(比較的)新しいデータバックアップ手法、ストレージシステムやPC、サーバの仮想化、ネットワークファイルシステムが重要なキーになってきそうです。

来月からは「クライアント・バックアップ」というテーマから別のテーマに変える予定です。今後ともよろしくお願いいたします。





JDSF データ・マネジメント・ソリューション部会
株式会社エクサ 恋塚 正隆
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