JEITAテープストレージ専門委員会コラ
「ビッグデータは本当にビッグになるのか?医療、ライフサイエンス編 」

 

■医療業界のデータ

最近は手術の現場でのモバイルデバイスの活用、3Dプリンターによる臓器の3Dモデリング等が報道されてきている医療業界、やはりそれらのもとになるデータの量、質ともに増加していくのは想像に難くない。それではそのデータにはどのようなものがあるのか。

 

■PACSデータ

一番に思い付くのはPACSデータである。PACSとは、Picture Archiving and Communication Systemの略で、CR,CT,MRI等の画像データを管理するシステムであるが、これらのシステムの高解像度化と高速化により今後ますますデータは増えていくことだろう。米国のデータではあるが、医療データは年率20〜40%の伸び率で、2015年には600テラバイトを超えると予想されている。そのうち80%がPACSのような非構造化データである。 残念ながらこれらのデータ、現場ではストレージ容量の制限から間引かれたり、削除されるケースもあるようだ。二度と取れないデータかもしれないし、データの蓄積という点でも残念な話である。

 

■ビデオデータ

最近は医療事故、また逆に訴訟リスクを低減するために手術中の映像を記録して保存するケースが増えていると聞く。さらに内視鏡等の動画データも長期に保管しておきたいデータである。まだまだではあるが将来的には2k、4Kのカメラが医療現場にも現われるかもしれない。ちなみに約2時間の4K品質の非圧縮デジタルデータは、約6〜7TBの容量を持つといわれている。実際には圧縮されて350〜500GBになるがそれでもかなりの容量である。

 

■医療のスタイルが変わる1 DNA情報から適切な治療が可能に

ビッグデータの波はここ医療業界にも押し寄せてきている。治療方法も個人のDNAデータと、過去の多くの医療データからパーソナライズしようという動きである。有名なのはアンジェリーナジョリーのケースであろう。今後DNAシーケンサーの低コスト化(いわゆるCMOSを使用した1000ドルシーケンサー)とデータ採取時間の短縮化により、多くの人々が同じようなパーソナライズされた治療が可能になる時代が来るのだろう。ちなみに1人分のDNAデータ容量は思ったよりも小さくて3ギガバイトとも750メガバイトとも言われている。全世界の人口を60億人としても4.5〜18ゼッタバイト程度だ。

 

■医療のスタイルが変わる2 個人の生活習慣データからの予防

ビッグデータの活用は治療だけではない。予防にも役立てられようとしている。つまりセンサーによる生活習慣のモニターと、それを分析した結果からアドバイスするというものである。ここまでくると年中監視されているようで「余計なお世話だ!」という人たちも出てくるだろうが、多くの人がその恩恵として健康的な生活を送れる可能性は高い。またこのアドバイスをどれだけ守っているかによって、今後保険料も変わってくるかもしれない。何とも生きにくい世の中である。

 

■医療業界のIT化

米国でのオバマケア、日本の保険制度から見ると当たり前のように思うがかなりの英断だったようだ。何しろ医療費の高騰は米国経済を逼迫し続けてきたのだから。それでもこの新しい保険制度を実現する根拠もある。McKinsey Global Instituteの予測では、上記のIT、ビッグデータの活用により、300〜 450 ビリオンドル(約30〜45兆円)が節約できるというのだ。もちろんIT投資額がそれをうわまっては本末転倒であるのだが。一つの課題は、これら増え続けるデータをいかに低コストで安全に保管するかである。ここでもIT業界技術の活用、データ階層管理という概念を取り入れる必要があるだろう。特にアクセスが少ないが長期に保管するコールドデータは、ディープアーカイブとして超低コストで保存していく必要がある。言うまでもなく圧倒的に容量単価の低いテープストレージの存在感が、この分野でも高まることになるだろう。


一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA) テープストレージ専門委員会
日本ヒューレットパッカード(株) 井上 陽治
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