JEITAテープストレージ専門委員会コラム
「テープ利用を広げるファイルシステム技術"Linear Tape File System (LTFS)"」

 

LTFSの誕生

LTOなどのテープストレージは、記録容量の大きさ、転送速度の速さに加えて、テープの持ち運びが可能、棚置き状態では消費電力ゼロでエコロジーである、などの利点から、これまでも使われ続けてきました。その用途は、バックアップやHSM型ストレージシステムの下位層といった位置づけが主なものであり、この使い方の特徴としては、特定のソフトウェアが必要になるということでした。テープに書き込みを行ったソフトウェアを利用しなければ、データの読み出しが行えないことは、テープのポータビリティという利点を生かしきれない場合があり、さらに特定のソフトウェアに依存してしまうことは、テープが幅広い業務に使用されることを阻む要因のひとつになっていました。

一方、LTOに注目する新たな業界も出てきていました。M&E(Media and Entertainment)と呼ばれる映画・放送業界です。M&Eではこれまで業務用VTRテープを主な記録メディアとしてきました。今M&Eでは、各種ビデオテープ関連機器の保守期限に起因して、コンテンツのファイル化が進んでいます。業界にはペタバイト単位におよぶ大量のデータが存在し、また今後はコンテンツの再利用や長期保管を考えるに当たり、安価でユーザービリティの高い新たな記録方法が望まれます。そこで先にあげた利点を持つ、テープストレージの中でもLTOがその候補のひとつとなりました。しかし、問題なのはその使われ方です。データの読み書きに特別なソフトウェアを必要としては、M&Eのワークフローに合致しない場合があります。そこで、LTOを使用するファイルシステムが存在すれば、LTOが当時同じように業務用VTRテープの代替候補となっていた大容量光ディスクメディアと同等のユーザービリティを実現できると考え、LTFSの開発が始まりました。そして、2010年のLTO-5の発表とともに、そのLTO-5からサポートされたパーティション機能を利用して、LTFSが誕生しました。LTFSの実装により、これまでの利点を受け継ぎつつ、ポータビリティ・ユーザービリティにも対応できる、業務用VTRテープに変わる媒体としてLTOはさらに注目されています。

 

LTFSの特徴

LTFSは、LTFSフォーマットとよばれる標準規格に従ってテープに書き込みます。パーティション機能によって2分割されたテープエリアの一方をインデックス・パーティション、もう一方をデータ・パーティションと呼び、インデックス・パーティションにファイルのメタ情報を、データ・パーティションにファイルのデータそのものを保存することで、テープ上にファイル形式でデータを保管することを可能にしています。LTFSフォーマットに準拠して書き込まれたテープは、LTFSフォーマットをサポートするアクセスインターフェースがあれば、アクセスインターフェースのベンダーを問わず、データをファイル形式で読み出すことができます。LTFSの利用により、テープカートリッジをUSBメモリーなどと同様の操作性で提供することを可能にしたことで、テープの用途が大きく広がりました。LTFSの詳しい技術情報は、こちらの資料をご覧ください。

2012年1月現在、テープドライブメーカー各社よりLTFS用ソフトウェアが提供されています。ドライブ単体をサポートするものと、テープライブラリをサポートするものがあり、いくつかのパッケージはフリーでダウンロード可能です。さらにLinuxとMacはオープンソースとしてソースコードが公開されています。

 

LTFSで広がるテープの活用分野

LTFSによってテープメディアをファイルシステムとして使用できるようになり、そのLTFSを使ったシステムが各ベンダーより提供され始め、LTFSはオープン技術として広く浸透してきています。これにより、今後より多くの用途にテープが使用されることが期待されます。例えば、監視カメラのデータをLTFS形式でテープに保管して後日必要な日時のデータを参照する、医療分野で患者の検査データを保存し治療に利用するなど、大量データを長期保管し、なおかつそのデータを参照する機会が考えられる分野に可能性が見られます。テープのポータビリティを生かしデータの交換媒体にLTFSを使えば、大量データの転送が安価に行えるだけでなく、データの読み書きも特別なソフトウェアが不要なため、テープを使用する場所や環境を制限しません。これまでのような棚置き管理の面でも、読み出すソフトウェアのライフサイクルを心配する必要が無くなるでしょう。LTFSは既存のワークフローを引き継ぐことが可能なだけでなく、新たな使い方も提案できる技術だと言えるでしょう。

(社)電子情報技術産業協会(JEITA) テープストレージ専門委員会
日本アイ・ビー・エム(株) 渡邊 輝江