JEITAテープストレージ専門委員会コラム
「2010年度委員会活動報告と今後の活動」

2010年度はLTOの第8世代までのロードマップ発表に始まり、テープのファイルシステム化(LTFS)、垂直磁気記録技術によりLTOカートリッジ換算で50TB相当の記録密度を達成したニュースや、5TBの量産カートリッジの発表があったり、これからのデジタルデータの爆発的増加にどのように対処していくかというメッセージが各社から出されてきた一年だったと感じます。

さらには、あるクラウド大手が消えたデータをテープからリカバリーするという報道など、やはりテープは今後の時代には欠かせない技術といえるでしょう。

 

今回は、このように進化し続けるテープストレージ技術について、本委員会で2010年度に行ってきた活動内容について、簡単に説明してみたいと思います。

 

さて、2010年度当委員会では大容量、低コスト、低消費電力、そして高信頼性な可般媒体であるテープストレージの特徴を生かした運用を前提として、以下のテーマで活動を行ってきました。

 

長期デジタルデータ保存
ERMCとのコラボ
暗号化
ラベルフォーマットのJIS化
テープのプロモーション・技術資料作成

 

 

それぞれのテーマについて以下活動内容と成果を説明していきたいと思います。

 

 

長期デジタルデータ保存分科会

 

YouTube、スマートフォンなどが普及しつつあるクラウド時代に、増加の一途をたどるデジタルデータをいかに後世に正確に残せるかという大きな課題に対して、テープストレージ技術の見地から研究を行っています。

2010年度は、デジタルデータの長期保存を考えるにはデータの継続的な移行(データマイグレーション)が必要であるとの前提から、データマイグレーションの必要要件の議論を進めました。

その結果必要要件を以下の3つにまとめ、それぞれに必要とされる条件を洗い出しました。

 

1. マイグレーションシステム(ハードウェア)の要件
2. マイグレーションするデータの要件
3. マイグレーション作業の要件

詳細はJEITAホームページの以下のリンクを御覧ください。
http://home.jeita.or.jp/is/committee/tech-std/std/com02.html#migration

今後は、テープのファイルシステム化を可能にしたLTFSをベースとして、異なるメーカーの異なる種類のメディア間でもデータマイグレーションが容易に繰り返し行えるように、継続的なマイグレーションに適した論理記録データフォーマットの提案・標準化を視野に入れた活動をしていきます。


電子記録マネジメントコンソーシアム (ERMC)とのコラボ

 

電子記録マネジメントコンソーシアム (略称ERMC) は、電子的な記録の利用・推進にかかわる団体の集まりであり、各団体の成果・課題等の情報を交換・共有し、蓄積された各団体の成果、検討結果の普及、啓発活動に取り組む組織として、2010年4月に設立されました。もちろんその活動範囲には電子データを如何に効率的に、正確に管理するかという観点から、最適なメタデータを定義することも含まれます。 前の項で説明しましたように、当委員会ではデジタルデータを継続的かつ正確に後世に残す方法について研究していますが、その活動の一環としてマイグレーションに適したメタデータ(論理記録データフォーマット)の定義を行い、ERMCにフィードバックをしていきます。

 

 

暗号化分科会

 

情報漏洩に対する危惧が高まる中、データ暗号化の要求はますます増加してきています。テープは、記憶容量、低コスト、パフォーマンス、可搬性といった側面から見ても暗号化に非常に適したテクノロジーと言えます。

しかしながら、データ暗号化システムを考えた場合、データを暗号化しただけではシステム要件を満たすとは限りません。データ暗号化の導入を検討する上で、暗号化に使用される暗号鍵の管理やシステム障害等の対処などを含めた検討、運用を行うことが重要なのです。

2010年度は、データを保管する場合、データ暗号化に関してどのような運用がよいのかを検討を行い、暗号化システムの構築/運用、暗号鍵の管理において、事前に検討する必要がある内容を抽出しました。その結果を元に、システム要件(求めるセキュリティーレベル)ごとのチェックリストのドラフトを作成しました。これは単なるチェック項目だけではなく、それぞれの内容がどのように重要なのかがわかる解説つきのものになります。

今後は上記チェックリストを完成し、一般公開していきます。

 

 

JIS原案作成委員会

 

2008年に当委員会では、データ交換用磁気テープとして日本国内で広く利用されているSLラベル形式(EBCDICコードで表現するラベル形式)を、既存のデータ交換用磁気テープの規格(JIS X0601)に追加する提案を行いました。現在、この提案は、JIS X0601の基となっている国際規格ISO1001との関係で凍結されていましたが、2010年度に、ISO/IEC JCT1/SC23国際委員会に委員長が直接赴き、ISO1001に前述の追加を提案し、変更作業を行うことが了承されました。

今後、ISO1001の改定原案の作成/承認を経て、いよいよJIS X0601の改定が進みます。

 

 

テープのプロモーション・技術資料作成分科会

 

2010年度は以下の項目を中心に活動を行ってきました。

 

技術資料のホームページへのアップデート
 
CEATEC講演資料、トラッキング資料、データマイグレーション資料 更新
ホームページ資料アクセス分析開始
JDSFメルマガ
CEATEC講演
 
放送映像業界のファイルシステム化を例に、LTOの長期アーカイブメディアとしての優位性を説明しました。

 

 

2011年度は継続的に技術資料の作成、アップデート、CEATECの講演を行い、また他の業界団体との技術交流を行い、よりテープストレージの活用のメリットを伝えていきたいと思います。

また、2012年には、本委員会発足30周年を迎えるため、30周年イベントの企画準備も行っていきます。

 

以上のように、今後も増加し続けるデジタルデータと、それらを低コスト、少電力で長期にわたり保存するのに最も適した、テープストレージに関する新しい情報を今後も発信していきたいと思います。

 

 



 (社)電子情報技術産業協会(JEITA) テープストレージ専門委員会 (※)
日本ヒューレットパッカード(株) 井上 陽治
※:旧名称:磁気記録媒体標準化専門委員会