JEITA連載寄稿

テープドライブの最新技術(テープ走行速度の動的コントロール)のご紹介
および、CEATEC JAPAN 2008におけるテープストレージの講演案内

今回は、テープストレージの最新技術の紹介です。図解を多用したわかりやすい資料は、JEITA磁気記録媒体標準化専門委員会のホームページに掲載してあります。

http://home.jeita.or.jp/is/committee/tech-std/std/com02.html

ホスト側のデータ転送レートが低い時に発生する現象にリポジショニング動作があります。別名スタート・ストップともいい、バックアップやリストアを行っているときにテープ自体の走行動作を止めて”行って戻る”をおこなう現象です。この現象の発生は、データ転送レートを著しく低下させます。この現象によって引き起こされてしまったデータ転送レートの低さから、テープは”遅い”と誤解を受けることが多々あります。近年はテープドライブの転送レートがさらに高速化(LTO4で非圧縮時120MB/秒、これは1万5千回転HDDの最外周の転送レートに匹敵)していますので、このリポジショニングの発生を抑えることが必須となってきました。

上記、当委員会の資料では、リポジショニングの発生を抑える最新技術(テープ走行速度の動的コントロール)をわかりやすく図解しています。以下の項目が資料の内容です。

- 概要の説明
- リポジショニングをベルトコンベアの動きで例えると?
- リニアテープ記録方式でのリポジショニング動作
- テープ走行速度の動的コントロール
- テープ走行速度の動的コントロールの効果

最初に、テープのリポジショニング動作をベルトコンベアに“一定の濃度”でペンキを塗る作業に喩えて説明してみます。

ベルトコンベア上のタンクにペンキがあるうちは、ペンキを塗っていくことができます。タンクにペンキがなくなると、当然ペンキは塗れなくなりますよね。ベルトコンベアは急に止まれませんから、ペンキが塗れない状態でベルトコンベアは先に行き過ぎてしまいます。そこで、ベルトコンベアの動きを止めて進みを逆転させて、ペンキの続きを塗り始め場所のちょっと前(前のペンキの塗った重なる場所)まで戻します。同時にタンクのバルブを閉め、新しくペンキが補充されるのを待ちます。タンクにペンキが補充されたら、ベルトコンベアを動かしてバルブを開き、再度ペンキを塗り始めます。この説明を読んでもわかりにくいと思いますので、資料のイラストを見てもらったほうがいいでしょう。当然おわかりでしょうが、この比喩では、“ペンキがデータ”、“ベルトコンベアがテープとリール”、そして“一定の濃度”が“一定の記録密度”を表しています。

以前は、テープの送り(走行速度)を一定にして記録密度を一定に保ち、データを書き込みしたり読み取ったりしていました。これでは、テープドライブが求める速度で、データが来なかったりデータを送ったりできないとリポジショニング現象が起きてしまいます。そこで、ホスト側のデータ送受信能力にあわせて、テープの走行速度を動的にコントロールし、リポジショニング動作を極力抑える仕組みが必要になります。その最新技術が「テープ走行速度の動的コントロール」です。簡単に言うと、テープドライブ内のバッファ内のデータ量を監視しながら、その増減にあわせてテープ走行速度を速くしたり遅くしたりして、データの書き込みと読み込みを行うのです(バックアップ時にはテープにデータ書込み、リストア時にはテープのデータ読取り)。

もう少し詳しく、例えばバックアップのとき(テープにデータを書き込む時)を考えてみましょう。この場合、バッファのデータ入力側はホスト側、バッファの出力側はテープのヘッド側になります。バッファに入ってくるデータの入力量とバッファから出ていくデータの出力量を監視し、もし、出力よりも入力が多い状態になると、バッファ内のデータは増加していきます。この状態のとき、もっと出力量を増やせば、入力量と出力量のバランスは保たれます。出力量を増やすということは、テープヘッド側の書き込み量を増やすことになります。これはテープの走行速度を増加すればよいのです。このようにして、バッファ内の状態を監視して、テープの走行速度を動的にコントロールすることでリポジショニングを抑えます。これも、資料のイラストを見ていただくほうが、理解しやすいですよね。

テープドライブって、意外と高度な仕組みをもっている、って思いませんか。

テープドライブのデータ転送性能を引き出すためには、I/O周り(内部バス、インターフェース、ハードディスク装置など))に注意を払ってくださいね。

さて、タイトルのところで書きましたが、CEATEC JAPAN 2008が幕張メッセで開催されますが、JEITA磁気記録媒体標準化専門委員会では、「地球環境にやさしいストレージとは? (テープストレージを取り巻く最新事情)」の講演を9月30日の午後3:30から行います。

http://www.ceatec.com/2008/ja/conference/track/detail.html?lectue_id=90904

委員会が取り組んでいる活動や成果、そして、最新のテープストレージに関するホットな内容をご紹介します。ぜひ、お越しください。

次回のメルマガへの寄稿は、11月になる予定です。



(社)電子情報技術産業協会(JEITA) 磁気記録媒体標準化専門委員会
日本クアンタム ストレージ(株) 吉岡 雄