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序文
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人間は無数の偶然が重なった結果生まれた生物と考えられる。その結果,人間特有の特性を持っている。例えば,多くの動物は,生殖能力がなくなれば,命を落とす。遺伝的にも近いとされる類人猿ですら,閉経すればメスはまもなく死を迎える。しかし,人間はオスよりもむしろメスが長命である。これには何らかの意味があるのである。この確たる理由は不明であるが,人生経験をした人類のメスは家族の面倒見や生活の知恵で子孫繁栄に貢献しているのであろうと推測される。このように人間には独特の文化があり,文化の二大要素(言語と食)の1つである,食は単に単純な肉体の維持のためのみではなく,文化としての食が重要なのである。文化は,感性と大きく関わっているので,人は食の感性である「おいしさ」を必要とし,極言すれば,おいしくないと食べないのである。
おいしいという感覚は,先天的および後天的な原因により,個人により異なる。しかし,基本的な感覚としての受容システムは誰も保持しているので,経験により,変化するし,また,多くの人がおいしいとする感覚に限りなく近づけることが可能である。この意味では,おいしさは病的な原因がない限り,誰でも感じることができる「裏切らない」特性といえる。これに対し,健康維持に関係する機能性は,個人の体験や体調により効果が異なり,経験により効果が変わるものとはいえない。
人の三大欲望は,食欲,睡眠欲,性欲とされるが,食欲は死ぬまで持続する欲望である。また,おいしさは人間を幸せにし,良き人格を形成し,魅力的な人を育むともいえる。おいしさの重要要素であるテクスチャーは,咀嚼による歯の働きに深く関係し,顔の形や健康を支配する。広範囲の物性を持つ食べ物を摂取することは,人間の感性や健康を維持することに有効と考えられる。近年,わが国では,野菜や果物,お菓子などが軟らかくなる傾向にあり,あまり硬いものを食べないので,噛む力が弱くなり顎と顎の筋肉が小さくなった結果,顔の形が変ってしまった(堀準一:東大生の歯医者さんが教える歯と脳の最新科学,朝日新聞出版,2010)のはいかがなものであろうか。そして,これが1つの原因で,声に響きがない人が多くなっているように思うのは筆者だけであろうか。
テクスチャーの研究は,近年急速に進みつつあり,研究者も増えている。このたび,この古くて新しい特性について,この分野の研究に携わっている人々に研究の成果を執筆していただける場を設けさせていただいた。本書で執筆していただいた他にも多くの優れた研究があると思われるが,その点は監修者の怠慢でありお許し願いたい。この刊行物がテクスチャー研究の進歩と食品の開発に役立てば,誠に幸いである。
出版にあたり,原稿執筆に協力していただいた各執筆者,および刊行の業務に御尽力いただいたエヌ・ティー・エスに深く感謝申し上げる。
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2011年,東日本大震災からの一日も早い復興を願いつつ 監修 山野 善正 |
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進化する食品テクスチャー研究 |
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