ハイブリッドクラウド・エコシステムが加速する
デジタルトランスフォーメーション

Storage Magazine 2020年5月号より
Scott Sinclair

デジタルエコノミーは、クラウド導入の増大だけでなく、オンプレミスのデータおよびワークロードの増大をもたらした。ハイブリッドクラウドは、両者の間でシームレスにアプリケーションとデータを移動させる。

現在のIT部門が、ITサービス供給の迅速化を図りつつ、増大するデジタル化要求の管理に取り組む中で、クラウドサービスの導入件数は劇的に増加した。そのため、デジタルビジネスの未来はパブリッククラウドにしかない、と主張する声が多いのは当然だろう。

だが、事はそう早くは進まない。

2019年11月に発行された『ESGマスターサーベイ調査結果:2019年データストレージ・トレンド』のレポートによると、IT部門の23%が、クラウドのオフプレミス・データが年率50%以上のペースで増えていると回答した。これらの回答者は、今後3年間にわたり、これと同じハイペースでデータが増大すると考えており、75%がオンプレミス・データは年率50%以上のペースで増えると予想している。

ちょっと、待ってくれ。一体どういうことだ?

その通り。データの急増を経験している企業は、オフプレミス、オンプレミス両方のストレージデータの増大を予想しているのだ。このことは、デジタルサクセスの実現を目指しているデータ急増中の企業にとって、ハイブリッドクラウド・エコシステムが重要な要素になったことを意味する。

今後数年間の急激なデータ増大を予想している企業のその他の特徴としては、若い(設立20年未満の)企業が少なくない事と、データが自社のビジネスである、あるいは将来そうなると主張している企業が多い事だ。また、彼らは自分たちが「クラウド・ファースト」の企業であると自称する傾向がある。これは彼らが、新しいアプリケーションをオンプレミスにデプロイすべき特段の理由がない限り、デファルトでそれをクラウドにデプロイする事を意味している。

これらの企業はクラウド・ファーストを自称しているにもかかわらず、往々にしてオンプレミス・データの急増を予想していたりする。

コスト・セントリックだけでない、オポチュニティ・セントリックの思考法

ワークロードをデプロイするのが、オンプレミスかクラウドか、また、データを生成・保存するのがオンプレミスかクラウドかは、様々な要因によって決まってくる。決定要因としては、データの秘匿性、法規制の遵守、コスト、パフォーマンス、可用性などがあげられる。

個々のITの意思決定においてコストはそれ程重要な要素ではない、と考えるのはお目出度いが、オポチュニティ(機会)は確かにデジタルビジネスのための意思決定を後押ししてくれる。IT部門は、どうすれば新しいデータへのアクセスを促進し、開発者が求めるパフォーマンスとデータへのアクセスを確保できるだろうか。

データの効果的使用は、ビジネス・オポチュニティへとつながる。データへのアクセス性が向上することにより、これらのオポチュニティの可能性は増大する。

オポチュニティの創造のために、デジタル企業はオンプレミスのデータセンターを存続させつつ、クラウドの導入と使用を加速している。彼らはオンプレミスとクラウド双方への投資を積極的に行い、今後数年間もハイペースで投資を続けていく予定だ。

これは貴社のIT部門にとって何を意味するか

あなたがクラウド・ファースト派であっても、オンプレミス、オフプレミスの選択肢を同等に評価する人であっても、今後はあなたがオンプレミス、オフプレミスが組み合わされた基盤を管理しなければならなくなる、という視点に基づいて、貴社のIT組織、運用、プロセスを設計すべきだ。

貴社のオンプレミスのデータセンターは、古くて従来型のワークロード用で、クラウドは新しくてデジタルトランスフォーメーション志向のワークロード用だ、などという思い込みをしてはならない。事はそう単純ではない。両方とも最新のものにする事を目指すべきだ。クラウドと最新のデータセンター双方の敏捷性と柔軟性を利用すればよいのだ。私が勤めているEnterprise Strategy Groupの報告では、急激にデータが増えている企業には、オンプレミスで大量のフラッシュ・ストレージを使う傾向があり、これらフラッシュ・ストレージへの投資の結果として、明らかにビジネス利益が上がっている。

データ急増企業の特徴

データとアプリケーションを、一方的にクラウドに移行するものとしてではなく、むしろクラウドとオンプレミスとの間を行き来するものだ、と考えてもらいたい。その結果として、オンプレミス環境もオフプレミス環境もカバーできる、管理・仮想化・オーケストレーションのプラットフォームに投資することになるだろう。さらに、コンテナの導入が増えるのに伴って、ハイブリッドクラウド・エコシステム間でアプリケーションとデータの移動が増えると考えた方が良い。

個々のITスタッフが、できる限りオンプレミス基盤とオフプレミス基盤両方の責任を持つように組織を組み替えよう。責任の分担が緻密であればあるほど、アプリケーションやワークロードに関して習得した知識をチーム内でうまく共有できるからだ。企業のビジネス・ニーズに基盤を合わせて行くことによって、デプロイメントの意思決定が最適化され効率的であるかどうかも確認できる。

ハイブリッドクラウド・エコシステムを実現する製品と技術

オンプレミスとクラウドのハイブリッド環境の目標実現を支援する製品と技術が複数のベンダーから出ている。

例えばVMware Cloud Foundationは、ハイブリッドクラウド管理やアプリケーションの移動などを簡易化してくれる。大手のクラウド・プロバイダーは、オンプレミス基盤とオフプレミス基盤両方をカバーするニーズに取り組んでいる。AWS Outposts、Google Cloud Platform のAnthos、Microsoft のAzure Stackはその良い例だ。また、ほとんどのオンプレミス・ストレージベンダーがハイブリッドクラウド製品を提供している。Dell Technologies、 Hewlett Packard Enterprise、Hitachi Vantara、IBM、NetApp、Pure Storage、Qumulo、IBM Red Hat、その他多くのベンダーから製品が出ている。

モダンビジネスはデジタルビジネス

Enterprise Strategy Groupの調査によると、ITの意思決定者の49%が「データが我々のビジネスだ」と語ったという。データを使って、より効率的になり、より成果が上がる経営を行い、新たな収益の機会を作り出すことは、ほとんど全ての企業にとって最優先の目標だ。

デジタルビジネス成功のためには、(出来れば)全ての新規基盤を決定する際、いかに容易に貴社のシステムが、より大規模なハイブリッドクラウド・エコシステムに統合できるか、という視点で評価する必要がある。ほとんど全てのベンダーがソリューションを持っている。貴社のシステムが、どのように新しい基盤製品およびサービスに適合するかをよく検討、理解したうえで、適切に導入を進めよう。

Scott Sinclairは、Tech Targetの一部門ESGのプラクティス・ディレクター。

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