ストレージの買収はなぜうまく行かないのか

Storage Magazine 2020年11月号より

NetAppによるSolidFire買収やHPEによるSimpliVity買収は、大手ベンダーが数億ドル、時として数十億ドルをかけて買収を行う際に待ち受けている、いくつかの落とし穴を示している。

他の業界と同じように、データストレージ業界も2020年のパンデミックによる景気の低迷によって打撃を受けた。それ以前の数年にわたる大手ベンダーによる中小ベンダーの買収は、この状況を改善する効果を出せなかった。大手ベンダーに、買収後の確固たる戦略が無かったためだ。

例えば、ストレージ業界のリーダーNetAppとHewlett Packard Enterprise (HPE)は、2020年の夏に社員を削減した会社だが、どちらの場合も買収によって編入されたエンジニアリング・チームが打撃を受けた。NetApp(2015年に8億7千万ドルでオールフラッシュのベンダーSolidFireを買収)は、SolidFireのエンジニアリング要員をごっそり解雇した。一方、HPEはその2年後、6億5千万ドルで買収したハイパーコンバージド・インフラストラクチャー(HCI)のスタートアップSimpliVityの中心だった社員をも人員削減の対象にした。

これらの人員削減を見て、私はデータストレージ業界における買収について、以下のことを考えさせられた。

  1. 何故買収が起きるのか。
  2. 買収を成功に導くための企業側の努力とは。
  3. 買収されたベンダーのユーザーは、この状況をどのように思うか。

ストレージ・ベンダーは、一般的に次の二つの理由のいずれかによって、企業を買収する。

  1. 技術を買う。
  2. 製品ラインを丸ごと買う。

ベンダーが技術買収を行うのは、通常エンジニアリングの才能を手に入れ、自社の製品に機能を追加するためである。製品ラインを丸ごと買うことによって、ベンダーは自社のポートフォリオの足りないところを埋めるか、現在のラインより優れたラインを手に入れることができる。企業が競合を無くすためだけの目的で、ライバル企業を買収することも珍しくない。

NetAppによるSolidFire買収

NetAppによるSolidFire買収やHPEによるSimpliVity買収は製品の買収を目的として行われた。SolidFireアレイやSimpliVity HCIアプライアンスは既に市場に出ていたからだ。NetAppはおそらく、自社で構築しようとしたFlashRayのラインの失敗後、オールフラッシュ・ストレージによる市場参入の遅れを取り戻そうと焦るあまり、過剰な投資を行った。しかし実際のところ、NetAppがSolidFireを買収した2015年後半には、自社のフラッグシップであるFASアレイのオールフラッシュ版の開発によって、NetAppでは自社のオールフラッシュ製品成功の目途が立っていた。このシステムAFF(All-Flash FAS)は、後に成功した製品となった。NetAppはSolidFireを、買収以前からそうであったように、クラウドサービス・プロバイダー市場参入のための製品として位置づけていた。

とはいえ、NetAppは結局SolidFire買収後の優れた戦略を思い付けなかった。AFFはフラッシュアレイとしての橋頭堡をすでに築いていたので、NetAppは自社のクラウド戦略を変更し、ユーザーがパブリッククラウドでNetAppのオンプレミス・ソフトウェアを稼働できるようにした。

同社は、SolidFireをHCIプラットフォームにしようとさえした。しかし、NetApp HCIは名ばかりのハイパーコンバージェンスだった。この製品には、真のHCIが持っているサーバーと仮想化の統合が欠けていたからだ。NetAppはこれをディスアグリゲーテッドHCIと呼んでいる。しかし市場にこの製品はまだ残ってはいるものの、今ではニッチなユーザーのみをターゲットとしている。

HPEによるSimpliVity買収

HPEは自社独自のハイパーコンバージド製品の開発に失敗した後、SimpliVity(こちらは真のHCI製品)を買収した。初期の数少ないHCIスタートアップの中で、SimpliVityはNutanixの約1年後に市場に登場した。SimpliVityが一般で販売されるようになるまでに、Nutanixは仮想デスクトップ基盤で相当数の顧客層と、仮想化の巨人であるVMwareとの強固な関係を築き上げていた。

SimpliVityはこの強固な同盟に追いつくのに手間取っていた。HPEとSimpliVityのコンビはお似合いのように見えた。HPEはサーバーとストレージの大手ベンダーであり、市場に向けてHPEのProLiantサーバー上でSimpliVityのソフトウェアをクラウド的な使用をアピールするのは、強力なセールスポイントになるはずだった。

しかし、事はそのように運ばなかった。HPEはDellに一度もまともな挑戦を仕掛けたことがない。Dellは、Nutanixの初期OEMパートナーであり、PowerEdgeサーバー上で稼働する自社のVMware vSAN HCIソフトウェアを有するハイパーコンバージド市場の巨大企業である。SolidFireを買収したNetAppのように、HPEもSimpliVity買収後にHCI戦略を変更した。

2019年にHPEはSimpliVityチームに2発のボディブローを食らわした。一発目は、Nutanixとパートナーシップを結んだことだ。これによってNutanixは、ProLiantサーバーで稼働するソフトウェアとして販売できるようになったが、SimpliVityにとっては直接の競合になった。2発目は、NetApp HCIと同じような動きとして、HPEはNimble Storage買収に関連して、ディスアグリゲーテッドHCI製品を作ってしまったことだ。

HPEは今でもProLiant上のSimpliVityを販売しているが、これは数製品あるHPE HCIの中の一製品にしか過ぎない。HPEはHPE GreenLakeサービスプログラム経由でのNutanixも提供している。

何故このような買収が起きるのか

NetApp-SolidFire、HPE-SimpliVityどちらのケースについても、何故これらの買収が起こったのかを考えなければならない。買収した会社、買収された会社は、取引後業容が向上したのだろうか?買収のメリットを享受したのはどちら側のユーザーだったのだろうか?

それどころか、NetAppもHPEも買収と買収後の確固たる戦略の不在によって、業容が悪化したという噂が立った。例えばNetAppは、クラスターNAS技術を持つSpinnaker Networksを買収するのに3億ドルを使い、Spinnakerのプログラムを自社のON Tap OSに統合させるのに10年以上の歳月を要した。この取引は、NetAppの内外でSpinnakerの大失敗として知られるようになる。NetAppはまた、(それぞれ数億ドルを払って)Onaro、Topio、Engenioなどの会社も買収しているが、これらのビジネスや製品が大幅に強化されることはなかった。

もちろん、NetAppは打率を改善すべく最近も買収を行っている。PlexistorStackPointCloudなどの個別企業の買収、2020年のクラウド関連企業Talon Storage、 CloudJumper、Spotの買収がそれである。しかし、これらの企業のどれ一つとしてSolidFireほどのポテンシャルを持っていない。

HPEは2015年に、Dellとの入札競争において23億5千万ドルで3PARを買い取る、というホームランを放った。これによって、HPEは待ち望んでいたストレージアレイのフラグシップを手に入れた。HPEはNimbleの分析ツールInfoSightを買い取り、これを自社の他のストレージやサーバーのハードウェアに移植した。しかし、これは10億ドルの値札に見合う買い物だったのか?HPEは、LeftHand Networksを買収してロー・エンドのiSCSI SAN製品を作ったが、鳴かず飛ばずで終わってしまった。HPEが買収したその他のストレージを覚えているだろうか? Ibrix、AppIQ、PolyServe… 多分、覚えていないだろう。

買収する側の会社が、何を買おうとしているのかを理解しておくのは大事なことだ。Symantecは2005年にストレージ・ソフトウェア大手のVeritasの買収に135億ドルを費やしたが、Symantecの経営者たちはVeritasのデータ保護のどこをどうすればセキュリティと連携できるのか、皆目見当もつかなかった。Veritas製品戦略は、Symantecの中で脇に追いやられ、ユーザーはそれに気づいた。SymantecがVeritasを2015年に売却した時、Veritasの価値は80億ドルに下がっていた。10年間で55億ドルの下落である。

Ciscoが2013年、オールフラッシュ・アレイのスタートアップWhiptailを4億5千百万ドルで買った時、Ciscoはこの取引は、ストレージの買収ではなくサーバーの買収だ、と主張した。Ciscoがそれから2年の内にWhiptail Invicta製品の販売を中止した時、Whiptailは跡形もなく消えてしまった。

頭が良い会社は、自分たちが買収で何を求めているかを知っているし、買収が成功するように全力で取り組む。ストレージのプロたちは、EMCが買収戦略において最も優れていると考えていた…DellがEMCを買収するまでは。

1999年、EMCはData Generalの買収に11億ドルを投じた。EMCは買収によって入手したClariionディスクアレイから大きな見返りを得た。EMCがディスク製品販売の枠を超えようと思った時、同社はバックアップ・ソフトウェアベンダーのLegatoを13億ドルで、セキュリティの会社RSAを21億ドルで、さらにはサーバー仮想化の先駆者VMwareを特価の6億3千5百万ドルで購入した。

EMCは、コンテンツ管理ベンダーDocumentumを17億ドルで購入したものの、それを置く適切な場所を見つけられなかった。しかし、それ以外の買収はうまく行った。その後、同社がクラスターNASベンダーIsilonとディスクバックアップ・ベンダーData Domainに惨敗した時、同社はこれらの会社を買収してそれぞれの市場でリーダーになった。

EMCが買収に成功したのは、同社が買収後の計画を持ち、それをやり通したからだ。それでも、これら全ての買収によってもEMCを救うことはできなかった。同社は2016年、670億ドルでDellに買収された。Dellはそれ以降、大きなストレージの買収を行っていない。

賢いストレージの買収を行う会社は、この業界にもはや存在しないのか? もし思い当たる会社があれば、連絡して欲しい。

著者略歴:Dave Raffoは、Evaluator Groupのシニアアナリスト。2007年から2021年まで TechTargetのエグゼクティブ・ニュース・ディレクターとエディトリアル・ディレクターを務めた。

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