2021年ストレージ業界の最優先課題を反映する5つのITバズワード
Storage Magazine 2021年2月号より
Dave Raffo
成熟したIT領域の常として、ストレージ業界の変化のペースは落ちてきた。それでも、2021年あなたが知っておくべきストレージ基礎技術のバズワードは、まだたくさんある。
他のITの領域と同じように、データストレージの変化は革命的というより進化的だ。
もちろん、進化のペースは年ごとに変化する。しかし、これから起こることの予測を確実にするために、これまで起こったことについて考察しておくのは決して無駄ではないだろう。例えば、ほとんど世界中のビジネスのやり方を変えたパンデミックによって、2020年の変化のペースは劇的に速まった。
オフィスが閉鎖されて以降、データセンターはITに対してこれまでのような影響力を持たなくなり、人々は家から仕事をするようになった。ITチームは、この変化をもたらした新型コロナウイルスと同じくらい、急速に拡散するデータが確実かつ安全に保管されるように大急ぎで対応を行った。
これら全ての事が2021年の私たちに伝えるものは?
さあまず手始めに、この先待ち受けているもののために周到な準備をして、別なパンデミックや別種の大きな混乱、およびそれに伴う経済の停滞によって不意打ちを喰らわされないようにしなければならない。我々はこれから起こることについてのカンニングペーパーとして2020年を使えるし、IT世界は昨年の最初の頃よりも、むしろ昨年中盤によく似た様相を呈するだろうと予測もつく。
パンデミックの前から、データはデータセンターを出てエッジへと(主にパブリッククラウドに)移りつつあった。今回の危機はこの傾向を加速しただけだ。
自社のストレージをクラウド内にあるかのように管理するコンセプトはIT界に根付き、今日(こんにち)に至っている。大手ストレージベンダーの誰もかれもが、自社の製品をサービスとして提供し始めたのも、これが理由だ。そのコンセプトは、オンプレミス・ストレージにあたかもクラウドストレージのような動きをさせる、ということである。
「データセンターがもはや、データのセンター(中心地)ではない世界に対応する計画を立てることです。どんなところでもサービスを提供しなければならないようになるでしょう。」2020年12月のGartner ITインフラストラクチャ、オペレーション & クラウド戦略コンファレンスで、Gartnerリサーチ・バイスプレジデントのJulia Palmerはこのように語った。
2021年、あっと驚くようなストレージ技術が登場するなどという期待はしないでもらいたい。2020年11月に発表された、プライマリ・ストレージアレイのGartnerマジック・クアドラントにはリーダーとして8社が挙げられているが、ビジョナリー(概念先行型)は1社もない。これは、技術がレガシーに集まり、革新型には不足していることを示している。とはいえ、ストレージ世界に何の変化も新しいものもない、ということではない。それらは、確かに存在している(それが何かを知るには、この記事を読み進む必要がある)。しかし、ストレージの市場は、動きが遅い大手のプレイヤーが支配する成熟した市場だ。変化が起こるのには相当時間がかかる。
昨年という年は、あらゆることが突然変わっても、全部を最初からやり直すことはない、ことを我々に教えてくれた。何が起ころうと、我々にとって重要なストレージ技術は沢山ある。ここに挙げるのは、2021年最も重要かつその一つ一つを知っておかなければならないITバズワードである。
ハイブリッドクラウド・インフラストラクチャー
2021年はHCIについて沢山の話題が出るだろうというのは、皆異論がないことと思う。しかし、それは我々がこの数年の間に知識を深めたHCIと同じHCIだろうか?
「2年ほど前、私たちはHCIとは『ハイブリッドクラウド・インフラストラクチャー*(hybrid-cloud-infrastructure)』の略だ、と公に明言しました。」ストレージベンダーNetAppのクラウド基盤ユニット部長のBrad Andersonはこう語る。「人々は、これを『ハイパーコンバージド・インフラストラクチャー』に掛けた言葉遊びだと思ったのですが、これは私たちNetAppの戦略だったのです。最近になって私たちが(HCIベンダーから)聞くのは、『ウチもハイブリッドクラウド・インフラストラクチャーやってます。』です。人々は、ますますクラウド的なエクスペリエンスを求めるようになっています。」
他ベンダーが「HCIとはハイブリッドクラウド・インフラストラクチャー」であるという主張をまねた、というAndersonのコメントは正しい。ハイパーコンバージド・インフラストラクチャーのパイオニア、Nutanixもそのうちの1社だ。あなたは、今はVMware vSAN、Nutanix、Dell EMC VxRail、Cloudian HyperStore、HPE SimpliVityが出しているアグリゲーテド・ハイパーコンバージド・インフラストラクチャーに注目しているかもしれない。あるいは、NetApp HCI、HPE Nimble dHCIなどのディスアグリゲーテド・ハイパーコンバージド・インフラストラクチャーかコンポーザブル・インフラストラクチャーを検討しているか。いずれにせよ、あなたがまだハイブリッドクラウドを検討していないとしても、(訳注:ベンダーがハイブリッドクラウド・インフラストラクチャーに向かって動き出しているため)おそらく、じきに検討するようになるだろう。
上図でNutanixがハイブリッドクラウド・インフラストラクチャーの仕組みを解説している。
最も効率的で最もコストパフォーマンスが良い方法でハイブリッドクラウド・インフラストラクチャーの構築に着手することによって、2021年はストレージとデータセンターに関する多くの決断がなされそうだ。これらは全て「データセンターのストレージをクラウドストレージのようにする」戦略の一部なのだ。
QLCフラッシュ
NVMeは未だに市場において最もホットなフラッシュ技術であり、当然最も高速である。しかし、昨年主役に躍り出て以降、NVMeは言葉としての鮮度を失ってしまった。今ではクアッドレベルセル(QLC)がホットな話題になっている。主にこれが違うタイプのフラッシュだから、という理由からだ。
今日(こんにち)まで、SSDが最も高速のHDDを市場から追い出していた。毎分1万5千回転のHDDは、もう博物館に行かないと見られないかもしれない。QLCはこれとは違う。これは、回転の遅い、低価格大容量HDDの置き換えを狙った最初のSSDライクなフラッシュなのだ。
HDDは無くならないだろう。ただし、QLCがオールフラッシュ・システムのNVMeと組み合わされた時、それはコールドデータの保存先として、ひとつの選択肢になりうる。Pure StorageとVast Dataはすでにそのような製品を持っており、他ベンダーも追随するものと思われる。
エッジ
我々はITエッジの時代にいる。今回のパンデミックは、この傾向を加速しただけであり、また今後も我々と共に残る2020年の進歩のひとつである。データストレージに境界はない。かつてデータセンターのSANに常駐していたものが、今ではリモート社員の自宅にある全てのラップトップに常駐しているものと思われる。Gartnerは、2022年までにデータの70%がデータセンターの外で生成され処理されるだろう、と予測している。そして、これらのデータのほとんどは、決してデータセンターにたどり着かないかも知れないのだ。
この状況は、リモートデータに関して、我々がかつて見たことがないようなセキュリティ、保護、管理の問題を作りだす。このことには、今年さらに注意を払うべきだ。リモートワークが多くの企業で、緊急事態対応から恒常的な勤務形態へと進化するからだ。
DPU
あなたはこう聞くかも知れない、「DPUって何?」と。おそらく、2021年の内にあなたのストレージを増強するためにデータ処理装置(DPU:Data Processing Unit)を使うことはないだろう。しかし、ほぼ確実にこの用語を耳にするだろう。
Nvidia Corp.は自社のBlueField-2に搭載されたDPUの最も熱心な提唱者である。また、潤沢な資金を受けたスタートアップFungible Inc.は、DPU技術に基づいたストレージ製品を2020年に出荷した。しかし、NvidiaとFungibleのDPUは同じではない。
NvidiaのDPUは、Mellanox Technologiesから買収したSmartネットワーク・インターフェース・カード(SmartNIC)技術の機能であり、CPUの演算処理をオフロードするものだ。NvidiaのライバルXilinx(Advanced Micro Devices(AMD))による買収が進行中)とChelsio Communicationsは同様のSmartNICを持っており、DPUという用語が流行っているので、自社製品をそう名付けるかもしれない。
FungibleのDPUはデータパケット移動を処理し、ストレージ・リソースを管理するためにスタートアップTrueFabricのソフトウェアと連動する。もうひとつのスタートアップNebulonは、広い意味ではDPUと呼びうるストレージ処理装置を出しているが、ストレージ管理はNebulonのクラウドに移動して行われる。
上図は、Fungibleデータ処理装置を使った「ワンチップ上のコンポーザブル・インフラストラクチャー」
DPUに関して覚えておかなければならない最も重要なことは、この用語で売り出されている全ての製品が同じものではなく、貴社のニーズに合わないかもしれない、ということだ。
Kubernetes用ストレージ
コンテナの平均寿命は数分だが、ほんの数秒しか存在しないこともよくある。では、我々は何故このつかの間のサービスのために、ストレージを供給することに気を使うのか?
実は、これは全て管理に関わることなのだ。コンテナの導入が増え、その上にデプロイされるアプリケーションが増加するにつれて、オンプレミスとクラウド内のKubernetesがデータを管理する必要性が増大している。とはいえ、Kubernetesは整合性を持ち、永続的でもあるストレージ・レイヤーを必要とする。
G2020年、プライマリ・ストレージベンダーのPure Storageとバックアップ・ソフトウェアベンダーのVeeamが、それぞれKubernetesストレージの管理をするスタートアップ企業を買収した。どちらの場合も、買収を仕掛けた側のベンダーは自社にKubernetesについての先行した技術を持っていたが、買収によってその開発を加速する方向に舵を切った。
2021年、我々はこの手の買収をさらに目にするかも知れない。それは、とりもなおさずKubernetesストレージ管理が本当に必要になってきたことの兆候と言えるだろう。
著者略歴:Dave RaffoはTechTargetエグゼクティブ・ニュース・ディレクター。TechTargetでプライマリ・ストレージ、データ保護、ハイパーコンバージェンス部門のニュースを統括している。
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