新型コロナウイルスの影響を受ける
2021年のエンタープライズ技術動向(後編)

Storage Magazine 2021年2月号より
Alan R. Earls

レジリエンシー

2020年に引き続き2021年も話題となるテーマは、ビジネスの囲い込みとITのレジリエンシー(復元力)だ。

「ざっくり言うと、急いでその場しのぎのソリューションをかき集めた企業の多くが、今になって、恒久的なソリューションへの投資を検討しています。」 ESG(ESGは、Enterprise Strategy Group の略称。同グループはTechTargetの一部門である。)のアナリスト、Bob Laliberteはこう語る。昨年、新型コロナウイルスによって起きた一連の出来事によって、企業はリモートの社員と協業してビジネスを継続する体制を確立するために、長期的なIT製品に投資する必要性が明らかになった。

基盤投資の分野の代表的なものとしては、協業ツールとプラットフォーム、VDIとデスクトップ・アズ・ア・サービス環境、アプリケーション全般のクラウドへの移行などがあげられる。

昨年の春行われたESGのアンケートによると、新型コロナウイルスによって今も続いている最も大きな影響は、

  1. 日常業務へのオンライン協業ツールの広範な適用(30%)
  2. クラウド・アプリケーション導入の増加(19%)
  3. パブリッククラウド基盤使用の加速(18%)

となっている。

Laliberteによれば、特にオンプレミスのデータセンターへの新型コロナウイルスの影響についての質問に対する企業の回答は、

  1. 最優先でパブリッククラウド・サービスの使用を増やす(19%)
  2. コンピュート、ストレージ、ネットワークを横断して基盤を抽象化・自動化する
    ソフトウェアを使用する、ソフトウェア定義データセンター戦略の実施(19%)
  3. データセンター基盤管理のためにリモート監視や管理技術の使用を増やす(18%)

であった。

Laliberteは、ESGの『2021年テクノロジー支出予定調査』は前述の変化を裏付けるものになっていると言う。実際、2021年のテクノロジー支出が、2020年の現実の予算に比べて、何故増加するのかという質問に対し、最も多かった回答が、事業の大きな混乱につながる新たな事態が発生した際、自社のIT基盤をより柔軟で復元力の高いものにしておくために、長期的な技術戦略の実施にむけ投資をする、というものだった。

今後、1年から1年半におけるオンプレミス・データセンターへの重要な投資分野は何か、という質問に対しては、

  1. データ・バックアップ&リカバリの改善(37%)
  2. オンプレミスでのハイパースケール・クラウドの利用を増やす(34%)
  3. HCIのデプロイ(34%)

であった。

が上位3つの回答だった。

「基本的に、IT環境がデータセンター、パブリッククラウド、エッジ・ロケーション間に分散されるにつれて、システムはますます複雑になっていきます。そのため企業には、IT環境の簡素化を支援するソリューションが必要になります。」とLaliberteは言う。言い換えれば、企業は定常的な手作業の自動化をさらに推し進める必要がある。そこには、製品に組み込まれたAIや機械学習技術が関わってくるかも知れない。簡素化には、分散環境を横断する視認性を確保するため、一元管理製品(クラウドベースのものが一般的)も必要になるだろう。

「多くの企業にはまた、設備投資型モデルから従量課金モデルに移行したいという気持ちがあります。」と彼は言う。これらの環境で生成されるデータ量が増え続ける状況においては、インテリジェント・データ管理製品が重要になるだろう。また、これらのサイトとリモートの社員を結ぶネットワークは、重要な役割を担うだろう。「私は、勤務形態が在宅勤務(work-from-home)である社員向けに、これから多くのSD-WAN*訳注1(またはSASE*訳注2)ソリューションが出てくると思います。」Laliberteは、こう語る。

訳注1:SD-WANは、ソフトウェア制御によってネットワークを動的に管理・運用する技術「SDN(Software Defined Networking)」をWAN(広域ネットワーク)に適用したもの。

訳注2:SASE(サシー):Secure Access Service Edgeの略で、Gartnerが作った用語。ユーザーやデバイスがいつでもどこでもクラウド上のアプリケーション、データ、サービスに安全にアクセスできるようにするセキュリティフレームワークであり、安全かつ迅速なクラウドの採用を実現するもの。

新型コロナウィルス禍におけるネットワーク投資の概要

モダン・ストレージとマルチクラウド

データストレージに特定した重要なエンタープライズ技術に関して、Laliberteは2020年8月に発表された『マルチクラウドの未来におけるモダン・ストレージの役割』というESGリサーチ・インサイト・ブリーフ(調査概要報告書)に言及した。同書は、パブリッククラウドとプライベートクラウドの急激な普及、およびマルチクラウドがオンプレミスにとって何を意味するかに焦点を絞って、彼の同僚が書いたものだ。

このレポートは、所謂「モダン」ストレージの価値に特に注力して書かれている。そこではモダン・ストレージとは、簡単に拡張出来て比較的低コストでクラウドのように扱える機能を備えているかどうかだと定義されている。ESGのアナリスト達の主張によれば、モダン・ストレージはより効率的なクラウドの導入を可能にする、という。その主張を裏付けるために、彼らは以下のアンケート結果を引用している。

モダン・ストレージを持っていると申告した企業の約89%が、いち早くハイブリッドクラウドに取り組んだことによって、企業の価値が上がった、と答えた。

  1. 内57%の企業が前倒しでクラウド・プロジェクトを完了した。
  2. 65%が予算内でクラウド・プロジェクトを完了した。
  3. 53%がハイブリッドクラウドの目標達成に非常に自信を持っていると断言した。

ESGは次のように結論付けている。「企業は、ハイブリッドクラウドに対して『良いとこ取り』的アプローチをすることによって、大規模にクラウドのメリットを享受できる。そこでワークロードは、業務要件に応じてクラウドまたはオンプレミス環境にデプロイされ、DevOpsチームによりクラウドの種類に依存しない定型的な手法で管理され、ユーザーに予測可能なパフォーマンスと可用特性を提供する。」

新型コロナウィルス禍におけるネットワーク投資の概要

汎用コンピューター用クラウドストレージ

増大するクラウドの影響に直面している、もう一つのエンタープライズ技術が汎用コンピューターである。2020年秋のGartnerレポート「クラウドストレージ管理によって変わり始めた汎用コンピューター・データ」の中でアナリストJeff Vogelは、汎用コンピューター・ベンダーに次のような注意喚起を行っている。「従来型のストレージのコストとアーカイブ・データをもっと利用したいというニーズによって、ストレージのこれまでのあり方は劇的な変化を迎えるだろう。」

Vogelによれば、2025年までにバックアップとアーカイブに関連する汎用コンピューター・データの丁度3分の1がクラウド(ほぼ間違いなくパブリッククラウド)に置かれることになると言う。現在、その割合は5%以下である。クラウドストレージとデータ保護管理の進化が、この動きを加速している。

Vogelが特に企業に勧めているのは、コストが高く柔軟性に欠けるオンプレミス・テープへの忠誠心を捨て去ることだ。オンプレミス環境のホスティングと管理に関わる全てのコストをきちんと計算してみれば、クラウドに移行することによってストレージのコストは半分程度に減るだろう、とVogelは考えている。

クラウドへの大規模な移行に社運を賭けている、Model9 Ltd.のCEO兼創業者Gil Pelegは、汎用コンピューター・ベンダーが尻込みしてきたのは、従来のやり方に固執しているからだけでなく、汎用コンピューター環境の外にデータを移動するのが技術的に難しいからだと考えている。

第一に、ほとんどの移行手法ではCPUに相当量の仕事をさせる必要があり、主要なバッチジョブ、トランザクション処理、その他の処理の邪魔になる可能性がある。しかし具体的には、IBM z Systems Integrated Information Processorエンジンのようなソフトウェアをより賢く使えば、データ移行のために汎用コンピューターの他の要素を利用できる、とPelegは言う。

最も重要なのは、汎用コンピューター・データの独自フォーマットを、クラウド分析ツールや非汎用コンピューター・アプリケーション用に変換することも、クラウド内で行えるようになったことだ。さらに、汎用コンピューターも負荷が下がった、とPelegは言い添えた。

「我々は、クラウドストレージとクラウド分析への関心が高まっているのを、この目で見ています。」Pelegは言う。彼はまた、最近Intel CapitalがModel9社に投資したことに言及し、両社はこの市場の変化に対して同じように自信を持っている、と語った。

2021年トピックス最前線

以下は、2021年に入り頻繁に耳にすることになると思われる、エンタープライズITのトレンドだ。

ストレージ基盤から見たデジタル・トランスフォーメーションとは、その大半がリモートワークにおけるセキュリティ問題への取り組みと映るだろう。「現行のセキュリティ・モデルは、未だにデータセンターとファイアウォールを持つことがベースになっています。電話会議やZoomを使っている人々にとって、エンタープライズ・セキュリティは劇的な変化を遂げる必要があるでしょう。その行程は険しく、暗号化が大きな鍵になりそうです。」

-- Shiva Ramani, iOPEX Technologies CEO



「数年前には、設備投資を削ることに力が注がれていました。多くの会社が、設備投資を減らすことに成功しましたが、今度は運用コストの問題に直面しています。人件費とソフトウェア費用の次に、大きな運用コストはどこにあるでしょう? クラウド、VM、コンピュート、コンテナの中でしょうか?みんなが引き締めを図っている時、問うべき課題は、『コストを見つけて取り除くチャンスはどこにある?』でしょう。システムを一つの場所から別の場所に、あるいは一つのラックから別のラックに移したからと言って問題は解決しないでしょう。」

-- Greg Schulz, StorageIO創業者兼シニア・アナリスト

コンソリデーションと効率性

GartnerのアナリストDavid Cappuccioは2020年12月のGartner IT基盤、運用、クラウド戦略カンファレンスで次のように語った。

「全自動データセンターという言葉を、過去20年間で聞いた以上に、この6ヶ月半で頻繁に聞くようになりました。」全自動データセンターはおよそ40年の間語られてきたにもかかわらず、人々はこれを実行することの価値に急に気づき始めた、と彼は言う。

Cappuccioは、全自動運用への移行が突然起きると予測しているわけではないが、コンソリデーションと効率性への動きが今後も続く、と見ている。

データセンターのスペースの有効利用について、Cappuccioは出来るだけ垂直密度を最適化することを推奨する。「ハイパーコンバージェンスを推進しましょう。そして可能ならば、物理変化を最小化するために、水平方向に拡張するのと同じように垂直方向に拡張できる環境を構築することです。」彼はこう説明する。

HCIデータセンターのようなシステムから始めて、基盤管理に電源や空調の監視を行わせ、さらに「何が起きているのか、そして何かが起きるずっと前に、何が起きそうかが分かる環境を構築するためのベースとなる分析をさせるのです。」Cappuccioは言う。

最後にCappuccioはこう呼び掛けた。「全自動環境に向かって進んで行きましょう。」

(完)

Alan R. Earlsは、ボストンを拠点としてビジネスと技術を中心とした記事を書くフリーランス・ライター。

 

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