クラウドからオンプレミスへの回帰が始まっている


企業のパブリッククラウドへの熱狂は冷め、今やオンプレミスへの回帰が始まっている。ワークロードとストレージ・リソースを自社に戻す企業が日々増えている。


著者:Jon William Toigo
Storage Magazine 2月号より

 

昨年9月、私は磁気テープメーカーのFUJIFILM Recording Media U.S.A.が主催するイベントに出席した。そこで、ストレージ業界の切れ者たちの素晴らしいベンダー・プレゼンテーションを聞いた。彼らのプレゼンでは、フラッシュ、ディスク、テープ、さらには光ディスクなど、お気に入りのタイプのストレージの最新のロードマップが更新されていた。プレゼンターは、引き続きテープの存在の重要性と(少なくとも出荷容量における)伸びを何度も強調した。

プレゼンテーションを聴いていて、2つの小さな動向が目に止まった。マルウェアとランサムウェア、そして451 Research社が2017年のレポートで「クラウドからの回帰」と呼んだものである。このレポートの中で20%の企業が、コストが原因で1つまたはそれ以上のワークロードをパブリッククラウドからプライベートクラウドに移した、と回答している。マルウェアやランサムウェア(これについてはこのコラムで以前書いたことがあったが)は、ベンダーがテープやその他のメディアを販売するネタに使っている。

Carbon Blackのセキュリティ戦略担当のDavid Balcarは、クラウドをセキュリティ・リスクを何倍にも増やす要因として位置づけ、現在の状況を狂った恐ろしいものと要約する。MeltdownやSpectreなどのサーバーの新たな脆弱性は、パッチ処理で対応するのは非常に困難で、回避するのにダウンタイムが生じてしまいがちだ。これらの脆弱性は、クラウドに見られるような大規模なサーバーファームの環境では、はるかに危険性を増す。おそらく、このことが、クラウドからの回帰の背景となっているのだろう。

 

クラウドからの回帰の背後にあるもの

無論、私はこのイベントの聴衆が心の底からクラウドを受け入れているとは思っていない。多くの場合、データ保管担当者は、単純にコストと利便性の理由からクラウドの使用を避ける。また、法律・規則上の制約が理由になる場合もある。例えば、Active Archive Allianceの共同創設者Molly Presleyが、同団体のプレゼン資料の中から、1ペタバイトのアーカイブデータを3年間、異なるプラットフォームに保存した場合の価格比較をしたスライドは、素晴らしいものだった。フラッシュを使うと、価格は350万ドル弱。NASディスクは約260万ドル。Amazon S3は約150万ドル、Amazon Glacierは30万ドルになる。テープはわずか10万7千ドルである。

パブリッククラウドを使うか捨てるかを決める判断基準はコストばかりではないが、重要な判断材料である。最近パブリッククラウドから撤退したFortune 500の大手企業のある会社は、月約8千万ドルの節約をしていると述べている。451 Researchによると、これらはクラウドからの回帰運動の一部だという。ほぼ同じタイミングでIDCは同じように、53%の企業が自社のワークロード(訳註:例えばofiice365など)をクラウドからオンプレミスに戻している、または戻すことを検討している、と報じた。

IBMは他社に先んじて、オンプレミス回帰の動向をつかんだように見える。競合他社が、マルチクラウドと呼ばれる戦略のもと、様々なクラウドを売り込んでいる最中に、同社は、オンサイトとクラウド上のリソースとプロセスを組み合わせるハイブリッドクラウドのプロモーションを始めた。

クラウドまつりももはやこれまでか。

 

Caringoが示す新しい形

昨年9月にCaringo Inc.と行った説明会は、クラウドに関連するすべてのものから人々の心が離れつつある現在の動向を再確認した。オブジェクトストレージを販売する同社は、自社の製品Swarmのバージョン10をリリースしようとしていた。CEOのTony Barbagalloは私に、アップデートした彼のオブジェクト・プラットフォームのスピードが「怖いくらい速い」と説明してくれた。彼はSwarmを、他社のストレージの安くて満足度の高い代替品でもなければ、クラウドへの踏み台でもない、それどころかクラウドの必要性を無くす、データアーカイブのホスティング手法なのだ、と位置付ける。早い話が、これぞクラウドからの回帰だ。

Caringoは、自社のマーケティング戦略をクラウドから切り離そうとしている、私が出会った最初のストレージベンダーだった。驚いたことに、Barbagalloはこの特徴を決して軽視していなかった。彼は、求めやすい価格で十分なパフォーマンスを出す、オンプレミスのセカンダリストレージの共通プラットフォームをCaringoで提供しようとしている。これによって、ユーザーはクラウドにアーカイブする際のコスト、複雑さ、リスクを回避できる。

この点を説明するためにBarbagalloは、ジャスミンと呼ばれるプロジェクトの一部として先ごろ終わったばかりの、ラザフォード・アップルトン・ラボラトリー科学技術施設会議における実装とテストのバックグラウンドを送ってきた。ジャスミンは、気候と地球の研究コミュニティのための膨大な量の科学データのモデリングに使われるデータセンターのスーパーコンピューターである。ジャスミンの数ペタバイトにのぼるストレージは、高帯域幅のネットワークでつながった数千台の仮想マシンによって使われる。Caringoはこれを「スーパーコンピューターのネットワークとストレージ、ただしコンピュートはそれほどでもない」と表現する。

この分散型シナリオのテストの間、Amazon S3は総スループットにおいて、目標をオーバーする数字をたたき出した。リードで35GBps、ライトで12.5GBpsである。NFSのシングルインスタンスのスループットはさらに驚くべきものだった。Caringoは、目標値をリードで132%、ライトで256%超過した。ジャスミンは、オブジェクトストレージを古いデータ用の「遅いが安定して信頼性の高いプラットフォーム」と、型にはめる必要がもはやないことを証明してくれた、とBarbagalloは言う。今や、データをローカルに保存する高速で効率の良いプラットフォームとしてオブジェクトストレージをシステムの中心に導入する時代が始まったのだ。オブジェクトストレージは、クラウドベースのストレージと競合し、おそらくそれらを吹き飛ばすだろう。

Caringoとジャスミンのフルレポートはwebで探すこともできるし、直接Caringoのサイトからダウンロードすることもできる。差し当たって重要なニュースは、我々がオブジェクトストレージウェアとパブリッククラウド・サービスが価値をアピールする事例において分離を始めたということであり、このことがクラウドからの回帰に拍車をかけている。

このことは、20年ごとに起こる景気後退に付随すると思われるITアウトソーシングの最近の波の終わりの始まりなのかも知れない。とはいえ、ITをオンプレミスに戻すために不可欠なスキルが、この10年程の間に起こった全てをクラウドにの動きによって骨抜きにされてはいないだろうか、という疑問が残る。

 

Jon William ToigoはIT歴30年のベテラン。Toigo Partners InternationalのCEO兼主要執行役員、Data Management Instituteの会長でもある。

(訳者より)
著者Jon William Toigo氏は本年2月12日逝去されました。59歳でした。生前のデータストレージ業界への多大なる貢献に心から感謝と敬意の念を捧げ、故人のご冥福をお祈り申し上げます。

 

Copyright 2000 - 2019, TechTarget. All Rights Reserved, *この翻訳記事の翻訳著作権は JDSF が所有しています。
このページに掲載されている記事・写真・図表などの無断転載を禁じます。