2019年のホットなストレージ(前編)


本記事では、安価・高密度のフラッシュ、マルチクラウド・データマネジメントなど、消費者に利益をもたらし、より優れたパフォーマンスとデータ保護を創造する2019年のホットなストレージ動向を取り上げている。


Storage Magazine 2019年2月号より
Storage Magazine編集部

 

今年もまた、我々は不思議な予言のガラス玉を並べ、これからの12ヶ月で最もホットなデータストレージ技術になると我々が考えるものを、魔法の力を借りて呼び出した。2019年のホットなストレージにようこそ。

この記事で取り上げているのは、すでに購入とデプロイメントが可能な新しいストレージ技術である。そうなのだ。この16年間、我々がホットな動向と考える技術は、すでに有用性と実用性が証明されていることが必須だった。これまでの15年と同様に、非実用的なものや斬新すぎるものは、我々のホットなリストには入っていない。ここにあるのは、ストレージのプロが今、その場で使える技術だ。

さあ、椅子に深く座り、リラックスしてもらいたい。我々、Storage MagazineおよびSearchStorageの編集者と記者がリストアップした、最新の動向に賛成するのも反対するのも自由だ。今年のリストに挙がっているのは、安価・高密度のフラッシュ、NVMe-oF、AIと機械学習、マルチクラウド・データマネジメント、コンポーザブル・インフラストラクチャーだ。記事を読んで、何故これらの技術が2019年のホットなデータストレージ動向に選ばれたのかを考えて欲しい。

 

より高密度、より安価になるフラッシュ

2019年には、様々なデータストレージ技術の進展が、ユーザーにとって有利な方向に働き、フラッシュ・ストレージドライブはかつてないほど安価で且つ高密度になるだろう。

使い始めて間もないユーザーにとって、NANDフラッシュの価格は過去2年間下降線を描いてきた。そして、そのまま供給過多の状況へ突入している。フラッシュ・チップはSSDのコストの大半を占めているので、NANDの価格が急落すると連動してSSDのコストも下がる。

Forward Insights社の創業者兼アナリストのGreg Wongによると、2019年にNANDチップもSSDも価格が30%以上、下がるのを目の当たりにするだろう、という。

「もうひとつの可能性は、メーカーが以前はより少ない容量につけていたのと同じ価格でより大きな容量のSSDを売ることです。」と、Objective Analysis社ゼネラルディレクター兼半導体アナリストのJim Handyは語る。Handyは、2019年前半の価格は2018年初めの価格の半分になるだろうと言う。ただし、予測は調査会社によりまちまちだ。

カリフォルニア州Cupertinoに本社を置く市場調査会社TrendfocusのJohn Kimによれば、NANDのギガバイト単価は、2018年の19.5セントから2019年に13.7セント、2020年に11.2セント、2021年は8.8セント、2022年には7セントに下がるだろう、という。

「NANDの価格が下がることは、SSDの価格が下がることと同じです。容量が非常に大きなエンタープライズにとっては、この価格低下はギガバイト単価の比較において明確な優位性を持っています。しかし、SSDのメーカーは今そのギャップを埋めようとしています。」とKimは語る。

より高密度の3D NAND技術への移行も、フラッシュのコスト低下に一役かっている。2018年にメーカーは32層から64層へと移行し、2019年以降、96層へのレイヤー追加におもむろに着手するだろう。レイヤーの追加によって、旧い二次元技術を使っている標準的なSSDと同じ物理的フットプリントでより大きなストレージ容量が実現される。Wongは、64層は2019年も引き続き市場を支配するだろうと予測する。供給過剰のため、メーカーが96層技術への移行を遅らせているからだ。とはいえ、一部のメーカーは2018年からすでに96層技術のプロモーションを始めている。さらにNAND市場に登場した、もう一つの大容量化のトレンドが、一つのメモリーセルに4ビットのデータを保存できるQLC(Quadruple-Level Cell)だ。TLC(Tripe-Level Cell)3D NANDは、2019年も引き続きエンタープライズSSDの大半を構成するコンポーネントになるだろう。しかしWongは、2018年はエンタープライズSSDの1%未満だったQLCが、2019年には4.1%とじわじわ浸透していくだろうと予測している。この動きはハイパースケール・ユーザーによって加速されるだろう。

Gartnerは、2021年までにNANDフラッシュのビット出力の約20%がQLCテクノロジーになり、その比率は2025年には60%に届くだろうと予測している。QLCには、大量のトランザクションを扱うデータベースやその他の高パフォーマンス・アプリケーションが必要とする書き込み耐性(ライト・エンデュランス)を持たない。しかし、QLC 3D NANDはTLCより安価なフラッシュを提供し、ハイパースケール環境で大量のリードが発生するワークロードで使われている安価なHDDに対抗しうるポテンシャルを持っている。

Trend FocusでNAND-SSDの動向に着目しているバイスプレジデントのDon Jeanetteは、ハイパースケールのデプロイメントによって、エンタープライズPCIe SSDは伸び続け、SATAベース、SASベースの市場を圧迫するだろう、と言う。アナリスト達は、低レイテンシのNVMeを使ったPCIe SSDが、2019年のデータ技術トレンドの主流になるだろうと考えている。

 

 

AIと機械学習ストレージ分析

AIと機械学習はこれまで、ストレージとバックアップにおけるランサムウェア検知に使われるのが通例だった。この技術はまた、インテリジェントで実用的なアドバイスを生成するのにも使われてきた。
AIと機械学習で動作する解析は、

・将来のストレージ使用予測
・下層のストレージ・ティア用に、不活発で使われることが稀なデータにフラグを立てる
個人が特定できる情報などから、潜在的コンプライアンスリスクを検出する

などの機能を提供することによって、運用の手助けをする。

今年我々は、膨大な量のデータの管理・分析用に設計された、AIと機械学習を備えた製品がより一般的なものになるだろうと予測する。現在は特にデータとITが、急激にその複雑さを増しているからだ。2018年、ベンダーはITの意思決定をAIと機械学習を使ってガイドする製品を発表した。Imanis Data Management Platform 4.0のSmartPoliciesは、ユーザーが設定した希望するRPO(目標復旧ポイント)に基づいて最適化されたバックアップスケジュールを生成できる。

Commvaultは2018年中に、ストレージ消費に関する組み込み型予測解析のインターフェースを更新する予定だ。Igneous Systemsは、非構造型データに索引をつけ、分類し、インテリジェントにデータを移動するDataDiscoverとDataFlowを発表した。Pure Storage、NetApp、Dell EMC Isilonなどのアレイベンダーは、ディープラーニング用解析を加速するNvidiaグラフィックカードをサポートしている。

Enterprise Strategy GroupのアナリストEdwin Yuenは、AIと機械学習が成熟しITの他の分野に浸透したいま、人々はストレージの根本的な課題にAIと機械学習を取り組ませることを考え始めているという。その課題とは、ビッグデータの爆発的な増加と複雑性である。

「増大するITの複雑性に対応するということは、多少人を増やしたり、ちょっとした自動化やツールを買い足したりするようなことではありません。必要なのは、飛躍的な進歩がだということに人々はようやく気づきました。我々はここで自転車から自動車に乗り換えるのです。」とYuenは言う。

Yuenによれば、人間が絡む部分の速度がボトルネックになるという。現在、AIと機械学習のストレージ解析ソフトウェアは管理者へのアドバイスを生成して、管理者の承認を待たなければならない。次のステップはこの仕組みをさらに先に進めることだとYuenは考える。承認プロセスを省き、極めて異常な状況下以外ではユーザーによるインプットの必要性を取り除くのだ。

「データの流れは、『人間はこれだけ大量のデータを処理しきれるのか?あるいは、これ程のデータ処理の承認を行えるのか?』というところまで来ています。」Yuenは言う。Yuenによれば、AIと機械学習によるストレージ解析が最もよく使われていくのはデイワン(訳注:システム初日)のデプロイメントの自動化だという。この技術が、特にストレージの最適化、さらに言えばティアリングにおいて力を発揮するからだ。ITの運用にAIと機械学習を導入したことによって大きく変わることのひとつが、ストレージ・ティア用パラメーターの再定義が必要になったことだ。パラメーターにはデータをどこに配置するかのアルゴリズムのベースになるものが書かれている。「使用状況をベースにデータの置き場所を考えるやり方は、これからますます複雑になっていくでしょう。我々は今後ストレージの環境がパラメーターを自動生成するような手段を考えなくてはならないでしょう。」さらに、「多くの会社は、ストレージのティアを2元的に考えています。非活動的なデータvs活動的なデータ、高パフォーマンスvs低パフォーマンス。しかし、ソフトウェアが自動的にティアをインテリジェントに扱うようになれば、二層ティアシステムを超える世界への扉が開かれることになります。」と、Yuenは考える。
「ストレージが5つか6つの異なるプラットフォームに行ければ理想的かもしれませんが、それでは複雑すぎます。しかしAIと機械学習があなたに代わってそれをやってくれるのであれば、コスト・パフォーマンスの基準をベースとすることで選択可能になる様々なオプションのメリットを享受したいと思いませんか?」と、Yuenは語る。

 

NVMe-oF

NVMeファブリック機能付きのフラッシュアレイは、データセンターでの本格的な導入は5~6年先になるにしても、大手の企業では専門家が予想したのよりも早くその姿を見るようになった。

調査会社Gartnerによれば、2021年には、サーバーやSANなど外部との接続にNVMe-oFを使うフラッシュアレイはストレージ売上の30%を占めるだろう、という。Gartnerの2018年の同売上予測が1%なので、これは飛躍的な急上昇を意味する。

IDCはさらに高い数字を出しており、2021年には外付けストレージの売上のおよそ半分がNVMe とNVMe-oFで接続されたフラッシュアレイになるだろうと主張している。

NVMe-oFは、超低レイテンシで且つ極めて大きな帯域幅を提供することが有望視されており、2019年のホットなストレージ技術に選ばれる資格がある。さらに、複数のサーバーラック間のフラッシュストレージ・システムを共有する機能は、大規模なOracle Real Application Clustersやその他のデータベースシステムを使っている会社には魅力的なものとして映るだろう。

「NVMeとSCSIの違いの一つは、前者がダイレクトメモリアクセス経由でストレージデバイスのアドレスを指定できることです。古い世代のSSDは基本的に、ホストサーバーのPCIeバスに差し込むタイプのものです。これらのSSDはストレージデバイスと話すために[ホストバスアダプター]が要らなかったのです。」IDC調査部門バイスプレジデントのEric Burgenerはこう語る。

NVMe-oFは、ダイレクトメモリアクセス機能をスイッチドファブリックにまで拡張し、レイテンシにおいてコモディティサーバー内のPCIeフラッシュと変わらない共有ストレージを創り出した、とBurgenerは言う。

「NVMe-oFは、これまでよりも多くのサーバー間で、極めてパフォーマンスが高く高価なNVMeストレージの共有を可能にします。スイッチドファブリックに接続しているサーバーであればどれでもこの共有ストレージにアクセスできます。一台のサーバー内のPCIe SSDであれば、そのサーバーがストレージにアクセスするのに効率がよい、というだけです。」Burgenerは言う。

NVM Expressワークグループが2014年にNVMeファブリックのデプロイメントを開始した時に目標としたのは、ネットワーク・テクノロジーの中でも、特にEthernet、ファイバチャネル(FC) 、InfiniBandへの拡張だった。NVMe-oFホストとターゲットデバイスの接続性は、現在進行中のプロジェクトとして残っている。

NVMeのFC-NVMeやInfiniBand、RDMA over Converged Ethernet、Internet Wide-Area RDMA Protocolなどの様々なリモート・ダイレクトメモリアクセスのプロトコル技術でのファブリック転送も現在開発中である。

2018年、ストレージベンダーは市場に追いつきはじめ、大量のNVMe製品を市場に出した。新興ベンダーがファブリックベースNVMe市場における優位を勝ち取るべく競い合っているものの、新製品のほとんどは、老舗のストレージベンダーから出ている(その中でも、Dell EMC、Hewlett Packard Enterprise (HPE)、NetAppは特に目につく)。

エンド・ツー・エンドのNVMeアレイは、一般的にラックスケール・フラッシュと定義されている。バックエンド・ストレージが延びて直接アプリケーションと繋がるNVMeファブリックのシステムという意味だ。ラックスケール・システムは、大抵新興ベンダーが得意とする分野だ。老舗ベンダーが行ったのは多くの場合、自社のオールフラッシュ・アレイのSAS接続SSDをNVMe SSDに交換することだった。これによって、多少パフォーマンスの改善はみられるものの、どちらかというと改造設計というのが大方の見方である。

何故、我々はNVMe-oFフラッシュをホットである、あるいはホットになる、と考えるか?答えは、この技術がいかにサーバーホストとターゲット・ストレージデバイス間のデータ転送を加速するか、というところにある。従来のSCSIのコマンド体系は、将来SSDが出てくることなど全く想定していなかった。NVMeフラッシュは、従来のネットワークホップによる遅延を回避する。これによって、アプリケーションは、PCIeインターフェース経由で直接下層のブロックベースのストレージに接続可能になる。

ストレージ業界は、フラッシュに配慮しながらNVMeプロトコルを開発した。このプロトコルは効率的にフラッシュを管理するために最適化されている。NVMeがいずれはAdvanced Host Controllerベースで設計されたSATA SSDを凌駕するとのコンセンサスが得られたからだ。NVMeはデータをプロセッサーの近くに引き寄せ、IOPSとスループットを増大しつつI/Oのオーバーヘッドを減らしている。

「NVMeとの関わり方には2つのレベルがあります。最初は単に接続して使うだけ。しかし、データパスとフラッシュメディア上のデータ配置の方法を再設計しない限り、パフォーマンスの増大は望めません。回転式ディスクとフラッシュメディアでは、データ配置を最適化する方法に大きな違いがあるのです。」NVMeフラッシュをAcuityハイパーコンバージド・システムに実装したベンダーであるPivot3のCEO、Ron Nashはこう語る。

NVMeがキューを扱う方法のおかげで、複数のテナントが同じフラッシュデバイスにクエリーをかけることができる。このため、従来のSASやSATA SSDより大きな拡張性が得られる。NVMe-oFの仕様は技術開発の次の段階を指し示すものだ。

分離はNVMe-oFのもう一つの利点である。これによって、コンピュートとストレージを別々に拡張できるようになる。IoTやその他レイテンシに厳しいワークロードに効率的なリソースを割り当てるために、この機能はますます重要になっている。

ここで心に留めておかなければならないのはNVMeのハイプサイクルだ。ユーザーがフラッシュを使っていると言っても、その大半はサーバーかオールフラッシュ・アレイの半導体技術だ。好奇心旺盛なごく一部のITの現場がNVMeを大規模にデプロイしているだけだ。DeepStorage.netの創業者兼チーフサイエンティストのHoward Marksはこう語る。

「NVMe-oFは特定の問題のための高速ソリューションです。この問題は、十中八九、一つのラックか隣接する一組のラックとスイッチの範囲内で解決できます。NVMe-oFは、まだレガシーのSCSIの存在を脅かすには至っていません。もしそうなれば、人々は全部のものを一挙にNVMeに切り替えるでしょう。その時点で、今日のストレージ技術の中でこれが最も重要な技術の一つだという事が明らかになります。」とMarksは言う。

(後編に続く)

 

 

 

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