プライマリストレージの作業をハイブリッドクラウドで実行する
ハイブリッドクラウド・ストレージの拡張性、敏捷性、コストメリットを活用しよう。
Storage Magazine 8月号より
Jeff Kato、Jeff Byrne
ハイブリッドクラウドは円滑な機能と費用対効果をもち、ITプロフェッショナルは随分前から関心を持ってきた。アメリカ国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology, NIST)が最初に様々なクラウドのデプロイメント・モデルを定義した時から、「ハイブリッド」はその用語集に存在していた。
ハイブリッドクラウド・ストレージによって、単一のクラウドよりワークロード・デプロイメントに対する選択肢が広がり、オフサイト・バックアップ、DR、クラウドバースティング(cloud bursting:クラウド拡張)、などハイブリッドクラウドならではの使い方が可能になった。正しく導入すれば、エンタープライズ・ハイブリッドクラウドは、コストを削減しながらITの敏捷性を高めてくれる。
しかしごく最近まで、ハイブリッドクラウドには(特にプライマリストレージに関して)いくつかの大きな課題があり、企業はこの技術を積極的に取り入れることができなかった。その課題は4つのカテゴリーに分類される。
■標準インターフェースとツールの不足
ハイブリッドクラウドにとって必須条件であるワークロードの移植性が進まなかった。その原因は、標準APIの不足と企業がオンプレミス-パブリッククラウド間においてアプリやデータを簡単に移行するためのランタイム環境の不足によるものだ。コンテナによってクラウド型アーキテクチャーのアプリの移行は容易になったが、レガシーのアプリやデータについては問題が未解決のままだった。同様に、ツールの不足によってクラウド間のプロビジョニングやオーケストレーションはほぼ不可能な状況にあった。ほとんどのハイブリッドクラウドは、システムが実際に稼働するために両端のプラットフォームと基盤に互換性を求めるようになり、結果として、ユーザーの選択と柔軟性、操作の容易性には制限が加えられた。
■製品に対する理解と知識の不足
ベンダーの謳い文句は、エンタープライズ・ハイブリッドクラウドの導入について、買い手を困惑させる一方で、往々にして過剰な期待を抱かせるもととなった。
■企業の受け入れ態勢についての不安
パブリッククラウドが、セキュリティ、可用性、パフォーマンスに関してサービスレベル・コミットメントを満たさないのではないかという懸念から、ストレージ管理者は多くの場合、現在使っている本番データをデータセンターのファイアーウォールの外に出すことに消極的だ。
■ロックインへの恐れ
一部の会社はロックインへの懸念からパブリッククラウドに距離を置いている。 一度アプリやデータをクラウドに移行してしまうと、それらをオンプレミスに戻すのはどれほど難しく、どれほど費用がかかるのだろう?ハイブリッドクラウドには融通無碍な移植性が必須だが、プロバイダーサービスに組み込まれている独自の仕組みや、データを取り出す費用の高さが邪魔をしている。
幸いなことに、クラウド市場とその技術が成熟するにつれて、これらの導入を阻む要素は徐々になくなりつつある。最近我々が行った調査によると、ここ2,3年でIT管理者のパブリッククラウドに対する信頼は大幅に上がってきており、クラウドへのワークロード拡張の導入に踏み切るケースも出てきた。さらに、最近急速に成熟してきたクラウド・ストレージ、ネットワーク、オーケストレーション技術によって、ハイブリッドクラウド・プライマリストレージがより現実のものに近づいてきた。また、シンプルで能率的なデータ移行ができる製品が出てきたことによって、ロックインへの懸念は解消され始めた。ただ、これらの障害が軽減あるいは消滅しても、買い手は競合製品を分類し区別する必要がある。そのために、我々が何をもってスイートスポットと考えるか、それを定義する基準がどのようなものかを見てもらいたい。あなたのプライマリ・アプリとデータを今まで以上に活かせるハイブリッドクラウドサービスとは何かを以下に述べていく。
理想的クラウドの特徴
従来のやり方が持つ壁を打ち破り、ハイブリッドクラウド・プライマリストレージがあなたにとって必要な条件を全て満たすことを確認するために、オンプレミスのプライベートクラウドから始めよう。これにはセルフサービス・プロビジョニングや基盤やアプリに対する従量課金制が入ってなければならない。他にも様々な利点があるなかで、特にこの方法は、オンデマンドでリソースが配備されサービスが提供されるので、使った分だけ支払うクラウドサービスの考え方を会社に根付かせるのに向いている。また、プライベートクラウドはハイブリッドIT基盤の土台にもなってくれる。その出発点を越えて、エンタープライズ・ハイブリッドクラウドを最大限に活用するための基準リストを以下に挙げる。
■オンプレミス-クラウド間の完璧で手間いらずのデータ移植性
どんな使い方をするにせよ、ハイブリッドクラウドの敏捷性はここにかかっている。
■ハードウェア、仮想プラットフォームを含む異機種基盤が両端でサポートされていること
同質性を強制するハイブリッドクラウドは避けること。柔軟性に限界があり、コストが増加する可能性大。
■オンプレミス-パブリッククラウド間の計算、ネットワーク、ストレージリソースの完全なオーケストレーション
データ移植性と並んで、これがハイブリッドクラウドの肝である。プライベートクラウドかパブリッククラウドかどちらを選ぶにせよ、データに常時フルアクセスしながら、プライマリストレージを動的にデプロイし管理する機能が必要だ。
■本番作業をプライベートクラウドまたはパブリッククラウドで稼働させる機能
ワークロードのパッケージ構成やサポートしているストレージの種類にかかわらず、その機能が実行できること。汎用のハイブリッドクラウド・プライマリストレージはその両端でブロック、ファイル、オブジェクトのプロトコルおよびベアメタル、仮想マシン、コンテナ、などどんなタイプのアプリケーションでもサポートしていなければならない。
■ユーザーのアプリ、計算リソースをコロケートできる包括的エンタープライズ・データサービス
例えば、双方向のレプリケーションはハイブリッドクラウド技術にとって不可欠の機能だし、そこで使われているのは、圧縮、重複排除などのデータ削減技術、データ移行におけるデータのスリム化、アクセラレーション技術などである。データ保護により以前のバージョンやアプリケーションの状態に戻す機能を提供するスナップショットも重要である。ハイブリッドクラウド・ストレージ製品は、ユーザーのアプリがどんなクラウドで稼働していようとも、これらの様々なデータサービスを起動できなければならない。
■アプリおよびユーザーのシステムが複数のパブリッククラウドで稼働できること
単一プロバイダーによるロックインは避けること。あなたが使うハイブリッドクラウド技術製品は、あなたの会社のサービスレベルとコスト要件に最も合致するクラウドに基づいて、プライマリストレージの作業をどこで稼働させるかをいつでも選べる機能を持っていなければならない。
■オンプレミスや外部ホステッド・ワークロードのニーズに最適な場所に、ポリシーベースでデータを配置するインテリジェントな機能
データ配置を柔軟に行える機能は、レイテンシの最小化などアプリケーション・パフォーマンス目標を達成するために必須である。これはまた、データ主権やプライバシーのようなコンプライアンス要件を満たすためにも必要である。
■クラウドを分散ストレージ環境として使えるシンプルな管理
プライマリストレージが複数のクラウド間に分散していても、あなたは自分がどこにいようと、ハイブリッドクラウドのデプロイメントを監視、制御、管理したいと思うだろう。
上記の基準の大半を満たす製品なら、あなたがハイブリッドクラウドに求める選択肢、俊敏性、制御機能、価格を提供してくれるだろう。とはいえ、一つの製品がここに挙げた全ての機能を持っていることはまずないと言っていいだろう。現在の製品がどの程度これらの機能を実現しているか、ざっと見てみよう。
クラウドの厚化粧を落としてみれば
ほぼ十年近くに亘って、技術有識者とベンダーは、ハイブリッドクラウドのビジョンを推進してきた。ハイブリッドは様々なITの問題の万能薬として喧伝されてきたし、重要なIT資産を危険にさらさずにクラウドに柔軟性を持たせることで、パブリッククラウドをより使いやすくする方法として位置づけられてきた。しかし、ハイブリッドクラウドとは、本当のところ何だろう?
長い間クラウドの技術開発を監督し参加してきたNISTの定義では、ハイブリッドクラウドは2つ以上の異なるクラウド基盤(一般的には、1つのプライベートクラウドと1つのパブリッククラウド)により構成される。これらの基盤はデータとアプリケーションの移植性を可能にする技術によって一つにまとめられている。この定義を満たすにはデータとアプリの移植性が必須だが、各クラウドが独自の技術を使い、標準となる規格が不足しているために、その実現は困難だった。今その状況が変わり始めている。クラウドの技術が成熟するにつれ、パブリッククラウドで業務を行うことに対する企業の抵抗感は薄れてきた。Tanejaグループの調査によると、大半の企業が少なくとも2,3の基幹業務のアプリとデータを、1つまたは複数のクラウドで稼働させている。(下図:現行または予定中のパブリッククラウドへの基幹業務デプロイメント参照)
今後、新規の業務開発とデプロイメント先としてクラウドを優先する企業の数は増えていくだろう。俊敏性と低い運用コストなどのメリットが魅力的だからだ。企業が一旦パブリッククラウド基盤を採用するとその多くが、次にクラウドのメリットをオンプレミスの資産に活かす方法としてハイブリッドを検討することになる。この方法は外部のクラウドプロバイダーへのロックインを避けることにもなる。
ハイブリッドクラウド・ストレージ製品を分類する
オンプレミスのストレージをパブリッククラウドサービスに接続する既存の製品は、数種類のグループに分かれる。一部の製品はハイブリッド機能を提供している、と主張しているのだが、その中には他と比べて我々の要求水準に近いものもある。
■クラウドゲートウェイとティアリング製品
ここには、既存システムにティアリング機能を追加した従来ストレージと、クラウドゲートウェイプロバイダーが含まれる。Dell EMC、Nasuni、Panzuraなどはクラウドゲートウェイを供給しているベンダーだ。これらの製品は、アクセス頻度の小さい(クールな)データをオンプレミスからパブリッククラウドに移動する。また、このような単にアーカイブだけでなく、ファイル共有や連携などプライマリストレージとして使用可能だと謳っていることも多い。ゲートウェイは、ユーザーにクラウドの拡張性と従量課金システムをアプリケーション・パフォーマンスと制御機能を損なうことなく提供する。しかし、この方式は重大な制限がある。例えば、アプリをデータと一緒にクラウドに移行して、データセンターとパブリッククラウド間でリソースのオーケストレーションを行うことができないのだ。ゲートウェイとティアリングの方式はメリットがあることが実証されているが、ハイブリッドクラウド機能の提供という観点からいえば、これらの製品は単なる出発点といえる。
■オンプレミスとパブリッククラウド用に設計されたオブジェクトストレージソフトウェア
この製品は、オブジェクトストレージに依存したアプリのためにハイブリッドソリューションを提供している。オブジェクトストレージ・ソフトウェア・ベンダーには、買収したCleversafeがベースになっているCloud Object Storageを出しているIBM、Scality、SwiftStackなどがある。あなたがコンテナ化されたアプリとマイクロサービスをベースとしたクラウド・アーキテクチャーの作業を主に走らせているのなら、オブジェクトストレージは理想的だ。あなたはデータの完全な移植性を享受でき、あなたのアプリは必要なときいつでもデータと一緒に移行できる。レプリケーションや消失訂正記号などのデータサービスは、アプリや計算リソースと共存している。オブジェクトストレージソフトウェア・ベンダーの中には、あなたのデータをパブリッククラウドとオンプレミスに配布してオーケストレーションを行うグローバル・ディストリビューション機能を持っているものもある。
オブジェクトストレージ製品は、我々のウィッシュリストにあるハイブリッドクラウド機能の大半を順当に提供している。ただし、ほとんどの製品は従来型のファイルベース、ブロックベースのアプリケーションをきちんとサポートしていない。これらのアプリの中にはあなたが業務に使っているものも含まれているかもしれない。あなたがレガシーの業務をクラウドに移行し、ハイブリッドの形態で稼働させなければならないときは、オブジェクトストレージソフトウェアはおそらくあなたのニーズの全てを満たすものにはならない。
■プライマリ業務にハイブリッドクラウド・ストレージの機能を供給するために設計されたソフトウェア定義製品の新しい波
このカテゴリーに入るベンダーとしてはHedvigやSoftNASなどがある。新興の製品は様々なアーキテクチャーを採用しているが、どれもオンプレミスとパブリッククラウド環境間に柔軟かつ透過的にストレージを分散させる機能を強調している。あなたがエンタープライズクラスの製品を探しているのであれば、オンプレミス―クラウド間でのマルチテナント機能、柔軟なストレージプール機能に着目すると良い。これらの製品は、従来型の業務およびクラウド・アーキテクチャー型のアプリケーション双方に必要なストレージおよびデータサービスを動的にサポートする。あなたにとって理想的なのは、インテリジェントでポリシーベースのデータ配置と、アクセス性とストレージパフォーマンスを最適化する自動ロードリバランス機能を持った、高可用性およびデータ冗長性を備えた製品だろう。
このカテゴリーが進化するにつれて、いくつかの製品は特定の業務やデプロイメントシナリオをサポートするようになると思われる。例えば、既存のアプリのクラウドへの引越しなどだ。それ他の製品はもっと汎用的な機能を持ったものになっていくだろう。自動化されたクラウド間オーケストレーションと管理者の手作業を最小化する管理機能を持ち、あなたのシステムの成長に合わせた拡張性と柔軟性を備えたハイブリッド製品をさがしてみよう。
ハイブリッドで行こう、ただし選択は賢く
ハイブリッドクラウド技術の製品は、本番アプリケーションのデプロイメントに新たな可能性を開いた。例えば、あなたがすでにパブリッククラウドで業務を走らせていて、月々の料金があまりにも高くなっていると感じたとしよう。これらの製品は業務内容によってティアを選択できる柔軟性を持っている。例えば、プレゼンテーション層に関連するサービスはパブリッククラウドで稼働させ、その弾性を享受しつつ、コストが嵩む業務はオンプレミスで稼働させるといったことができる。ハイブリッドクラウドはデータ解析業務のようなオンプレミスアプリにもメリットがある。負荷の高い業務は主にオンプレミスで行い、必要に応じてクラウドのリソースにアクセスする、クラウドバースティングの機能が使えるからだ。
とはいえ、ハイブリッドクラウドは万能薬ではないので、ベンダーの選択は賢く行ってもらいたい。通り一遍のチェックではなく、各製品があなたの目的と既存環境に合っているか、慎重に評価を行い、最適な製品を決めてほしい。
おそらく2017年から2018年にかけて、本番アプリとそれに関連するプライマリストレージにとって、ハイブリッドクラウドは現実のものとなるだろう。本記事で述べた機能拡張などを含む、新しい方式や新しい製品の動きからは目が離せない。特に、クラウド対応、ソフトウェア定義のストレージは重要だ。今後、我々ITプロフェッショナルが考えるハイブリッドクラウドと、それが稼働する業務における役割は大きく変わっていくだろう。
Jeff Kato とJeff Byrneは Tanejaグループのシニアアナリスト兼コンサルタント。
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