2017年ホットなストレージ(後編)
ストレージメディア編集部
Storage Magazine 2016年12月号より
大容量半導体ストレージ
Samsungは2015年に15TBの2.5インチSAS半導体ドライブ(実容量15.36TB)を発表した。2015年春に出荷されたこのドライブは、現在のところ市販SSDの最大容量であり、HPEとNetAppのオールフラッシュ・アレイで見かけるようになった。これに負けじと、Seagateも2016年のFlash Memory Summitで3.5インチ・フォームファクターの60 TB SAS半導体ドライブを公開し、今HPEと組んでこれを大量生産しようとしている。
これまで想像もしなかった小さなフォームファクターを大容量にするのが、フラッシュ(半導体ストレージ)業界のホットなストレージ技術の最近の傾向だ。これは以前に聞いたことがあるなぁ、と感じられたとしたら、それもその筈である。
ハードディスクの初期のように、SSDベンダーは今高密度での容量差を競っている。つまり、標準サイズのドライブに誰が一番たくさん高密度で詰め込めるかの勝負をしているのだ。
Samsungは大容量ドライブには512 Gbit V-NANDチップを採用している。同社はTB容量のひとつのパッケージを作る際は、512 Gbit V-NANDチップを16層に重ねる。これを32個組み合わせて32TBのSSDが作られる。
Samsungは将来、自社の32TBドライブの方がSeagateの60TB SSDよりも高密度を実現できると主張している。12台の3.5インチSSDと同じスペースに、24台の2.5インチSSDが入るからだ。Samsungの32TB SSDもSeagateの60TB SSDも2017年中に出荷される予定だ。つまり、Samsungが自社の高密度フラッシュ技術を使って60TBドライブを世に出すまでは、当面Seagateが高密度ナンバーワンということになりそうだ。
Evaluator Group のシニアパートナー兼シニアアナリストのRuss Fellowsは、いずれ回転式ドライブがSSDの後塵を拝する日が来るだろう、としてこう語る。「高密度化が急速に実現され始め、ギガ単価が下がりだすと、高速のSATAよりもさらに安くなるだろうと思います。2020年には回転式ディスクはおそらく無くなっているでしょう。」
NetAppのシニア・バイスプレジデント兼CTO、Mark Bregmanにとって大容量SSDは大幅なスペース削減と電力・冷却の節約をもたらしてくれるものだとして、NetApp Communityブログに以下の文を投稿した。「大容量SSDを使ったNetAppのオールフラッシュ・アレイは、これまでずーっと解決は無理とされていた問題を取り除いてくれる。スペース効率の観点から見て、たった2Uのフォームファクターで物理容量321.3 TBを提供する大容量オールフラッシュ・アレイにかなうものはない。15.3TBドライブを使えば、わずか2Uで実行容量1PB以上を提供できる。スモール・フォームファクター(2.5インチ)の高密度HDDでも、これと同じ容量を実現するには52Uのラックと18倍の電力が必要になる。」
NVMe
NVMe(Non-Volatile Memory Express)仕様のストレージにとって、半導体ドライブがこれまで最大の市場だった。しか、レイテンシが低く、パフォーマンスを上げるNVMeテクノロジーは、今エンタープライズ・ストレージシステムの中で人気が出てきたストレージ技術動向の一つだ。IDCのリサーチ バイスプレジデントJeff Janukowiczによれば、求めやすい価格になったことやNVMeに関連した市場の広がりによって、NVMeテクノロジーを利用したハイブリッド・フラッシュストレージやオールフラッシュ型だけでなく、サーバー型ストレージアレイの出荷数も、2017年は倍以上になるだろう、と言う。
Janukowiczはメールの中でこのように述べている。「NVMeの普及はまだ初期の段階ですが、ひとつの節目に来ている。我々はより広範な市場でより多くのNVMeを利用した製品が販売されるのを目にするようになるだろう。」
NVMeはホストと周辺のストレージ間のデータ転送用技術として、年を経たSCSIに替わるものとして登場した。SCSIはHDDとテープがデータセンターの主要ストレージメディアだった1986年に標準規格となった。ストレージ業界は、PCI Express (PCIe) SSDなどのより高速なストレージ技術に対応するため、NVMeの規格を立案した。2011年に公表されたNVMeの仕様は、無駄をなくしたレジスタ・インターフェースとコマンドセットによって、I/OスタックによるCPUのオーバーヘッドを低減している。
IDCのリサーチ・ディレクターEric Burgenerは、NVMeならではのパフォーマンス・レベルを必要とする高負荷アプリケーションの一つとして、リアルタイム、ビッグデータ解析を挙げる。Dell EMC (DSSDオールフラッシュ・ストレージシステム)、E8 Storage、Mangstorなどのベンダーが、NVMeベースのストレージ製品で、これら高パフォーマンス処理の市場をターゲットとしている、とBurgenerは語る。
「ラックスケールフラッシュ」としても知られるストレージシステム内のNVMeは、今年は比較的小さいままだろうが、今後5、6年の間に成長していく市場だ、とBurgenerは予測し、こう続ける。市販のNVMeデバイスがホットプラグやデュアルポートのようなエンタープライズ機能をサポートするようになれば、NVMeストレージアレイの市場はさらに急ピッチで成長するだろう。
もうひとつの新興技術がNVMeオーバーファブリック (NVMe-oF)だ。これは、PCIeによるデータ転送の代替として、NVMeホストとNVMeストレージ間の接続距離を延長するものだ。100社以上のベンダーが参加する非営利団体、NVM Express Inc.は2016年6月にNVMe-oFの仕様を確定した。
長期で見たNVMeの潜在成長力は著しいものがある。市場調査会社G2M Inc.は、2020年までにNVMe市場は570億ドルにまで成長し、年成長率は95%になるだろうと見ている。G2Mはまた、これから10年後にはエンタープライズ・ストレージアプライアンスの60%およびエンタープライズ・サーバーの50%以上がNVMeベイを内蔵するようになるだろう、と予測する。さらに、2020年までにはオールフラッシュ・アレイの40%近くがNVMeベースになるとともに、NVMeベースのSSDの出荷台数は2千5百万台になるだろうと予想する。
ソフトウェア定義のストレージ
一般に技術の世界には定義があいまいな用語がたくさんあるが、特にストレージではこの傾向が顕著だ。その中でも最も不明瞭なストレージ用語は、おそらく今日最も巷間に流布されている言葉のひとつであろう、ソフトウェア定義のストレージ(SDS)だ。
WhatIs.comはSDSを「ストレージ関連のタスクを制御するプログラムが物理ストレージ・ハードウェアと分離されたデータストレージの方式」と定義している。しかし、これは取りようによっては、あらゆる種類の技術を包括するのに十分な融通性をもった定義だ。実は、SDSと言われる技術にはある共通した特徴がある。主にハードウェアよりもストレージ・サービスに重点を置いている点と、ストレージの管理に関して効率性向上と、複雑性低減を実現するためにポリシー・ベースの管理を使用する点だ。
混乱の主な原因は、SDSがほとんどの場合仮想環境に関連して使われるところからきている。しかし、SDSの使用は必要条件ではない。ありがたいことに、市場は徐々にSDSを明確に定義しようという方向に向いてきている。ソフトウェア定義のストレージと呼ばれるためには、その製品はいかなる状況でも、たとえそのストレージが仮想化されていなくても、ストレージ・リソースを割り当て共有する機能を持たなければならない。
ストレージマガジン2016年3月号で、Dragon Slayer Consultingのストレージ・アナリストMarc StaimerはSDSを大きく以下の4つのカテゴリーに分類した:
■ ハイパーバイザー・ベース
■ ハイパーコンバージド基盤(HCI)
■ ストレージ仮想化
■ スケールアウト・オブジェクトまたはスケールアウト・ファイル
VMwareはvSphere Virtual SANでハイパーバイザー・ベースのカテゴリーを実質的に占有している。市販製品で2番目に古いSDSカテゴリーとして、このカテゴリーはストレージ技術動向の中でも確固たる地盤を築いている。とはいえ、ここで使われるハードウェアはVMwareがコンパチビリティを認めたものだけである。
多くのベンダーで賑わっているSDS市場といえば、ハイパーコンバージド基盤(HCI)の市場だ。Cisco、Dell EMC、IBMなどのストレージ大手と肩を並べてNutanix、SimpliVityなどの新興企業が製品を提供している。HCI SDSのプラス面は、ストレージ基盤に必要なものが全部入っていて相互に連携できるように設計されているところだろう。マイナス面は、SDSの利点を享受できるのはHCIの中のリソースだけ、と言う点だ。
ストレージ仮想化としてのSDSは、あらゆる種類のソフトウェア定義のストレージの祖にあたる。DataCore、Dell EMC、IBM、さらにはMicrosoftまでもがこのカテゴリーで製品を提供している。だが、このカテゴリーが最も古いとはいえ、ここに若手のベンダー(NetApp、Nexenta Systems、StarWind Softwareなど)も参入している。
最も新しいカテゴリーは、スケールアウト・オブジェクトまたはスケールアウト・ファイルのSDSである。この市場においても、Scalityのような新手の会社以外にIBMのSpectrum Storage や、Red HatのOpenStackベースおよびCephベース製品のような大手企業の製品が競り合っている。
コモディティ・ハードウェアの価格が下がり続けることで、SDS導入の勢いは加速している。SDSによって、特定のハードウェアが高いレベルのパフォーマンスを出す必要が減った。エンタープライズでパフォーマンスに重点を置いたソフトウェア定義のストレージが使われる場合、この傾向は特に顕著だ。さらに、オブジェクト・ストレージがクラウド・プラットフォームだけのデータ保存媒体という状況が変わりつつあるため、とくにこのカテゴリーのSDSがデータセンターで急速に導入されはじめた。
SDSの新興企業Hedvig IncのCEO兼創業者Avinash Lakshmanは、最近のインタビューで、何故スケールアウトSDSがホットな技術であり急速に成長すると思うかを説明してこう語る。
「ハードウェアコストは、明らかに下がる一方なのでROIは極めて単純です。AmazonやGoogle、その他全てのインターネットスケールの企業は明らかにこの方向に向かっています。彼らを見た企業はこう自問せざるを得ません。『彼らがとても少ないコストで、とてもたくさんのことができるのなら、我々ができないはずはないのでは?』」
32Gbps ファイバーチャネル
現在のストレージ技術動向の大半がファイバチャネル(FC)にとっては逆風になっている。ハイパーコンバージェンスとクラウドのような最新のアーキテクチャーはEthernetを使いFCの必要性はほとんどない。Ethernetはまた、ファイルベースの非構造化データ用ストレージも支配している。非構造化データは、多くの場合ファイバーチャネルSANを要求するブロックベースの構造化データよりはるかに速いペース成長している。FCネットワーク関連企業は、片手ほどしか残っておらず、しかもどこもEthernetもサポートしているのが現状だ。
しかし、裏を覗いてみるとそこには煌めいているものがある。FCベンダーもFCのファンも、オールフラッシュ・ストレージSANの急速な市場にFCが深く関与していく事に期待を寄せている。特に今はスイッチやアダプターのプロトコルが16Gbpsから32Gbpsへと移行が始まろうとしているからだ。リニューアルしたFCは新たな勢いを得て、2017年後半市場に大きなインパクトを与えるだろう。
「将来のストレージプロトコル」と題するレポートの中で、ガートナーのリサーチ・ディレクターのValdis Filksとリサーチ・バイスプレジデントのStanley Zaffosは次のように書いている。「ストレージパフォーマンスのボトルネックは、ストレージアレイから離れてストレージネットワークの方へ移動し始めた。そのため、ファイバーチャネルはこれから10年間データセンターのストレージプロトコルとして用いられていくだろう。」
新しくリリースされるフラッシュのほとんどがNVMeに対応し、3D Xpointが姿を現した現在、半導体ストレージはハードディスク媒体よりはるかに大きなスループットと低いレイテンシを提供している。ストレージメディアがパフォーマンスのピークに達するとしたら、ストレージネットワークには更なる帯域が必要になる。
16Gbpsはもとより40Gbps Ethernetでさえも、次世代半導体ストレージの速度についていくには遅すぎるだろう、とFilksとZaffosは言い添える。このような理由から、彼らは32Gbps FCまたは100Gbps Ethernetへの5年以内の移行を進めている。
昨年、我々は32Gbps FC製品が初出荷されるのを目にした。BrocadeやCiscoのスイッチ、BroadcomやQLogicのアダプターなどである。導入が軌道に乗るのは、ストレージアレイ・ベンダーが32ギガをサポートする時になると思われる。実際に変化が感じられるのは来年だろう。
2017年前半に契約が締結される予定のBroadcomによるBrocade買収によって、FCネットワーク業界はさらに集約化が進んだ。BroadcomのCEO、Hock Tanは、同社はFCへの投資を続けていく、と言う。
Brocade買収の際の電話会議で彼は次のように語った。「オールフラッシュの未来を信じるのならば、ファイバーチャネルの未来も信じなくてはならない。iSCSIもEthernetもいまだにこれを実現できていない。我々はこの市場が比較的安定して推移すると考えている。ファイバーチャネルはFC SANの巨大なインストールベースを持ったプライベートのデータセンターをサポートしており、そこでは常にアップグレードが行われるからだ。」
半導体ストレージと16Gbpsから32Gbpsへの移行によって、これからアップグレードの件数は増えることが予想される。
ガートナーは、最新のプロトコルに移行する前に製品が普通に買えるようになるまで一年間待つことを推奨している、それによって、価格がこなれる時間も生まれ、新しいもの好きは姿を消し、ストレージやサーバーのスイッチとの全面的な互換性も可能になるからだ。とはいえ、32ギガFCを早買いしたユーザーは、16ギガや8ギガのストレージやサーバーをスイッチと組み合わせて使うことができる。ついでに、64ギガや128ギガFC機器のロードマップを調べておくのもいいだろう。
Ciscoストレージ・グループ製品管理部門シニアマネージャのAdarsh Viswanathanは32ギガFCが売れ始めるのは、ストレージアレイ・ベンダーが完全に対応した後の2017年後半と考えている。「我々がお話させて頂いている大手のお客様の多くが、本番環境でオールフラッシュ・アレイを使っており、基幹系業務はファイバーチャネル経由で処理しています。フラッシュ・ベンダーは32ギガのパイプをフルに活用できるでしょう。我々は2017年後半、これが大きな関心を集めることになるだろうと思っています。」
TechTarge ストレージ・メディア・グループ編集部: Rodney Brown、Rich Castagna、Paul Crocetti、Garry Kranz、Sonia Lelii、James Alan Miller、Dave Raffo、Carol Sliwa
Copyright 2000 - 2017, TechTarget. All Rights Reserved,
*この翻訳記事の翻訳著作権はJDSFが所有しています。
このページに掲載されている記事・写真・図表などの無断転載を禁じます。