おバカなストレージ技術TOP 5


著者:Jon William Toigo
Storage Magazine 2014年9月号より

 

デイヴィッド・レターマン*(文末訳註1)にご容赦願い、今回はこれまで発表されたストレージ技術の中で残念なものトップ5を取り上げる。

トークショー・ホストのデイヴィッド・レターマンは、着々と引退への道を歩んでいるようだが、引退前の今ならまだ、最近の技術ジャーナリズム分野を席巻しているような、バカげたトップ10記事とプレゼンテーションの全てがレターマンの功績(責任)になるのではないか。
様々な情報から判断すると、あらゆるITの問題は10個のもっともらしい所見や解決策にきれいにまとめることができる。公開に際して文字数制限があるのなら、さらに項目を減らすことも可能だ。
ここでは文字数制限などは存在しないものの、あまり風呂敷を広げすぎないように、今回は自分が昨年あたりに実際に見聞きした、おバカなストレージ技術TOP 5を特定するくらいにしておこう。

 

5.クラウドがストレージの全てにとって代わる

近頃、公共メディアや技術ジャーナリズムで繰り返し流されるミーム(訳註:人々の間で心から心へとコピーされる情報)が、クラウドの「ゲームチェンジャー」的な性質である。これは特にストレージに関して言われることが多い。つい最近では、零落著しい今年のストレージ業界の、前年比大幅売上減の説明としてクラウドが言及されている。クラウド業界寄りの識者は、企業はストレージ製品を追加購入して社内に配備するかわりに、クラウドプロバイダーからストレージを「サービスとして」購入していると主張する。もし本当ならば、それはクラウド業界にとっては良い兆し、ストレージ業界にとってはそうでもない、ひとつの考え方ではある。

このクラウドストレージへの「シフト」という言葉は、昨年4月にEMCが第一四半期に発表した対前四半期比22%の売上減、およびIBMがQ1に発表したクラウド以外のストレージ商品の対前四半期比23%の不首尾、というか落込みによって起こった業界の動揺を適確に説明してくれる。「クラウドはエンタープライズ・ストレージの終焉を早めている」というストーリーは、やはり専門家らがこれだけ注目してきただけのことはあった、ということになったかもしれない。ただし、このストーリーは中身があまりにもバカげていた。

確かに、2013年末から2014年初めにかけて、それは実際に起こっているように見えた。しかし、それはユーザーが、ストレージ製品を購入する前に、候補となる製品のオプションを調べ、どれを購入することが自分たちのニーズに最もあっていて、かつ最も早くかつ最もコストパフォーマンスの良い方法で投資収益を提供するか、をきちんと評価していたために、そう見えただけなのだ。優秀なITプランナーは戦略的な選択をすることになってるからね。

はっきり言って、我々は最近ストレージ業界が流すノイズの洪水に首まで浸かっている。フラッシュストレージという素材をめぐって競合する(訳註:ファイルレベル・キャッシング、ブロックレベル・キャッシング、統合キャッシングの)三つの調理法(このうちのどれかが、かなり短期間でディスクと入れ替わる)、専用ストレージ(特定のサーバーハイパーバイザだけのために設計されたもの)、新(旧)「サーバーサイド」(またの名を直付け)ストレージ・トポロジー、などなど。これら全部に、我々が配備したばかりのあの「レガシーSAN」が置き換えられるというシナリオだ。そんなこと言われても、それらは3年もしたら世間から見向きもされなくなるんじゃないのか?誰もそんなストレージ技術と心中なんかしたくない。

予算が限定されたことも、消費者が購入過程において知恵をつける原因になったと聞いている。購入を遅らせると、ベンダーの営業担当者が追いつめられることにつながり、ストレージ機器の劇的な値下げをもたらす。要するに、沢山のストレージが毎年、毎四半期売られてきたが、それはベンダーの言い値で売られてきたのではない、ということだ。おそらくは何よりもこのことが、ハードウェア販売量の増加に対する売上の減少を説明している。

それでは、クラウドは何の影響も与えなかったということなのか?どうやらそうではなさそうだ。ただ、この影響は、エンタープライズ・ストレージからクラウドストレージに切り替えるユーザーの増加、という形では現れなかった。なんだかんだ言っても、2013年末に業界ウォッチャーは、クラウドサービスプロバイダー(ビジネスコンシューマーではなく)が、クラウドストレージの主要顧客だと言っていたのだ。それなら、クラウドサービスプロバイダーによるストレージの追加購入によって、ストレージ市場の規模は縮むのではなく広がる筈だったのだが。

あ、そうそう、忘れちゃいけないのが、クラウドストレージプロバイダー業界No.3のNirvanixのぞっとするような破綻だ(これはこれでネタがいっぱいあるので、別コラムで書いた方がよさそうだ)。

 

4.データ削減技術が全てを解決する

実際は無理。データ圧縮とデータ重複排除の技術を流行らせ、この機能をプライマリストレージのチェックリスト項目に入れることに、このところベンダーは躍起になっているが、本当のところ、どう考えてもコストが戦略的価値に見合わない。さらに、ディープアーカイブ(訳注:ほぼ絶対アクセスしないが削除はできないデータのアーカイブ)に適用した時に、ざっくり言って、10年もたたないうちに(訳注:ベンダー消滅とともにデータの復旧技術が市場から消えたりして)データが戻せなくなる、という問題も出てくる。 何の規格もなければ、何の投資保護も無い。

 

3. フラッシュストレージが全てを変える

無いね。我々はみんな高速I/Oが好きだ。しかし、フラッシュの真価はリードオンリーのデータに限定されているように思える。ダイナミックRAMや昔ながらのハードディスクの方が、ライトに関してはより高速なパフォーマンスを提供しているようだ。フラッシュベンダーたちは、ビジネスインテリジェントベンダー製品のパフォーマンスをこき下ろすことで、フラッシュの得意技リードオンリーを活かす道を見出そうとしているようだ。彼らは、さかんにデータベースインデックス高速化やレイテンシ低下の事例を取り上げるが、パフォーマンスが向上したとは決して言わない。

フラッシュにとっての宝物は、実はストレージシステムの中心部よりむしろ周辺部にあるかもしれない。例えば、フラッシュとテープの組み合わせだ。いくつかのベンダーが、このトポロジーにつけられたフレープというベタな呼び名を使っているが、この呼び名を商標登録する前にUrban Dictionary(文末訳注2)をチェックしとけ、とベンダーに忠告してやりたい。

 

2. サーバーサイド・ストレージが全てを変える

もしあなたが、共有ストレージからたくさんのストレージアイランドに戻って、ストレージの進化に対して逆行することが「進歩」だと考えるのであれば、その考え方には見どころがある。実際のところ、サーバーサイドというのは、せいぜいサーバー仮想化導入によってもたらされたITスキルの損失と、ストレージの専門家を無くそうとするITスタッフの傾向の反映にすぎない。ストレージ仮想化技術がついていようがいまいが、未熟なハイパーバイザ管理者にとっては、サーバーサイドはストレージ・ファブリックに比べて概念化が簡単なのだ。とはいうものの、ローカルストレージモデルでは、(OpenStackのように)キットの一部として拡張可能なものもあるが、フェールオーバーやvMotion等を実行するために筐体間で大量のデータミラーリングが必要になる。これがあなたのLANの帯域にどんな影響を及ぼすか、計算したことはおありかな?

 

1. トップなんとかリストが全てを説明する

リスト型の記事に素晴らしい洞察が書かれているというのが、全ての中でおそらく最もナンセンスな結論だ。本当のところは、リスト型記事はTwitter世代が理解しやすいようにニュースの概要を載せる傾向があるということだ。最悪なのは、既に流布している仮説を最初から肯定側に立って強化しているだけの記事だ。リスト型であっても良質の記事は、一見カッコいいシナリオの裏を読者に深読みさせる。このリストがちょっとした研究と思慮深い議論のきっかけになってくれることを願う。

 

訳註1:30年に渡り司会(トークショー・ホスト)として自身の番組を持ち続けている全米屈指のトップ・コメディアンの1人。トークショーにはトップ10のコーナーがある。 訳註2:米国のオンライン俗語辞書。Flapeも、capeとflagの組み合わせ、とか鼻をつかんでひねり回す、などいくつかの意味がある。

著者略歴:Jon William ToigoはIT歴30年のベテラン。Toigo Partners InternationalのCEO兼主要執行役員、Data Management Instituteの会長でもある。

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