概括:コンバージドシステム
~ストレージとサーバーをバンドルしたターンキーシステム
著者: Dennis Martin
Storage Magazine 2013年7月号より
ストレージベンダーは、すぐに稼動するシステムを提供すべく、自社のサーバーとネットワーク装置をパッケージにして販売し始めた。これによって、最善の製品を組み合わせたシステム構成(ベスト・オブ・ブリード)は終わりを告げるのだろうか?
従来、パフォーマンスの極大化とエンタープライズ級の機能を確保するために、IT部門は、サーバー、ストレージ、ネットワーク、その他の基盤コンポーネントを選択してベスト・オブ・ブリードを作る、というアプローチをとってきた。しかし、コストを下げつつ最大の効果を得るべし、という要求によって、リソースの使用率を改善し、管理メリットを向上させる、例えばサーバーの仮想化のような技術を用いて、物理ハードウェアを減らす基盤統合が行われるようになった。仮想化によって、新しいサーバーとアプリケーションの展開が容易になった一方で、物理サーバーリソースの負荷だけでなく、保守やサポートの雑用の増加によって、IT全体の負荷が上がるサーバーのスプロール現象*訳注1が起こっている。
IDCのレポート「Converging the Data center Infrastructure: Why, How, So what?」(2012年5月)の統計によると過去10年間、サーバーに対する出費は、ほぼ変わっていないのに対し、運用と管理のコストは、様々な要因によって同じ期間で膨れ上がっている。同レポートによれば、IT部門は今や自分達の時間とリソースの3分の1を環境の保守に割き、付加価値のある活動に割ける時間はわずかしか残らない、という。
ベスト・オブ・ブリードでIT基盤を構築するアプローチは、運用と管理のコストを上昇させる原因となる。ベスト・オブ・ブリードは通常、異なるベンダー製品が混在する基盤構成になり、管理ツールも独自でそれぞれ癖があり、相互運用性や互換性を確保するために常に努力を傾注する必要がある。その結果、多くのIT部門はベスト・オブ・ブリード方式を考え直すようになり、単一のベンダーが互換性を保証し、サーバーからストレージ、そしてネットワーク機器までをシステム一式としてサポートしてくれる、標準化されたハードウェアを選ぶようになってきた。これらのシステムは一般に、コンバージド(集約型)ストレージシステム、または単にコンバージドシステムとして知られている。大手サーバーベンダー、ストレージベンダーは統合の度合いやコンフィグレーションの柔軟性などの差はあるものの、みなコンバージドシステムを提供している。
オールイン・ワンは設置が簡単
コンバージドシステムは、サーバー、ストレージ、ネットワーク、ハイパーバイザ、管理ソフトウェアが入ったターンキー・パッケージだ。いくつかの製品は特定の作業やアプリケーションに特化しており、専用のアプリケーションがプリインストールされた状態で購入することができる。コンバージドシステムには、相互に互換性のあることを検証されたコンポーネントだけが入れられており、出荷前には事前テストが行われる。
迅速な設置がこれらの製品の強みだ。コンバージドシステムベンダーか、ベンダーのチャネルパートナーが、互換性やパフォーマンス最適化の設定を責任を持って行ってくれるので、部品調達やコンポーネントのテストといった退屈な作業はもうIT部門はやらなくていいのだ。IT部門は、日々その数を増やしている市販製品の中から、パフォーマンス、機能、可用性、拡張性、コストの要求に見合ったコンバージドシステムを選ぶことに専念することができる。ほとんどのコンバージドシステムが、迅速な設置ができるように、製品のラックへの取り付けと配線敷設をオプションで提供している。IDCのレポートは、VCE Vblockパッケージを導入した5人のユーザーが、新しい基盤の構築を5週間から1週間に短縮し、スタッフがテスト、設置に要した時間は75%削減した、と述べている。設置の迅速化の他に、コンバージドシステムは現行のサポートおよび保守の作業量を大幅に削減してくれる。全ての機器が互換性を持ち、事前テストを行っているので、問題が発生する可能性は非常に少なくなっている。さらに、新しいパッチやアップデートも、コンバージドシステムベンダーが認定しているので、問題発生の可能性は極めて小さくなっている。万が一問題が起こっても、単一ベンダーがサポートするので問題の解決は容易である。コンバージドシステムは、同一構成のシステムをサポートしているベンダーが、問題解決についての豊富な経験を有しており、社内リソースの負担を軽減してくれる。
コンバージドシステムが提供する標準化とそれに伴うベンダーサポートによって、IT部門が高給のITスペシャリストを雇っておく必要性は少なくなってきた。
コンバージドシステムはITの運用効率を高めるだけでなく、データセンターのコストの低減にも貢献し、全体的なトータルコストオブオーナーシップ(TCO)の低減をもたらしてくれる。
様々な統合度合
コンバージドシステムは製品毎に、機能についての様々な味付けがしてあるが、主な違いは統合の度合とコンフィグレーションの柔軟性である。市場に出ている製品は、認定済みの機器のプールから沢山の異なる組み合わせの構築を可能にする、高度なコンフィグレーション能力を持ったものから、完全に統合化されたシステムで、コンフィグレーションが完全に事前に決まっているものもある。現在のコンバージドシステムは大きく2つのカテゴリーに分けることができる。
■参照アーキテクチャー型システム
ベンダーの参照アーキテクチャーは、通常、事前認定と試験済みの異機種が混在する基盤コンポーネントからシステムを構築する、設計のガイドラインである。認定されたサーバー、ストレージ、ネットワーク、ソフトウェアのコンポーネントを記載したリストは長大になることがあり、参照アーキテクチャーをベースとしたシステムの組み合わせ数は膨大なものになる可能性がある。
参照アーキテクチャーをベースとしたシステムは、分類上ベストオブブリードの隣にくるものであり、完全なコンバージドシステムはその反対側に位置している。
参照アーキテクチャー型システムは、最高度の柔軟性を提供し、より厳格で柔軟性に乏しい完全型コンバージドシステムを導入する用意が整っていない会社で導入されることが多い。参照アーキテクチャー型システムも、通常単一の連絡先を通じてシステムのサポートを提供する、ベンダーのチャネルパートナーによって構築・販売されている。参照アーキテクチャー型システムは、多くの点で完全型コンバージドシステムの長所を受け継いでいるが、コンフィグレーションが柔軟であるがゆえに、完全型コンバージドシステムに比べて何が起こるか分からない部分を秘めている。
参照アーキテクチャーは、全ての大手ストレージベンダーとサーバーベンダーから販売されている。例えば、NetAppのFlexPod参照モデルは、NetAppのストレージである。Cisco Unified Computing Systemは、サーバー、Cisco Nexusスイッチをデータセンター向けのアーキテクチャーとして集約し、認証したものだ。
「我々の統一されたアーキテクチャーによって、我々は巨大なシステムでも、非常にローエンドのディスクポッド でも、管理するソフトウェアは同じものでそれらを作ることができる。さらに、これらのシステムはシームレスに連携して動くのです。」NetAppのソリューションズ・マーケティング部門シニア・ディレクターのJim Sangsterはこう語る。
EMC VSPEXの参照アーキテクチャーは、EMCのチャネルパートナーが組み立て販売できる、ホスト、ストレージ、ネットワーク、ハイパーバイザのオプションリストを提供している。DellのActive Systemプラットフォームアーキテクチャーは、ユーザーのニーズに応じてカストマイズできる参照アーキテクチャーだ。Hewlett-Packard(HP)のConverged Infrastructure参照アーキテクチャーは、互換性およびテンプレートを記載したリストを持っており、HPのチャネルパートナーがコンバージドシステムを構築し販売するためのベストプラクティスガイドラインを配布している。
■完全型コンバージドストレージシステム
完全型コンバージドストレージシステムは、サーバー、ストレージ、ネットワーク接続、ソフトウェアが単一のベンダーによって販売されサポートされる単一の製品に組み込まれた、ターンキー・プラットフォームである。参照アーキテクチャー型システムにおいては、柔軟性を優先するために集約による利点が犠牲になるきらいがあったが、完全型コンバージドストレージシステムは、集約の利点を最大限に引き出す。
コンバージドシステムの欠点について考えられるのは、サーバー、ストレージネットワークを担当するチームが別グループに所属しているようなケースが多い大規模IT部門において、その弱点が露呈するというような状況だ。「コンバージドシステムの運用には、組織が成熟する事が必要です。コンバージドシステムは、IT部門を、明かりを灯し続けるサポート組織から、成功をもたらすもの且つ事業資産へと変身させる媒介役になり得るのです。」EMCのクラウドマーケティング・シニアディレクターのBharat Badrinathはこう語る。
完全型コンバージドストレージシステムは、ITのゼネラリストは多数いてもスペシャリストが不足している中小企業にも適合できる。ベンダーの専門的知識とサポート部隊に任せることができるので、小さな企業でも、完全型コンバージドシステムによって、小さな企業が最善の組み合わせの道をとっていたら決して導入できなかったような複雑なシステムを運用できるようになる。
完全型コンバージドシステムは、ITのニーズの違いによっていくつかのタイプが販売されている。これらはサポートするハイパーバイザと異なる作業量によってプラットフォーム毎に分かれている。
Dell Active System、Hitachi Data Systems Unified Compute Platform(UCP)Pro for VMware、HP CloudSystem、IBM Pure Flex System、VCE Vblock systemは、このカテゴリーに入る完全型コンバージドシステムである。
完全型コンバージドシステムの二番目のグループは、特定の作業とアプリケーション用のコンフィグレーションを提供している。OracleのExadataは、Oracleデータベースのパフォーマンスと機能を最大限に引き出すために、特定のアプリケーションに最適化したコンバージドシステムの好例だ。同様に、Hitachi UCP Select for Oracle and UCP Select for SAP HANAやIBM Pure Data System for Hadoop/Analytics/Transactionsは、アプリケーションを最適化したコンバージドシステムの例である。
コンバージェンス(集約)に向かう流れ
複雑さを増すITシステムと「より少ない投資でより多くを」という低コスト化への絶えざる要請は、対極の位置にある。IT部門はこの2つのトレンドをうまくまとめるための戦略を採用しなければならない。最善の組み合わせ、即ち過去のマルチベンダー・パラダイムを捨て去り、単一ベンダーのコンバージドシステムに置き換えることは、この対立する2つの勢力を調整する方法の一つである。コンバージドシステムは標準化をもたらし、社外の専門知識とリソースを活用することによってIT部門のスリム化と運用コストの大幅な低減の実現を容易にしてくれる。とはいえ、このアプローチには組織の熟成と従来の組織構造を変革する意志が必須である。
訳注1:「スプロール現象」は都市が無秩序に拡大し、様々な非効率を生みだしている様子を指すが、この文脈では比喩的に、サーバーがアプリケーションごとに配備され、CPUの使用率は5%~10%であるにもかかわらず、台数の増加に伴って管理工数も増加する非効率的な状況を指している。
著者略歴:Jacob Gsoedlはフリーのライター兼業務システム部門取締役。
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