今、スケーラブルNASがホット(前編)

著者:Jacob N. Gsoedl
Storage Magazine2012年11月号より

 

ネットワークアタッチトストレージ(NAS)システムは、急増するファイルデータ保存の中心に位置している。しかし、NASシステムは今後、新たな容量、アクセス性、管理の必要性に対応すべく進化していかなければならない。

ネットワークアタッチトストレージ(NAS)は、コンピューター環境の急速な変化と、従来企業のファイルの単なる物置だったNASを、それとは全く違うものに変えつつある一連の技術動向によって、その進化をさらに加速している。

最初に言っておきたいのは、次世代NASはもはや企業のデータセンターの枠を越えて、無制限の拡張性を求めるクラウドサービスを支えるものとして、ますますその使用が増えている、ということだ。もちろん、企業においてもビッグデータへの関心の高まりや非構造化データの加速度的増加によって、スケーラブルNASは次世代NASのランキングのトップに押し上げられている。マサチューセッツ州Framinghamに本社を置くIDCの2011年の調査によれば、世界のデータは2年ごとに2倍になっている。さらに同社の予測では、企業は次の10年で、50倍のデータ、75倍のファイルを処理しなければならなくなる、という。

ITの消費化に加え、パーソナル・コンピューティングと職場の境界線が無くなりつつある現在、NASシステムには安全性と様々な機器からのアクセス性とが求められている。さらに、ITの効率化に対する間断無き要求と、仮想化IT基盤への止めることのできない旅によって、次世代NASシステムには新しい機能の組み込みが強く求められている。次世代NASが、クラウドと増殖するコンシューマー機器の世界における任務を果たせるか否か。それを判断する上で重要になるのは、拡張性、アクセス性、管理性の3つの分野である。

 

NASの拡張性

スケールアウトの拡張性

つい最近まで、負荷を分散し且つお互いにフェイルオーバーを提供する、二つのストレージコントローラーを内蔵したストレージシステムが、企業のストレージを支配していた。容量の拡張については、ディスクとシェルフによって、パフォーマンスの増大については、プロセッサー、メモリー、スピンドル、ストレージのコントローラーを上のレベルにアップグレードする、という方法によって行われてきた。時として、というより、たいていの場合、拡張の限界はすぐにやってくる。可能なオプションは、もう1台ストレージシステムを買うか、フォークリフト・アップグレード*1を行って既存のNASを置き換えてしまうか、どちらかだった。その結果、NASのサイロはあふれかえり、ストレージの予算は膨れあがった。デュアルコントローラーのストレージシステムは、20世紀では成功を収めたが、21世紀における非構造化データのとめどない増大に効率的に対応する事には失敗した。

2000年代前半、既存の大手NASベンダーが従来のアーキテクチャーにしがみついていた時、IsilonやIbrixのような新興企業は、ノードの追加に比例して拡張していくマルチノードNASシステムの世界に分け入っていた。彼らのシステムは当初、大きな非構造化ファイルがデータの大半を占めるヘルス・ケアや石油ガス産業のような垂直市場で採用された。以降、苦労しながらも彼らのシステムは次第に企業へと入っていく。大手ストレージベンダーが、スケールアウトアーキテクチャーNASの圧力と成功に屈するのには、およそ10年の時がかかった。スケールアウトの経験が不足していたため、彼らはスケールアウトの先駆者を買収する方法をとった。買収された技術は、NetAppがSpinnakerに対して行ったように既存のシステムに組み込まれるか、EMCがIsilon (EMC Isilon)に、HPがIbrix (HP Ibrix X9000)に、DellがExanet (PowerVault NX3500)に対して行ったように、単にパッケージを書き換えられるかの道をたどった。大手ストレージベンダーの大半が市場に参加した今、スケールアウトはようやくNASアーキテクチャーとして選択肢のひとつとなった。

スケールアウトNASのもたらす利益は非常に魅力的である。

拡張可能なIOとスループットのパフォーマンス
拡張可能な容量
低コスト
改良された可用性(HA)
複数のNASサイロではなく、単一の大きなNASとして管理出来るため、管理が簡易

 

現時点で、水平的に拡張出来る機能と、マルチノードのNASをグローバルネームスペースで管理する機能は、絶対に手に入れたいものであり、全てのひとにとって、今欲しいNASリストのトップに来るべきものだ。とはいえ、それと同時に、全てのスケールアウトNASが同じものではない、という認識を持つことが重要だ。各ベンダーは自分たちこそNo.1だと主張するが、各社の拡張の方法、グローバルネームスペースのサポート方法、サポートするファイルシステム数およびファイルシステム毎に持つことができるファイル数、ストレージプールの組み方、メタデータの管理方法、には相当な違いがある。

 

ティアリング、半導体ディスク(SSD)、ディスク、クラウド

ストレージ・ティアリングと半導体ストレージを効率的にサポートする機能は、効果的にコストを削り取るのに役立つ。次世代NASは、SSD、ディスク、クラウドの各ティアをサポートする必要がある。ほとんど全てのNASシステムが、ある程度のSSDサポートを行っている。しかし、SSDの利用方法と、活発なデータは高速なSSDティアに置き、不活発なデータは低速のディスクやクラウドに置く仕組みのために使用されるティアリングの方法には、相当大きな差がある。最も基本的かつ一般的な実装形態は、機械式(メカニカル)ディスクを補完するためにSSDがNASシステムに追加される形である。この場合、ファイルやアプリケーションは手動で適切なディアへと配置される。ティア間のデータ移動は自動で行われるべきだ、との意見が多数を占めるのにもかかわらず、現在のNAS製品毎の自動データティアリング対応には、相当な違いがある。

「Isilonはストレージプールの部品としてSAS、SSD、SATA、それぞれのインターフェースに対応していますが、現在のところ、ティア間でのデータの自動移動は行っていません」EMC Isilonマーケティング部門バイスプレジデントのSam Grocottはこう語る。フラッシュ・キャッシュは、半導体ストレージによってNASシステムを補完するもう一つの方法である。実装が複雑でストレージ・アーキテクチャーの基礎部分に変更を加える必要があるにもかかわらず、フラッシュ・キャッシュには単純にディスクをSSDに置き換えるのに比べて、いくつかの利点がある。(但し、これらの利点はSSDの費用が今後とも機械式(メカニカル)ディスクより一桁高い、という事が前提である。)

 

キャッシュであれば、ティアリング・ポリシーがなくても、最も活発なデータを常にSSDに配置する。
ストレージシステム上の全てのファイルに恩恵をもたらす。
キャッシュは、ティア間のデータをサブファイル・レベルで移動する。

 

NetAppとOracle Corp (同社の製品Sun ZFS Storage 7000シリーズアプライアンスにおいて)はフラッシュ・キャッシュの古くからの提唱者だった。低コストのフラッシュ・キャッシュと大容量のSATAディスクの組み合わせは、ハイエンドのディスク・アレイに比肩しうるパフォーマンスを出しながら、かかる費用は少ない。「次世代NASはキャッシュでのティアリングとポリシー・ベースのティアリングの両方をサポートしなければなりません」EMCのGrocottは語る。

半導体ストレージがパフォーマンスの向上に貢献し、ストレージ全体のコストの低減をも可能にしている一方で、ストレージクラウドは容量に関して未曾有の拡張性をもたらした。今日、既存のNASシステムとクラウドの統合は、通常クラウド・ゲートウェイを使って実現されるが、次世代NASシステムは、そのままの形で(ネイティブで)クラウドとの統合をサポートすることが期待されている。これが実現されれば、仮想的には無限の拡張が可能になる。現在のところ、クラウドコンピューティングがITの支出に占める割合は2%以下だが、IDCは2015年までに情報の20%近くがクラウド・プロバイダーを経由するだろう、と予測している。つまり、1バイトの生成から廃棄までの生涯の旅のどこかで、そのバイトはクラウドの中に貯えられるか処理されるのだ。クラウドは単なる1ティアとなり、クラウドと他のティアとのデータ移動は自動化が必要となる。

「次世代NASは、ネイティブでクラウドと話せる能力を持たなければなりません。今日(こんにち)、EMCはRainfinityを利用したAtmosでそれを実現しています」ミネソタ州StorageIO社のシニア・アナリスト、Grog Schulzはこう語る。

 

後編に続く

 

著者略歴:Jacob Gsoedlはフリーのライター兼業務システム部門取締役。
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*1[訳注] コンピュータシステムをアップグレードするさい、ソフトウェアだけでなくハードウェアも含めてすべてアップグレードすること。Storage Magazine 2009年5月号記事「重複排除技術の豊富な選択肢」スケーラビリティの段落参照。

 

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