2012年「ホット」なストレージ技術

著者:Andrew Burton, Rich Castagna, Todd Erickson,
John Hilliard,Rachel Kossman, Sonia Lelii, Ellen O'Brien,
Dave Raffo,Francesca Sales, Carol Sliwa, Sue Troy
Storage Magazine 2011年12月号より


これから紹介する6つのストレージの最先端技術は、これから開花の時期を迎える。これらの技術によってデータセンターは様変わりするだろう。

 

どんなことがストレージを「ホット」にするのだろうか?小誌では、あなたの会社のデータをより速くし、良くし、より効率的な処理にするものは、すべて「ホット」と呼ぶに相応しいと考える。と同時に、「ホット」は頭の痛い問題への新しいアプローチをも意味する。要するに、「ホット」とは次の質問への答えになっていなければならないのだ。「人類を月に送ったのに、なんでこんな事ができない…?」

 

我々は、大量のデータを楽々と保存し、電光石火のスピードで動き、テープやサーバーのディスクのような古い資産を新しいものに変身させ、エンタープライズ・データ・センターの手の届くところにクラウドを置く、6つの技術を探し出した。

 

 

まだホットではない(あと少し)

 

バックアップにおけるグローバル重複排除

 

専門家は口を揃えて、これは、重複排除率/ロード・バランシング/拡張性を良くする素晴らしい技術だと言う。しかし、二つの間違った認識が、この技術の普及を妨げている。

 

1. この技術が向いているのは大規模環境だけで、普通は必要ない。
2. Microsoft ExchangeやSharePointのような個々のアプリケーションを、ターゲットとして指定してバックアップしているのであれば、なおさら不要。

 

これを信じてはいけない。我々は、ユーザーが重複排除のバックアップ環境を構築するとき、この機能は必須のものになるだろうと考えている。

 

 

モバイル機器のバックアップ

 

これは、市場の成熟を待っている技術と言えるかも知れない。CommVaultやSymantecなどをはじめ、多くのバックアップ・アプリがモバイル・バックアップ機能を持つようになっている。CopiunやDruvaのようなモバイル・バックアップに特化したアプリが、沢山のクラウド・バックアップ・サービスとともに市場に出ている。しかし、読者のみなさんは、現時点でもっと優先順位の高い仕事があるかも知れない。あるいは、みなさんのユーザーがモバイル・バックアップを要求してないので、ラップトップの一つや二つ消え失せてもどうってこと無いのだろう。冷静に考えてみよう。数百万のスマートフォンやタブレットが企業のデータシステムにアクセスする状況で、事はそう簡単には行かなくなってきている。
(今月号記事「モバイル・バックアップ:専用アプリあります」(英文)参照)

 

 

プライマリストレージの重複排除

 

我々は2009年、2010年とこの技術がホットであると言ってきた。しかし、パフォーマンスに対する懸念と、この技術の有用性についての延々と続く議論が、この技術の熱を大分奪ってしまった。ターゲット型重複排除のプロバイダーは、パフォーマンス低下への懸念から、この技術の採用に至っていない。プライマリストレージにおける有用性は、いまだに議論されている。我々は、DellのOcarina Networks買収、IBMのStorwize吸収、日立のBlueArc(PermabitへのOEM取引も含めた)買い取りによって、関心が一気に高まると考えた。しかし、まだのようだ。

 

 

「ビッグデータ」

 

我々がこの言葉の定義についての合意も出来ていないのに、それがホットかそうでないかを言うのは難しい。ビッグデータとは巨大なファイルを意味するのか、複合データセットか、会社が扱う巨大な量の非構造化データか?これら全て、のように見える。どれも誇大広告のネタにはもってこいのものばかりだ。市場には本物の製品があり、さらに多くのベンダーが製品をリリースすべく準備中だが、現時点ではほとんどが誇大広告である。

 

 

バンドル型ストレージスタック

 

昨年もホットではなかったし、現在もホットではない。なぜ、もっと人気がでないのだろうか?価格が原因だろうか、もっと具体的に言うと、1セット買うのにいくら掛かるのだろうか。EMCとHPは事前設定したストレージ、サーバー、ネットワーク機器、ソフトウェアとバンドルした製品を販売している。NetAppは、何を買ったらよいか、どう組み立てるのか(端子AをスロットBへ)を解説したガイドブックを提供している。どちらにしても、お金がかかる。今時、その出費とベンダー・ロックインを正当化できる会社はそう多くない。

 

 

仮想デスクトップ基盤(VDI)用ストレージ

 

仮想デスクトップ・ベンダーは、管理、サポート、セキュリティの単純化を売りにしている。とはいえ、彼らが売りにできないのが、ストレージ要件も入れて計算したときの、満足のいく投資収益率(ROI)だ。数百台、数千台のデスクトップを扱っている場合は特に、投資の回収は難しくなる。半導体ストレージは一つの回答かもしれないが、高価な解決策である。

 

 

 

いつものように、我々がとりあげるホットな技術には、先端性と実用性が同等に配合されている。オブジェクトベース・ストレージは、これまでの伝統を捨て、データ管理の仕組みとして、ファイルシステムの替わりに単純化したフラットファイルを採用している。リニアテープ・ファイルシステムは別の方向に進み、テープにファイルシステムを付け加え、ディスクのように見せることを実現した。どちらの技術も、あまりのデータ量で崩れそうになっているストレージの現場に、タイムリーに登場した。

 

比較的安価なタイプの半導体ストレージであるマルチレベル・セル(MLC)フラッシュ・ストレージは、急速な技術進化のおかげで、エンタープライズの中枢に置かれるようになり、半導体ストレージのひとつの方向性を指し示した。しかし、いくら半導体がストレージのニュースを独占しようとも、その一方でサーバー・ベースのストレージは、直接接続されたデータ資産を共有する画期的な方法を生みだし、反撃を開始している。

 

昨年、我々はクラウド・ストレージ・サービスが立ち上がる、と予測した。さて今年は、我々はその予測をより細分化し、オンプレミスのストレージをクラウドベースのストレージ・リソースと統合し、クラウドを新たなティアとして扱う二つの技術をいかに選び出した。

 

 

1. オブジェクト・ストレージ

 

NASだけが、ファイルストレージを扱う方法ではない。さらに言えば、それが常に最善であるとは限らない。

 

オブジェクト・ストレージは、非常に注目を集めており、スケールアウトNASの対抗馬として、その地位を脅かしつつある。オブジェクト・ストレージは無限の拡張性を持ち、処理と高速ネットワークにおいては信頼性が劣るものの、パブリックおよびプライベートのクラウド・ストレージの基盤構築ブロックとなっている。

 

しかし、この技術は完璧ではない。一般的に、オブジェクト・ストレージは高パフォーマンスの技術ではなく、ファイルシステムの標準化も欠落しているため、あるベンダーのオブジェクト・ストレージ製品から、他ベンダーに移行するのはかなり難しい。変更が頻繁に行われるデータには全く不向きで、従来のデータ・ストレージに比べると、より多くのストレージ容量を消費する。しかしこの技術は、巨大なデータ蓄積のアーカイブを より安価に、かつ省電力で高パフォーマンスNASよりも小さな設置面積で実現する。

 

オブジェクト・ストレージは、データにアクセスする際、物理アドレスの替わりに独自の識別子を使う。データは、名前と固有のIDに基づいてアクセスされる。ストレージ・システムはメタデータとオブジェクトIDを読む。単一のグローバル・ネームスペース、キャッシュ・コヒーレンシ、高速ネットワーク、などは一切不要である。

 

オブジェクト・ストレージ製品は、大手ベンダーと新興企業が入り交じって販売している。大手ベンダーからの製品は、EMC Atmos、DataDirect Networks Web Object Scaler (WOS)、Dell DX Object Storage、NetApp StorageGridおよびRackspace OpenStack。新興企業からの製品には、Amplidata Amplistor、Basho Riak、Caringo CAStor、Cleversafe Slicestor、Mezeo Cloud Storage、Sclity Ringなどがある。

 

「オブジェクトは、各ノードやコントローラー機構が、データのかけら一つ一つがどこに存在するかを知らなくてもよい、非共有型アーキテクチャーを提供します。より大きなものをより安く構築できるんです。我々が巨大な数ペタバイトのデータ貯蔵庫について議論を進めていくと、この拡張性はどうしても不可欠なものだということが分かってきます。」マサチューセッツ州ケンブリッジに本社を置くForrester Researchの主席アナリスト、Andrew Reichmanはこう語る。

 

オブジェクト・ストレージの特長、特にその拡張性、設置場所からの独立性、HTTP経由でのアクセス性は、ストレージクラウドに良く適合するものとなっている。メタデータによって、管理者はマルチ・テナンシー、暗号化、課金などのルールをシステムに組み込んで提供することが可能になる。Amazon Simple Storage Service (S3)、Microsoft Azure、Nirvanix Cloud Storageはオブジェクト・ストレージをベースとしたストレージクラウドである。

 

オブジェクト・ストレージのその他の使い方としては、アーカイブ(特に医療画像)、数テラバイトまで拡張するファイルストレージなどがある。

 

スイスのÉcole polytechnique fédérale de Lausanne(EPFL)は、1967年に始まったMontreux Jazz Festivalの5000時間以上に及ぶビデオ・アーカイブのデジタル化に使うため、Amplidataを選んだ。2年前にこのプロジェクトが始まったとき、EPFLの運用部門ディレクターのAlexandre Delidaisは、自分の要求と価格にあったディスク・ストレージ製品が見つからない、と言った。EPFLはLTOテープを購入し、調査を続けた。

 

「低エネルギーと省電力で数ペタバイトまで拡張でき、リストア時間はテープよりも早く、しかも予算に納まるものを探していました。この要件を満たすものを入手するのは、現実的に不可能でした。ディスク・ベースの技術ではどこにもなかったんです。どれも、高すぎるか、エネルギーを食い過ぎるか、でした。」Delidaisはこう語る。

 

Delidaisは、2010年後半になってAmplidata AmpliStorを発見した。EPFLは手始めに1PBを購入した。これを分けて二つのロケーションに置き、レプリケートする予定だ。Delidaisによれば、デジタル化プロジェクトは現在、約20%を終えたところだと言う。

 

もちろん、マルチ・ペタバイトのストレージの導入はそれほど多くはない。従って、オブジェクト・ストレージもまだ主流にはなっていない。

 

「今、数百ペタバイトのデータ貯蔵庫を必要で、それを買う、という人はそれほど多くはないでしょう。しかし、長期的な展望からみると、私はオブジェクト・ストレージに軍配を上げます。ファイルストレージとしてより良い仕組みだからです。」Forrester ResearchのReichmanはこう語る。

 

 

2. MLCフラッシュ・ストレージ

 

MLC NANDフラッシュが来年、出世コースを歩み続け、エンタープライズ製品において、より高価なシングルセル(SLC)を正式に追い越すだろう、という兆候はそこここに見ることができる。いよいよ、より安価な半導体ストレージ時代の幕開けだ。

 

メーカーはMLCベースの半導体ドライブ(SSD)の生産を増やしている。一時はMLCを使う事を躊躇していたベンダーも、IBMやHPなどのいち早くこれを導入したベンダーの列に入ろうとしている。マサチューセッツ州Framinghamに本社を置く調査会社のIDCは、MLCベースのドライブが来年、エンタープライズ向け半導体ストレージの売上の52%を占め、2013年には60%に上るだろうと予測している。

 

IDCの半導体ストレージ調査ディレクターのJeff Janukowiczは、MLCベースのSSDが、アーキテクチャー、アルゴリズム、コントローラーの進化によって、ITの世界では避けて通れない、混在したリード/ライト要求を上手く処理できるレベルに到達したのだ、と言う。

 

オンライン市場大手のeBay Inc.は、100TBの半導体ストレージNimbus Data System Inc. Sクラスを導入したことで注目を集めた。この製品は、エンタープライズMLC(eMLC)として知られる業務用に信頼性を強化したフラッシュを使用している。

 

フラッシュの種類の間で最も大きな違いは、耐久性である。業界一般の見解として、SLCは約10万回のイレース/ライトサイクルで摩耗し、eMLCは3万回のイレース/ライトサイクル、MLCは1万回以下。しかし、MLCドライブとサードパーティーのコントローラー・ベンダーが改良を行っているため、この違いは重要性を失いつつある。

 

「コントローラー・メーカーは、フラッシュの振る舞いを実際に監視できることを発見しました。その結果、一つ一つのブロックがどう動くかを追跡している限り、一定のブロックを1万回の限界をゆうに超え、最大何十万回でも使う事ができるようになったのです。」カリフォルニア州Los GatosのObject Analysisの創設者兼チーフ・アナリストJim Handyはこう語る。

 

Handyによれば、eMLCとMLCの間のイレース/ライト回数でさえ、さほどメリットではなくなりつつあり、また、eMLCは業界が期待したほどの人気を得ていないように見える、という。

 

「eMLCはMLCより高いし、スピードも遅いんです。みんなSSDにスピードを求めて買うんですから、スピードが遅い製品はほんとに売りにくいですよ。」Handyはこう語る。

 

カリフォルニア州Carlsbadに本社を置くHigh Moon Studiosは、Activision Blizzard Inc.の一部門であり、「ワールド オブ ウォークラフト」や「ギターヒーロー」などの人気ビデオゲームを制作している会社だが、ここのITディレクターDan Mulkiewiczは、最も安いMLC SSDでさえ、驚くようなパフォーマンスを出している、と言う。

 

High Moonでは、3年前に10台のSSDをワークステーションに内蔵するところからスタートし、30~40分かかるアプリケーション作成時間が4分に短縮してからは、すぐに60~70台のSSDを追加した。

 

「安い製品でやりくりしなければならなかったので、いちかばちかでやってみたんです。そしたらうまく行きました。SLCフラッシュについては、まったく考えもしませんでした。」Mulkiewiczはこう語る。

 

Mulkiewiczによれば、ワークステーション内蔵のMLCドライブの故障率は5%未満、メーカーの保証期間も1年間から3年間に改善され、ハードディスクに肩を並べるようになった、と言う。

 

この様な経緯からMulkiewiczは、VMwareサーバーファームのI/Oボトルネックに対処するためにGridIron Systems Inc.が出しているMLCベースのキャッシュを使うという事に、何のためらいも無かった。彼は、劇的なパフォーマンスの改善に衝撃を受けた。これまで最悪のケースでは、プログラマーとアーティストが変更を送信してからコードをリコンパイルするまでに70分掛かったことがある。MLCベースのキャッシュの導入により、待ち時間は10分未満に縮まった。

 

「MLCを使っていて快適っていうだけじゃなくて、もうこれ無しではやっていけなくなっています。」Mulkiewiczはこう言った。

 

 

3. LTFS

 

Linear Tape File System(LTFS)は、テープのルネッサンスの到来を告げるものとして期待されている。 これは、ディスク・ストレージの検索処理と同じように、ユーザーがテープのファイルツリー経由で情報を検索できる、初めての技術である。ユーザーは、LTFS形式でフォーマットされたテープに、ドラッグ&ドロップでファイルを出し入れ出来る。このことにより、テープを業務フローに組み込む新たな可能性が開かれ、長期アーカイブはより簡単になった。

 

LTFSを最初にサポートするテープフォーマットLTO-5は、メディア・パーティションを持っており、一台のドライブで一巻のテープの二つの可変長パーティションに書き込みができる。一番目のパーティションは、そのテープ自身の階層型ファイルシステムのインデックスが入っており、二番目のパーティションは、データの内容が入っている。LTFSはテープに入っているファイルを管理するための、ファイル構造型のインターフェースであることを示している。ユーザーがすることは、テープをドライブに入れるだけ。これで、ブラウザーまたはテープを認識しているからデータを閲覧できるようになる。

 

HPとIBMはLTFSソフトウェアの主要開発者であり、LTFSのオープン・スタンダードはLTOコンソーシアムの支持を受けている。HPはHP StoreOpen AutomationでLTFSをサポートし、IBMは今年5月、IBM System Storage LTFS Library Editionの製品化によって、LTFS用ライブラリーのサポートを表明した。その他、Crossroads社のStorongBox、Cache-A社のフラッグシップ製品Pro-Cache5、Power-Cache、Prime-Cache5、などのベンダーがLTFSサポート製品を販売している。さらに、Atempoは、Atempo Digital Archive (ADA)というLTFSプラットーフォームと完全互換のファイル・アーカイブ製品を出している。

 

LTFSはまだ、メディア/エンターテイメントの業界を購買層の核とする、初期導入のフェーズにある。メディア/エンターテイメント業界で、ポストプロダクションを支援する編集システムを提供する2PopDigital.comの創設者Robert Smithは、もっと多くのアーカイブ管理ソフトウェアがこのオープン・スタンダードをサポートするようになれば、LTFSは主流になるだろう、と語る。

 

 

 

 

「テープに何が入っているか、今までテープ番号やバーコードをもとにデータベースが教えてくれていたのが、直接見ることができるようになる、LTFSはその橋渡しをしてくれます。LTFSがあれば、ディスクのファイルシステムと同じように一個のファイルをサーチできます。LTFSは、この点で大きなメリットを持っています。」Robert Smithは、こう語る。

 

コロラド州Boulderに本社を置くEvaluator GroupのRandy Kernsは、LTFSを最も緊急に必要としているのは、データをより効率的に移動させる要件を持つメディア/エンターテイメント業界だと言う。彼によれば、アーカイブ管理ソフトウェアは、LTFSの上位に位置することができるので、ユーザーはデータ保持期間やデータアクセス権限を入力することが可能になる。この技術は、もっと多くのアーカイブ管理ソフトウェアがサポートするようになれば、主流になるだろう、という。「バックアップの収集というより、実際はアーカイブの管理なんです。企業にとっては、テープという媒体に、単にバックアップをさせるだけでなく色んな事をさせる選択肢ができたのです。」Randyはこう語る。

 

 

4. クラウド・ゲートウェイ・アプライアンス

 

クラウド・ゲートウェイ・アプライアンスは、会社にクラウド・ストレージを導入する非常に優れた方法として、注目を浴びている。これらのデバイスはセットアップが簡単で、且つ比較的安価であり、ユーザーは小さく始めて簡単に拡張ができる。

 

クラウド・ゲートウェイの仕組みは単純だ。アプライアンスはデータセンター内に設置され、オンプレミスのストレージ・システムとクラウド・ストレージ・サービスの架け橋の役割を果たす。パブリック・クラウドでは、既存のSANやNASのプロトコルではなくHTTP上でREST APIなどのプロトコルを用いるため、変換のためのブリッジがどうしても必要になる。ゲートウェイ経由でオンプレミスのストレージをクラウドに接続することにより、クラウド・ストレージ・サービスは既存のシステムと切れ目なしに連携することができる。

 

クラウド・ゲートウェイの導入率は、まだ比較的に少ないが、過去2年間で多数の製品がリリースされ、市場シェアを獲得する将来性も相まって、相当な注目を集めた。これが今回、クラウド・ゲートウェイが我々の「ホット」な技術に上げられた理由である。

 

「データをクラウドに移す事に関して、多大な関心が寄せられていますが、ユーザー企業がクラウド・プロバイダーのAPIと連携するために、多少なりともリスクを背負うかと言えば、その可能性は全くないと思います。」Forrester ResearchのReichmanは語る。クラウド・ストレージ市場には、ローカルでのパフォーマンス改善、余分な遅延の解消、セキュリティ機能の追加、と言った必要性が存在している。

 

「これらは、ユーザー企業がクラウド・ストレージを使う際に重要になる、クラウド・ゲートウェイ属性のいくつかの項目です。」彼は語る。

 

クラウド・ゲートウェイは、他製品と連携または組み合わせることができる。すでにいくつかのベンダーは、バックアップやストレージ仮想化ベンダーとパートナーシップを結んでいる。例えば、TwinStrataは、VeeamおよびDataCoreと提携し、StorSimpleはMicrosoftと協力関係を結んだ。クラウド・ゲートウェイの抱える課題は、ユーザーに存在そのものおよびメリットが認知されていない、ということである。

 

「クラウド・ゲートウェイは、ユーザーがもっとクラウド・ストレージ技術に慣れてくれば、最終的に自分の場所を見つけることができると思います。最近は、クラウド・ストレージ・アプライアンスのファームウェアに組み込まれたり、アプリとして搭載されているのをよく見かけます。」マサチューセッツ州Milfordに本社を置くEnterprise Storage Group(ESG)のシニア・アナリストTerri McClureはこう語る。

 

何人かの業界専門家は、このコンセプトが流行りだしたら、データ・ストレージ・ベンダー各社は、この技術を自社のストレージに組み込むだろう、と予測している。このことによって、オンサイトのストレージ・システムが、クラウド・ストレージを扱う事は、中間的なステップを経ること無く、まるで別なストレージ・ティアにアクセスするように簡単になるだろう。

 

「クラウド・ゲートウェイが既存製品とまったく別の製品、別のベンダーであるべきか、今我々が話しているのは実は他製品の機能なのか、についてはまだ結論が出ていない、と思います。」Forrester ResearchのReichmanはこう語る。

 

ゲートウェイの採用が遅れているもう一つの理由は、製品を提供しているベンダーの大部分が新興企業だという事だ。

 

「市場の啓蒙と、購入者に実際に検討されるようになるために、小さなベンダー同士が効果的な提携をすることが、おそらくは必要なのでしょう。」とReichmanは指摘する。

 

米国行政府職員連合(American Federation of government Employee:AFGE)の情報サービス局長、Taylor Higleyは最近、TwinStrataのCloud Arrayというクラウド・ゲートウェイを導入した。何故、TwinStrataのゲートウェイを選んだのか、という質問にたいする彼の答えは極めて明快だった。

 

「すごくはっきりしてます。安いAmazon S3ストレージを利用でき、さらに、高いセキュリティおよび信頼性をもつVeeam社Backup & Replicationシステムをサポートしている機能で選びました。TwinStrataは、これら全てを連携させるミッシング・ピース(探していたパズルの小片)だったんです。」

 

 

5. 仮想ストレージ・アプライアンス

 

サーバーの仮想化がデータセンターにしっかりと根を張るとともに、サーバー型共有ストレージは、仮想ストレージ・アプライアンス(VSA)という形で、市場に大きな影響力を与えている。このソフトウェア型の製品は、高価な専用ストレージ・ハードウェア無しで、サーバー仮想化の先進的な機能を提供する。仮想ストレージ・アプライアンスは、仮想マシン(VM)内部で動き、VMが稼働している物理サーバーに接続しているストレージから共有ストレージを作成する。2012年、我々は多くの企業(特に中小企業(SMB))が、サーバー仮想化を安価にサポートする選択肢として、サーバー型ストレージに転向するのを目撃することになるだろう。

 

HPのStorageWorks P4000 VSA SoftwareやDataCoreのSANsymphonyのような仮想ストレージ・アプライアンスは、長年ストレージ市場に存在してきたが、VMware Inc.によるvSphere Storage Applianceの発表によって、この技術に対する関心が一層高まることが期待されている。とりわけSMBを対象にしているvSphere Storage Applianceは、複数のハイパーバイザにまたがって稼働し、直付けストレージ(DAS)を統合してストレージ・プールを作る。

 

「我々は、VMwareのようなベンダーによって引き起こされる、仮想基盤内部の信じられないほどの進化を見ることになるでしょう。そしてVMware用に出てくる仮想ストレージ・アプライアンスの技術は、ハイパーバイザのベンダーの一社から出される、もう一つの極めて革新的な技術になります。ストレージ・ベンダー各社は、この状況の変化を正しく読む努力をすべきでしょう。」マサチューセッツ州Hopkintonに本社を置く、Taneja Groupの検証サービス部門シニア・アナリスト兼ディレクターのJeff Bolesはこう語る。

 

VMwareは、より多くの企業に自社の技術をもっとアピールするために、仮想化における自社の専門知識をフルに活用しているのだ、と見る人々もいる。「VMwareはストレージというものを、人々がサーバー仮想化機能の拡張を邪魔する障害物だと考えている。だから自分たちがそれに直接取り組んで直してしまおう、もうある程度それを決意している。私はそんなふうに想像しています。」Storage Switzerlandの創設者兼主席アナリスト、George Crumpはこう語る。

 

仮想ストレージ・アプライアンスは、SMBで使われる方が利用価値が高い。SMBではファイバー・チャネル(FC)よりもiSCSIが主流だからだ。

 

「既存の業種、既存の大手企業で、仮想ストレージ・アプライアンス(VSA)が導入されているのを見かけることはあまり多くありません。既存の大手企業でも、プライベート・クラウドやパブリック・クラウドの類を使っているところであれば、VSAがそこに導入されているのを見ることができるかも知れません。」Taneja GroupのBolesはこう語る。

 

仮想ストレージ・アプライアンス市場の歴史に大きな足跡を残してきたベンダーのひとつが、DataCoreだ。同社のSANsymphony-Vソフトウェアは、異機種システムにまたがったストレージ・プールを仮想化し、コモディティ・サーバーをSANに取り込む機能を持っている。

 

ケンタッキー州Glasgowのバーレン郡立学校は、サーバー統合プロジェクトの後、SANsymphony-Vにシステムを変更した。IT部門は30台の物理サーバーを30台の仮想マシンを動かす4台の物理サーバーに統合した。その時、EMCのSANをDataCoreのソフトウェアが稼働するDellのサーバーとリプレースしたのだ。

 

「EMCのシステムには、これらの先進的な機能を動かすためのプロセスやキャッシュが無くて、SANsymphonyに注目した最大の理由は、この製品はどんなハードウェアが使われていても気にしない、っていうところだったよ。」バーレン郡立Technology Officeの地区技術サービス・スペシャリストのCary Goodeはこう語る。

 

バーレンのIT部門はDataCoreの高可用性ミラーリング機能を使って、10TBの使用可能領域を高可用性モードで冗長化している。「我々は、一つのノード全体を使うことができます。何故なら、他のノードは本番環境で全く同じデータを持っているからです。ハードウェア製品でこれをやろうと思ったら、どれくらいの値段になるか想像も付かないですね。」Goodeはこう説明した。

 

 

6. 統合クラウド・バックアップ

 

クラウド・バックアップは数年前から使われ始めたコンシューマー向けサービスである。データをオフサイトに持っておくことは、災害復旧のほとんど基本であり、このサービスは極めて理にかなったものである。とはいえ、大手企業の世界では多くの障害物があり、クラウド・バックアップの普及を妨げている。導入を阻んでいる難問の一つは、このサービスが全く新しいバックアップの仕組みと、クラウドに特化したバックアップ・アプリケーションを必要とすることである。しかし、状況は変わりつつある。多くの大手バックアップ・ソフトウェア・ベンダーがアプリケーションを修正し、今ではユーザーがクラウドへ直接バックアップできるようになっている。

 

CommVault System IncのSimpanaは、Amazon、Microsoft Azure、Nirvanix、RackspaceなどのRESTプロトコルをサポートしているクラウド・ベンダーであれば、どこにでもバックアップ可能だ。Symantec Corp.のBackup Execは、Symantecクラウドにバックアップができる。一方、同社のNetBackupにはNirvanixへバックアップするオプションが付いている。EMC NetWorkerは、EMC Atmosをベースにしたクラウド・ストレージ・サービスにバックアップ・データを送ることができる。

 

「これらのベンダーは、データをレプリケートしようと思っても、2次サイトを持っていない顧客に、このデータ保護のスタイル全体を売り込もうとしている。」ESGのシニア・アナリスト、Lauren Whitehouseはこう語る。

 

従来のバックアップ製品とクラウドの統合によって、ユーザーは迅速なリストアのためにオンサイトのディスク・バックアップができる。DRに関しては、従来のオフサイトへのテープによる複製データ搬送の替わりに、簡単にクラウドを選べるようになっている。事故が起こったとき、大量のデータをクラウドからリストアしなければならないが、多くのプロバイダーが、顧客のサイトにアプライアンスかディスクでデータを届けるサービスを提供している。クラウドをアーカイブのためのティアと考えるユーザーもいる。長期保存が必要な古いデータはそこに送るのだ。

 

データ・ストレージ・マネージャーの中には、バックアップ製品を切り替えるのは面倒になりそうだという理由から、かなり時代遅れのバックアップ技術に依存しまいがちな人たちがいる。そこには、新しいデータ保護技術に対する抵抗もあるのかも知れない。クラウド・バックアップを使うということは、それに関連して新たな管理要件をもつ別個のツールが追加される、ということだからだ。しかし、クラウド・ストレージがその会社の既存のバックアップ・アプリケーションとしっかり統合されていれば、これらの懸念はすぐに消え去る。

 

長年使ってきたバックアップ・ツールにクラウドのオプションをつけるのは、いくつかの会社がクラウド・バックアップに挑戦するきっかけになるかも知れない。もうひとつのバックアップ技術、継続的データ保護(CDP)はとても良い喩えを提供してくれている。CDPは、単体の製品としてはあまり導入が進まなかったが、ユーザーが慣れ親しんだバックアップ・ソフトウェア製品と統合されると、一挙に主流となった。

 

「バックアップと長期間のデータ保持としての使用例は、ITの部門がクラウドのプールにつま先を入れるのに丁度良いお手本になります。クラウド・バックアップは、テープに複製して、そのテープをオフサイトに搬送するこれまでのニーズに取って替わるものになるでしょう。」とWhitehouseは語る。

 

 

訳注1:メジャーリーグで活躍した捕手、のちに監督。様々な名言(迷言?)を残している。

 

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