プライベートストレージ・クラウドを構築する(前半)

著者:Phil Goodwin
Storage Magazine 2011年7月号より


プライベートストレージ・クラウドは、古い技術や古臭い発想を焼き直ししたもののように見えるかも知れない。しかし、誇張された記事の嘘を見破ってしまえば、そこには重要な可能性が潜んでいる。本稿では、まず知っておかなければならないことについて述べる。

 

クラウドストレージの比喩は、散々使い古されているかも知れないが、次の言い方は我々の実感にぴったりくる。「クラウド(雲)は視界が悪く、恩恵にも災難*1にもなりうる。」 どちらの状況とも、確かにプライベートクラウド・ストレージに当てはまる。プライベートクラウド・ストレージを過剰に褒めちぎる沢山の記事が、ファイアーウォールの内側のパブリッククラウドの有益性を断言しているにもかかわらず、プライベートクラウド・ストレージとは、要するに、ユーティリティー・ストレージなのだ、と新たな名前を頂戴するはめになっている。

 

ユーティリティー・ストレージという言葉は、たとえそれが、簡単、確実な有用性を指しているのだとしても、ドットコム・バブル崩壊後の一時期流行った選択的アウトソーシングを連想させる。「ユーティリティー・ストレージ」という呼び名には、高級感がない。しなやかで格好いいストレージというより、園芸用品をしまっておく物置*2のように聞こえる。「ユーティリティー」には、「クラウド」のようなクールな響きがない。

 

 

パブリッククラウドがプライベートクラウドについて語ること

 

名前を変えたからといって、少ない労力と低いコストでよりよいサービスを提供すべく設計されたストレージ基盤技術の基本的な性格が変わるわけではない。現在どんな名前に人気があるにしても、プライベートクラウドの考え方を採用することによって、IT部門が得ることができる利益を誰も否定することはできない。とはいえ、プライベートクラウドのマーケティングは、ある程度パブリッククラウドの勢いに便乗しているところがある。我々はまた、パブリックであろうとプライベートであろうと、ストレージはクラウドソリューションの一部に過ぎないのだ、ということを認識しなければならない。特に、サーバー仮想化は、あらゆる種類のクラウド・コンピューティングを可能にしている。それでも、クラウドのデプロイメントの成功にとって、確固たるデータストレージ戦略は極めて重要である。

 

プライベートクラウドの全体を把握するために、パブリック・クラウドストレージの恩恵を考えて見よう。

 

  ・可用性
容量は、即時供給(プロビジョニング)が可能で、常時オン、迅速で確実なリカバリが可能。

 

  ・クオリティ・オブ・サービス
サービス・レベルは、明確に記述されサービス・カタログと一致していなければならない。応答時間、復旧時間、使用可能時間についてのユーザーの期待値は、具体的な数値指標で定義しなければならない。

 

 

・コストの確実性
クラウド環境におけるユニットあたりのコストは、通常、価格表によって調べることができる。ユーザーは、実際に使っているものに対して支払うのであり、SLA に基づいてあらかじめ設定したものや、ハイ・ウォーター・マーク(想定最大利用容量) に対して支払うのではない。

 

 

このリストを見て、明らかに重要な恩恵があることが分かると思うが、いったい誰にとっての恩恵だろうか?ここに、パブリックとプライベートのクラウドストレージの最初の重要な違いが存在している。パブリッククラウドでは、これらの恩恵はユーザーおよびクラウドの契約をしている企業双方にもたらされる。ユーザーは全アプリケーションのサポートという恩恵を得、企業はコストの確実性と、おそらくは社内基盤を保守するよりも低いコストを手にする。しかし、プライベートクラウド環境では.アプリのユーザーしか、これらの恩恵を得ることができない。IT部門は、本来PaaS(Platform as a Service)が持つ機能を提供しなければならない。当該ビジネス・ユニットはコストの確実性、従量制のチャージ・バック*3、具体的なSLA を得るかもしれないが、これらの恩恵は、ひとつもIT部門には分け与えられない。IT部門は、必要なだけのストレージを購入、管理し、監視システムを立ち上げ、規律ある原価計算を実行する。

 

 

データセンターからクラウドへ:転換のための5つのステップ

 

1. プロセス 成熟度を査定し、必要であれば、最低でもLevel 3(プロセスはドキュメント化、標準化されている)までは引き上げる。
2. サービスを重んずるIT文化を育てる。
3. サービス・レベルの定義とコスト割り当てに関して、ビジネス・ユニットを含めたビジネス・プロセスを実施する。
4. サービス・カタログと将来の参照アーキテクチャー を定義する。
5. ビジネス・プロセスと基盤、両方について将来への移行計画を作成する。

 

 

上記に加えて言っておくが、恩恵とは「最新のストレージ」や「最速のディスク」、「10Gbイーサネット」のことではない。実際のところ、技術的な仕様はどこにもない。パブリッククラウドは全て、より良い運用(サービス・レベル、コスト・コントロール、応答性)を目指している。しかし、ストレージ・ベンダーは、一般的に、より良い運用は売らない。彼らが売るのは、ハードウェアとソフトウェアだ。それでは、プライベートクラウド・ストレージとして、ベンダーが売っているものは、正確に言うと何なのか?ハードウェアのアップグレードや非現実的な思いつき以上のものなのだろうか? 幸いなことに、答えは「yes」だ。プライベートクラウド・ストレージは、ハードウェアや展望よりも、よいものになり得る。ただし、全てのことが正しいコンテキストと環境に置かれれば、の話だが。

 

いくつかのベンダーは、クラウド・アーキテクチャーの要件として、拡張性と柔軟性が必須であることを強調する。より低いコスト・モデルを提案するシステムは、クラウドのシナリオを魅力的に見せる。しかし実際のところ、ほとんどのベンダーが、これらの特徴(拡張性と柔軟性)を持っていると主張している以上、この定義はあまり当てにならない。 それに、クラウドとは、突き詰めていくと、製品と言うよりはプロセスなので、ハードウェア・アーキテクチャーだけでクラウドの実装が決まる事はない。

 

 

クラウドに求められるプロセス成熟度

 

沢山のIT諮問機関が、ビジネス・プロセス成熟モデルを作ってきた。皆、大体は似たようなものだ。愛用のサーチエンジンで検索すれば、数秒でいくつかのモデルを見つけることができるだろう。彼らは、通常、成熟度の5つのレベルを以下のように説明している。

 

  ・Level1.
プロセスの定義やドキュメント化がほとんど行われず、その場しのぎで且つ限定的。

  ・Level2.
繰り返し可能。プロセスは定義され、ドキュメント化もなされている。しかし、同一のタスクであっても、機能の範囲がまちまちである。

  ・Level3.
プロセスはドキュメント化され、部門をまたいで標準化されており、そこにはパフォーマンス指標が含まれている。

  ・Level4.
プロセス指標は、定期的に集められ、業務運用と関連づけられ、関係者に周知されている。

  ・Level5.
定量的フィードバックによって、継続的にプロセスの改善が実行されている。

 

事前対応能力が備わっている。

 

 

プライベートクラウド・ストレージの枠の中で、組織のプロセス成熟度は、明らかに、プライベートクラウド・ストレージ導入成功の必須条件だ。企業は、プライベートクラウド・ストレージの導入を検討する前に、最低でもLevel3の能力を獲得しておくべきだ。プロセスを標準化する理由は、基盤を標準化することと関係がある。このことは、後程説明する。もし、あなたの会社がLevel3の成熟度を合法的に取得していないのであれば、そのレベルに向かってプロセスを改善していくことが、プライベートクラウド・ストレージの世界に乗り出す前の最初のステップになる。

 

 

プライベートストレージ・クラウドを開発する

 

クラウド導入による恩恵は、クラウドのアーキテクチャーが要求する規律と標準化によってもたらされる。より良い統制、最適化された利用、単純化された基盤アーキテクチャー、会社規模での管理の実践、がそこに含まれる。

 

プライベートクラウド・ストレージの重要な特徴は、標準化された基盤だ。これは、時として参照アーキテクチャーと呼ばれることもある。いやいや 、標準化された基盤は、手順を標準化する事にこそ必要なものだ、と反論する人がいるかもしれない。 その反論には、一定程度の真実が含まれている。とはいえ、バックアップとリカバリ、プロビジョニング、監視、その他ストレージ管理タスクは、異なるプラットフォーム間で標準化することができる。

 

参照アーキテクチャーは単一ベンダーで構成することもあるが、多くの場合はそうでない。参照アーキテクチャーは、部門がサポートするシステムと構成の仕様書に過ぎない。そこには、部門間における技術要素の一貫性を確保するために、ソフトウェアやファームウェアのバージョンも記載されている。多くの部門にとって、ストレージ統合は参照アーキテクチャーへ進化する上で、重要な役割を果たす。事業買収、ビジネス・ユニットの独立性、あるいは単純な事情によって、部門はしばしば、経済的にまたは技術的に正当化しうる以上に、システムが多様化することがある。プライベートクラウド・ストレージが主導権を持つことは、データセンターから異質のシステムを排除する、あるいは、少なくとも、異質のシステムが他の領域に広がるのを防ぐための、良い機会になる。

 

 

 

著者略歴:Phil Goodwin はストレージのコンサルタント兼フリーランス・ライター。

訳注*1 原文では、気流などの乱れを表すturbulentという言葉を使っている。
訳注*2 storageには物置、収納庫、などの意味もある。
訳注*3 ヘルプデスクのような企業内のコスト・センターが、サービスの対価を社内ユーザに請求するビジネスの規定のこと。

 

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