仮想ディザスタ・リカバリ

著者:Lauren Whitehouse Storage
Magazine 2011年4号より


ストレージとサーバーの仮想化は、ディザスタ・リカバリ(DR)の中で、最も厄介な仕事の多くを、全体のコストをカットしながら、比較的実行しやすいものにしてくれた。

 

あなたの会社が、未だに実行可能なディザスタ・リカバリ(DR)戦略を持っていないとしたら、今こそ仮想化の事を考え始める時だ。初期の段階において、サーバー仮想化導入の推進力となったのは、リソース利用効率の改善と統合によるコスト低減だった。しかし、新技術を採用したユーザーは、仮想化が可用性をも改善することに気づいたのだ。

 

仮想化は物理デバイスを、自身がその上で動作する物理資産から独立した、リソース・プールのセットへと変身させた。サーバーの仮想化は、OS、アプリケーション、データが特定の物理資産から分離することを可能にし、部門ごとにバラバラに導入されてきたインフラ・サイロの経済的かつ運用的な問題を解決した。かくして、ディザスタ・リカバリ構築における主要な問題の一つが消えたわけだ。

 

ストレージ仮想化の長所も、前述のサーバー仮想化と同様だが、ストレージ仮想化の場合は、その仕組みをサーバーではなく、その下にあるストレージ・ドメインにおいて提供している。これらの仮想化技術により、IT部門は、理想の仮想化IT基盤実現に一歩近づいた。サーバーにおいても、ストレージにおいても、仮想化の力をうまく使いこなすことにより、IT部門はディザスタ・リカバリにおいてより素早く対応できるようになる。

 

 

リスクを減らそう

 

ディザスタ・リカバリとビジネス継続の改善は、毎年必ずIT部門の優先度トップ10に上がってくる。企業はシステムとデータにアクセスできなくなるリスクを無くしたいからだ。ほとんどの会社が、日次データの保護プランはきちんと整備しているが、本番環境におけるサービス停止のような事故を含む重大な災害(ディザスタ)について、力を注いでいるのは、ほんのわずかの会社しかない。事故には様々なものがある。停電、火事、洪水、天候に絡んだ停電、自然災害、伝染病やテロリズム。原因が何であろうと、データセンターにおける予定外のダウンタイムは、ビジネスを維持するためのITの能力に甚大な損害を与える可能性がある。

 

DR作業の目的は、二次サイトにおいて、できる限り速やか且つ確実に必要な全てのシステムを再現することにある。残念ながら、DR戦略は、多くの企業において得てして中途半端なものになっている。DR戦略を義務づけるものが何もない、あるいは誰も(社内に)いない、とか、あまりにもお金が掛かる、または複雑すぎる、とか、既存のバックアップ処理がディザスタ・リカバリに適しているという間違った思い込み、などがその理由である。

 

バックアップの技術や処理方法は、災害に対しては限界がある。ティア 1データ(ビジネスの根幹に関わるもの)は、企業のプライマリー・データ全体の約50%をしめる。Enterprise Strategy Group (ESG)がデータ保護を担当するITプロフェッショナルを対象に行ったアンケートにおいて、53%の回答者が、自社が売上の損失やその他の形でビジネスへの悪影響を受けずに持ち堪えられる時間は、1時間以内だと答えた。ほぼ4分の3(74%)の回答が、持ち堪えられる時間は3時間以内の範囲に収まった。(このアンケートの結果は、2010年4月ESG調査レポート「2010年データ保護トレンド*1」で発表された。)最善の状況で、代替のハードウェアを確保し、OSとアプリケーションを再インストールし、データを復旧する(ディスク・ベースのコピーからの復旧だとしても)、目標復旧時間(RTO)は恐らく1時間から3時間を超えるだろう。

 

システムをミラー・コピーから復旧する方法は、従来のバックアップ方式よりも高速だが、より高価で複雑でもある。同一のシステムを二つのサイトで維持し、構成情報とデータのコピーを同期させる、というのはかなりの難題だ。このため、多くの企業が行っているのが、あるデータに対する保護を他のデータよりも高める、データの優先付け、所謂「トリアージ」である。ESGの調査では、プライマリー・データの28%はティア2データによって構成され、我々が調査したIT部門のほぼ半数(47%)ティア2データのダウンタイム許容時間は3時間以内だった。従って、会社がコストの問題で、「基幹(ティア1)」と「重要(ティア2)」にたいして、別々の戦略を立てたり、保護を行わないことを戦略とするようなことがあれば、何らかのリスクを背負い込むことになる。

 

 

DRにサーバー仮想化を使うメリット

 

仮想化は、これまでよりコスト効率の優れたDRを構築する、新たな機会を提供することで、x86環境を変える大きな推進力となっている。ESGが調査した、今後12ヶ月~18ヶ月におけるサーバー仮想化導入の理由を見ると、さらに多くの物理サーバーを仮想プラットフォームに統合する、が最も多く、それに次いで、ディザスタ・リカバリを容易にするために仮想マシンのレプリケーションを利用する、という回答が、2番目に上がっている。(詳細については、2010年1月に発表されたESG調査レポート「2011年IT投資計画」を参照*2)

 

サーバー仮想化は物理的なハードウェア・レイヤーを抽象化しているため、リカバリ用のデータセンターには、本番環境で使っているのと同一のハードウェアを必要としない。この事は様々なメリットをもたらす。さらに、仮想化は基盤システムの刷新を促進するため、現場にはたいていお役ご免になったハードウェアが転がっている。予算の関係で、DR用のシステム構成一式を購入できなかった部門でも、「お下がり(お古)」のハードウェアを利用するチャンスが出てくるかもしれない。また、リカバリ用のデータセンターでは、一つの物理サーバーに複数のアプリケーションを統合することで、必要とされる物理的なリカバリ基盤の量は減少する。これは、結果として、フロアースペース費用や電気や冷房設備の削減につながる。

 

仮想サーバーのカプセル化や可搬性の機能を活用する事は、DRを実現するのにとても役立つ。仮想マシンを一つのファイルにカプセル化できるようになったおかげで、サーバーをあちこちに移動することが可能になり、ビジネスの復元力(レジリエンス)とDRのために、仮想マシンのコピーを複数作成して、サイト内あるいはサイト間で簡単に転送できるようになった。コールド・スタンバイのサイトで、テープや(光ディスクなどの)回転媒体などの可搬媒体にデータをバックアップするのに比べ、劇的な改善である。さらに、仮想マシンのイメージを保護し、仮想マシンのシステム状態をキャプチャする、というのは、物理サーバーの世界では求むべくもない新しいコンセプトである。リカバリを行うとき、OSを再構成し、コンフィグレーションを再設定してからデータを復旧する必要は、もはや無いのだ。仮想マシンのイメージをアクティベートする方が、ベアメタル・リカバリから始めるよりもずっと早い。

 

柔軟性は、もう一つの差別化ポイントだ。仮想化は、前述したディザスタ/・リカバリ用にシステムを1対1で物理ミラーを行う必要性を無くしてくれる。IT部門は、フェールオーバー構成に関して、ローカルであってもリモートであっても、物理から仮想(P2V)か仮想から仮想(V2V)かを選択できるようになった。DRのために、ローカルとリモート両方のサイトに同一のハードウェアを購入し、維持していく追加費用なしに、高速リカバリが実現できるのだ。仮想化はまた、以下のシナリオで構成を組むとき、柔軟性を発揮する。アクティブ-アクティブ構成(例えば、遠隔のオフィスあるいは支店に本番サイトのリカバリ・サイトとしての役割を与える、あるいはその逆。)アクティブ-パッシブ構成(会社所有の、またはサードパーティのホスティング・サイトをリカバリ・サイトとしての役割を与える。リカバリの必要があるまでは休眠状態)

 

最後に、仮想化はDRテストの形態においても、柔軟性を発揮してくれる。ディザスタ/・リカバリ・プランをフルにテストするには、プライマリのデータセンターを落としてセカンダリへのフェールオーバーを試さなければならない。仮想化基盤は、たとえ運用のピーク時であっても、システムを停止せずに、DRが正しく動くのか、スタッフが正しくきちんと、業務を遂行するだけの練度を備えているか、を確認するためのテストを頻繁にかつ容易に行える仕組みを提供してくれる。

 

サーバー仮想化によって、DRはぐんと身軽になる。IT部門のサービス停止への対応能力は、以下に述べる新しい自動化技術が登場してきたことによって、さらに改善される事だろう。ひとつは、VMwareの仮想化技術(下欄「VMware環境におけるDRの自動化」参照)、もうひとつは、Microsoft System Center Virtual Machine Managerで、こちらは、どのアプリケーションとどのサービスをどういう順番で復旧するのかを決定するためのツールを提供する。復旧はより迅速になり、仮想化アプリケーションを復旧するスタッフのオペレーション負荷は緩和される。

 

 

VMware環境におけるDRの自動化

 

VMware社は、ディザスタ・リカバリ(DR)作業を自動化、ドキュメント化し、簡便化するVMware vCenter管理サービスを2008年に発表した。VMware vCenter Site Recovery Manager (SRM)は、復旧手順マニュアルを自動化されたリカバリ・プランに変換し、VMware vCenter経由でリカバリ作業の集中管理機能を提供する。SRMは、手作業によるDRに比べて、復旧を迅速化し、信頼性を改善し、管理業務の効率を向上させる。

 

VMware SRMは、セットアップ、テスト、リカバリ・プランに則った実際のフェールオーバーを自動化してくれる。SRMを使えば、ユーザーは、アクティブ-パッシブサイト間(本番データセンター(保護サイト)とディザスタ・リカバリ拠点(リカバリ・サイト))、であれ、アクティブ-アクティブサイト間(2つのサイトが実際に稼働しており、相互にリカバリ・サイトの役割を負う)であれ、どちらも自動化することができる。

 

SRMは、プライマリ・サイト、リカバリ・サイトの両方に設置されたストレージ・レプリケーター・アダプター(SRA)を通じて、サードパーティのストレージやネットワーク型のレプリケーション製品と連携する。SRAはストレージやレプリケートされたLUNを簡単に探し出し、テストとフェールオーバーを実施する。この機能のおかげで、ストレージのレプリケーションや仮想マシンの構成が正しく設定されているかの確認は、とても楽になる。データストアは、事前設定されたストレージ、またはネットワーク型のレプリケーションを通じて、サイト間でレプリケートされる。

 

SRMは、実際にはデータ保護やデータ復旧を行わない。少なくとも、今のところは。VMwareは、SRMの次期機能として、IPベースのレプリケーション機能をリリースすることを予告した。この機能は、ローカルとリモートの拠点間で異機種のストレージの保護を可能にし、仮想マシン単位での粒度を提供、内蔵またはDASストレージをサポートする。これは、SANを持たない会社や、同一機種のストレージに限定されたレプリケーション製品に縛られたくない会社にとっては、大きな可能性をもたらすものだ。本番サイトとリカバリ・サイト間で、SANをベースとしたSRMのメリットを利用してきたユーザーも、非同期機能が加わったことによって、作業負荷の異なるティアにリカバリ戦略を拡張することができる。

 

 

DRプランにおけるストレージ仮想化の使用

 

ユーザーが仮想化の一つのパターンに慣れ親しんでくると、知的な、あるいは、運用的なジャンプをしなくても、他のデータセンター・ドメインの仮想化コンセプトを理解することができるようになる。通常、データセンターの全面更新を手がけているIT部門は、仮想化を更新の目玉と位置づけ、様々な技術分野の仮想化を一挙に配備することによって、可能な限りの効率化が得られるものと期待する。そのため、サーバー仮想化にストレージ仮想化が組み合わせられるのは、決して珍しいことではないのだ。

 

サーバー仮想化と同様、ストレージ仮想化も、データを特定のデバイスの束縛から解き放つ。ストレージ仮想化は、複数のストレージ・システムを束ね、これらのデバイスを一つのコンソールから集中的に管理可能な、一つのストレージ・プールとして扱う。ストレージ仮想化はまた、容量と負荷のバランスを取りながら、異なるストレージ・システム間で、透過的にデータを移動する機能を持っている。コスト低減、リソース使用効率改善、可用性の増大、アップグレードの単純化、スケーラビリティの確保、の他にストレージ仮想化に期待されているメリット、それが、簡単で費用効率が高いDRである。

 

DRシナリオにおいて、ストレージ仮想化はリソース使用効率を改善し、ユーザーに手元にある、より少ない容量でより多くのことを実行してくれる。IT部門は、これまでより遙かに少ない容量のストレージを購入、配備して、複数のストレージ・ティアをシン・プロビジョニングによって運用する。容量の使用効率を改善することで、ユーザーは追加容量の購入費用を削減し、環境の拡張に簡単に対応できるようになった。

 

仮想化によって、プライマリ・サイトとDRサイトのストレージ構成は変化させることができるようになった。本番サイトとリカバリ・サイトで異なる構成が組める、という柔軟性は、複雑さを伴わずにコストの節約(既存ストレージを再利用することにより)をもたらしてくれる。また、IT部門がそうしようと思えば、プライマリ・ストレージのミラーをリモートサイトのより安価なストレージにすることも可能だ。

 

仮想化されたストレージ環境と連携した、ネイティブのデータ・レプリケーションは、仮想ディザスタ・リカバリの機能性をより高めてくれる。異機種ストレージ・システム間(プライマリ・サイトには高価なストレージ、リカバリ・サイトにはより安価なストレージ)のリモート・ミラーには、コストの低減に貢献するメリットがある。

 

 

仮想化についてのまとめ

 

サーバー仮想化とストレージ仮想化は、単体で使っても、組み合わせて使っても、IT部門がDRを実現する能力、それもコスト効率の高い形で実現する上で、大きな影響力を持つ。あなたの会社がこれまで仮想化にたいして、傍観者であり、災害が決して来ませんように、と神頼みしているようであれば、今こそ仮想化を調査すべき時だ。仮想化をすでに使っている方であれば、効果的でコスト効率の良いDR環境のための基本要素はお持ちのはずだ。次の段階に踏み出すべき時だ。

 

訳注:
*1 . ESG research report "2010 Data Protection Trends", April 2010
*2 . ESG research report "2011 IT Spending Intentions", January 2011

 

著者略歴:Lauren WhitehouseはEnterprise Strategy Group(本社:マサチューセッツ州Milford)でバックアップ&リカバリソフトウェア、レプリケーション・ソリューションを専門とするシニア・アナリスト。

 

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