JEITAテープストレージ専門委員会コラム
「ファイルベース・ワークフローにおけるLTO」
〜放送映像産業における課題とその対応〜

 

放送映像産業では、従来のビデオテープを中心にしたワークフローから、ファイルベース・ワークフローへの変革が急速に進みつつあります。この変革にはいくつかの要因がありますが、ファイルを扱うことのできる業務用機器の普及や、旧来のビデオ機器の保守期限が迫ってきたことなどが大きく影響しています。
しかしながら、映像をファイル化して業務ワークフローで扱っていく際に、いくつかの課題があることがわかっています。本コラムでは典型的な3つの課題について簡単に説明し、LTOを用いた対応策をご紹介します。

 

ファイルによる番組交換・素材転送における課題

放送業務等で使用されるビデオファイルは、ビットレート50MbpsのMPEG2で記録した場合で1時間当たり約27GBと、非常に大きなものになります。この大きなファイルを、社内や企業間で通信回線を用いて転送すると、帯域を確保するための回線のコストがかさんでしまう、という課題があります。

この課題への対応策として、LTFS(Linear Tape File System)を利用してLTOテープにファイルを書き出し、メディアを物理的に搬送することが考えられます。LTFSは自己記述型のフォーマットでテープにファイルを書き込むので、搬送先でもDVDやUSBメモリなどと同様に特別なシステムを必要とせずファイルを読み出すことができます。

 

ファイルベースでの長期保存における課題

現状のビデオテープによるアーカイブでは、大量のビデオテープを保管棚に保存してきました。これらを全てファイルに変換してディスクストレージに保管すると、初期投資や消費エネルギーなどの運用コストによってTCOが上がってしまう、という課題があります。

この課題への対応策として、LTOライブラリーとLTOテープの棚置き保管とを併用することが考えられます。ファイルへの迅速なアクセスが必要なLTOテープはLTOライブラリーの中にいれておき、それ以外のLTOテープは棚置き保管することで、ファイル化要求を満たしつつTCOの上昇を抑えることができます。LTOライブラリーにどれだけのLTOテープをいれておくか、は運用要件(運用コスト、トランザクション量など)により決定することになります。LTOテープはハードディスクと比べて、運用時のエネルギーコストが格段に低いため、現状のビデオテープベースでのTCOに近づけることができます。

 

ファイルベース・ワークフローへの移行の課題

膨大なビデオテープのファイル化には数年かかることもあります。また、既存の設備をすべて入れ替えるにも時間がかかります。そのため、ファイルベース・ワークフローへの移行期間の運用をどのように行うか、という課題があります。

この課題への対応策として、移行期間中はLTOテープの棚置きによる一時保管を行うことが考えられます。ファイル化には時間がかかるため、すぐにでも、徐々に始めていきたい作業ですが、ディスクストレージを使用すると、ファイル化を開始した時点でディスクシステムが必要となります。LTFSを利用してLTOテープに書き出しておき、それを棚置きで管理しておけば、徐々にLTOテープを増やすことで対応することができます。可搬性のあるLTFSを利用しておけば、棚置きしている個別のLTOテープを特別なシステムを必要とせずに利用できるため、移行期間中も運用を継続することが可能です。また、移行完了後には、LTOライブラリーに収容することでオンラインアクセスも可能になります。このようにLTOテープを利用すると、移行期間中も運用をとめることなく、徐々に移行していくことができます。

このように、ファイルベース・ワークフローにおける課題にLTOを用いることで対応することができます。今回ご紹介した課題とLTOを用いた対応策について、より詳しくまとめた資料「ファイルベースワークフローにおけるLTO」をJEITAテープストレージ専門委員会のWWWページで公開しています。また、LTFSについての技術情報「LTFS (Linear Tape File System) のアーキテクチャー」も公開しています。興味をお持ちの方は、http://home.jeita.or.jp/cgi-bin/about/detail.cgi?ca=1&ca2=292#technology を参照してください。

(社)電子情報技術産業協会(JEITA) テープストレージ専門委員会
日本アイ・ビー・エム(株) 長谷川 徹