
電話が苦手な世代の育成新常識
BCC(株) IT営業アウトソーシング事業部 事業部長 松村健太
■あらゆるパターンを練習し段階的に指導する
若手社員の仕事に対する考え方が変化している今,従来の育成方法から脱却してより効果的なものに変えていくことが求められています。いわゆるZ世代には特徴があり,育成にはコツがあります。
BCCは2025年2月,入社3年目までの若手社員400名を対象に「社会人になって苦手だと感じた仕事」を調査しました。すると「電話を受ける」が50.8%,「電話をかける」が48.8%と,電話業務に苦手意識を持つ若手社員が約半数もいることが分かりました。時代環境からその理由をひもとくと,実家に固定電話がないなど電話を使う機会がほとんどなかったので慣れていないという事情が考えられます。またSNSでのチャットによるコミュニケーションに慣れており,電話でのリアルタイムのやり取りで相手から断られることに不安を感じる,という特徴もうかがえます。電話が苦手な理由では「普段から電話を使う機会がない」(44.6%)が2位。「電話マナーに自信がない」(53.5%)が1位でした。
電話応対には様々なパターンがあり,状況に応じた話し方が必要です。私たちは営業未経験の若手社員に電話応対の研修をしていますが,マニュアルがあっても正解が分からないので不安だという声を聞きます。受講者には社内の内線も取れなかった人,訪問アポイント電話を避けてきた人,過去に電話対応の業務が嫌で退職したという人もいました。電話へのハードルが若手社員の定着の壁になっていることが分かります。
その対策として企業ができることの1つは,マニュアルやトークスクリプトを作成し,自社で発生するあらゆるパターンのリアルなロールプレイングの実施です。また電話対応のスキルも「経験や努力次第で伸ばせる」という「成長型マインドセット」を身につけ,失敗してもよい練習の場を設けて段階的に教育することも有効です。入社後すぐ実践の場で先輩の背中を見て覚えてもらうのではなく,事前に苦手意識を克服するマインドをサポートし,研修の場で成功体験を積み重ねて自信をつけてから本番に臨むというステップを踏むとよいでしょう。
■未経験だからこそ成長の余地は大きい
営業職を例に「成長型マインドセット」を考えてみましょう。BCCが育ててきた人材の9割以上は,もともと保育士やパティシエ,銀行の窓口業務をしていたような営業未経験者です。それでも戦力に育つのは,学ぶ姿勢と適応力を持ち続けているからです。どの仕事にもいえますが,営業するサービスや商材を取り巻く環境はテクノロジーの進化で常に変化しています。業界知識の勉強を怠らず,素早く適応する柔軟な姿勢が欠かせません。学ぶ姿勢と適応力を発揮するためには,新しいことに勇気を持ってチャレンジするという姿勢が重要です。
経験者を即戦力として採用したはずが,前職のスタイルから抜け出せず自社の文化に適合できずに早期離職に至ってしまうというケースは往々にして起こります。対して未経験者の場合は固定観念や自己流のスタイルを持っていないので,白紙の状態で自社の型を吸収しやすい存在ともいえます。営業は初めてでも飲食業などで積んだ接客経験を活かして短期で成果を挙げる人は多くいます。
若手の育成には時間も手間もかかります。苦手な電話業務だけでなく,名刺交換や報告・連絡・相談といったビジネスの基本から丁寧に教える必要があります。しかし「できない」のではなく「知らない」だけであることがほとんどです。未経験の業務でも会社がきちんと育成プロセスを設計し,実行していけば組織の底上げにつながります。
(月刊 人事マネジメント 2025年10月号 HR Short Message より)
HRM Magazine.
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