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成果を出せる人は何が違うのか

(株)チームボックス グローストレーナー 芝野恭匡

■同じように学んでも結果が変わるワケ

 私は十年以上,業界や規模の違う会社でリーダー育成の現場に立ってきました。驚くのは,全く同じ教育でも,終わって数ヵ月後に活き活きしている人と,何も変わらない人がはっきり分かれることです。その分かれ道は,能力差ではなく「自分を正当化する気持ち」をどれだけ脇に置けるかでした。多くの企業で管理職は依然プレイヤーを兼ねています。「まずは自分が成果を示さなければ」と仕事に向かい続けるうち,部下を育てる時間も気力もなくなり「忙しいから仕方ない」と発言してしまう……この構造が繰り返されます。
 例えば営業部長のAさん。数字を作るのは自分の使命だと信じ,夜遅くまで案件を追いかけていました。私は1on1の場で「来年のあなたのチームはどんな姿になっていたらうれしいですか?」と尋ねただけです。Aさんは「部下がもっと自分で考えて動くはずだったのに」と呟き,しばらく黙り込みました。自分の背中が部下を縮こまらせていたと気づいた瞬間でした。
 一方,人事部門のBさんは「部下も頑張っています」と言うだけで,部下の名前も具体的な会話も出ません。問いを投げても「特に課題はないんです」と笑い,表面は穏やかなまま。現状を変える必然性が低いと人は変化にエネルギーを割きません。この“温度差”が,その後の成果を大きく分けます。

■プレイヤーからリーダーに変わるひと押しを

 その後,Aさんは部下と週1回の1on1を始め,「最近うれしかったこと」から話を聞くことにしました。「会話が空回りしたらどうしよう」と焦る姿もありましたが,私は成果より挑戦を認めることを意識し,見守っていました。3週間目,Aさんは「部下に謝ったんです。任せると言いながら結局口を出していた」と私に報告し,恥ずかしそうな表情の裏には手応えも感じている様子でした。その後のチーム会議では部下が自分の意見を出す回数が増え,決裁スピードも上がり,Aさんが担当していた見積作業の6割を若手が担うようになっています。
 Bさんも部下と1on1を行いましたが,「業務が忙しい」と3回で止めてしまいました。部下からの提案は増えず,残業時間も以前とほぼ変わらず,優れたスキルを持ちながら,成果には結びつけられませんでした。私が学んだのは次の3点です。
@リーダー自身が「正解を出す人」から「問いを投げる人」へ役割を再定義する。
Aうまくいってもいかなくても,その挑戦をそばで見ていると言葉で伝える。
Bプロセスを見える化し,最初の3ヵ月だけでも続けやすい仕組みを用意する。
 例えば1on1をカレンダーに固定し,振り返りを共有フォルダに置くだけでも違います。派手な制度より,こうした小さな後押しのほうが変化を生みます。プレイヤーとして優秀な人ほど,仕事を手放す怖さがあります。だからこそ人事・教育担当者には,リーダーが安心して「任せる練習」ができる場づくりをお願いしたいのです。
 最後に。“至らなさ”は汚点ではなく伸びしろです。そう伝え続けると,リーダーは自分を守る鎧を脱ぎ,チーム全体で成果をつかみに行けます。組織が伸びるカギは,上司が部下を見るまなざしにある……私は現場で何度もそれを見てきました。これから本格化する人的資本開示の数字を裏付けるストーリーを作るのは現場のリーダーの小さな対話です。今日の30分が,明日のエンゲージメント指標を動かす。そう考えられるリーダーを1人でも増やすことが,これからの人事の価値になると感じます。

(月刊 人事マネジメント 2025年8月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
静岡県生まれ。大学卒業後、メーカー、商社などで営業リーダーとして活躍。その後、創業間もない研修会社にて営業、プログラム開発、講師に従事。同社教育研究所にて成長力に関する調査・研究に携わり、現場で成果を出す人の成長について見識を深める。2019年より管理職やリーダーの育成にコミットする、グローストレーナーとして従事している。
*グローストレーナー:毎日の振り返りと約5ヵ月に及ぶトレーニングと1on1により、リーダーが「変化」するまで伴走し、「わかる」から「できる」までの成長支援を続けることで研修後も変化し続けられる人材を育成。

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