書評 2025.10
高学歴発達障害
忘れ物やケアレスミスが多く,指示が頭に入らない,相手の発言にかぶせて衝動的に話すといった行動には,ADHD(注意欠陥多動性障害)・ASD(自閉症スペクトラム障害)が疑われると,ADHD専門外来の医師である著者は語る。本書では,まずADHDとASDの基礎知識を解説。続けて,学生・社会人・フリーランスに分類し,計36の症例を物語風にトレースしていく。座学の成績は優秀なのに,ルールの順守や協調行動,場の空気を察した柔軟な対応などが苦手で,一度は社会生活に挫折。その後,投薬や環境を変えるといった処方により改善する経過をたどっている。一定の配慮(具体的な指示,頻繁な内容確認,指示をメモに取る時間の確保),ルーチンワーク,自由度と専門性の高いリモートワークへの職種転換などで問題なく就労できるようになった再生事例は労使双方にとって示唆に富む。また,機械的記憶,計算能力が突出していたり,発想が突飛な方向に脱線したりする場合は発明家や起業家として成功する例もあると著名人の名を挙げて分析を加えている。
●著者:岩波 明 ●発行:文藝春秋
●発行日:2025年3月20日 ●体裁:新書版/255頁
なぜあの人は同じミスを何度もするのか
心理学の専門家が「記憶」のメカニズムを解き明かす。会議・商談の言動は優秀なのに日時をすっぽかす人,ポジティブな体験に恵まれているのに愚痴ばかり口にする同僚,「そんな指示はしていない」と真顔で反論する上司など,職場にありがちなシーンを例に,当事者の脳内で起きている現象をレクチャーしていく。まず,過去の出来事を覚えている「回想記憶」と,これからやることを忘れない「展望記憶」は全く別の機能だと説明。ポカを繰り返す場合には,トラブルを振り返って問題点をチェックする自問自答やメモをとるアクションが有効だとアドバイスを綴る。一方,「言った」「言っていない」のトラブルでは保身による嘘ではなく,記憶が書き換えられる作用を疑う。記憶は刻まれるときも思い出すときも,その場の気分に左右されやすく,つじつま合わせが起きるとの見立てだ。吹き込む情報によって記憶が変わる心理実験を引き合いに,記憶を前向きな状態で脳内に整理しておけば,人生をプラスに導けるとして応用の可能性に言及している。
●著者:榎本博明 ●日経BP /日本経済新聞出版
●発行日:2025年7月17日 ●体裁:新書版/223頁
「就職氷河期世代論」のウソ
履歴書を何百通も送った,ブラック企業にしか就職できなかった,派遣を転々とするしかなかった……と報じられる就職氷河期世代の姿は錯覚であり,少なくとも「典型」ではないと本書はデータで検証していく。バブル世代との比較では,求人数の差はあるものの就職者数はあまり変わらず,氷河期世代だから大手に採用されなかったという現象は起きていないと断言する。また,企業が一般職採用を廃止し,四大卒女子が増えた時期に重なるので,苦戦する男子学生の声が氷河期のせいだと誤認されたのではないかとも疑う。マクロ・時系列で見れば給料が少ないのは全世代の傾向であり,非正規労働者は大卒以外の層が多く占めていることから,氷河期と結びつけて批判する根拠は薄いと語る。転じて,幻想である「就職氷河期」を問題化し,こじらせたのは誰かと問い,マスコミの無知と政治家のご都合主義をあぶり出していく。最終章では,氷河期世代に限定して分配を厚くする困窮者救済策は本質的に間違いだと述べ,「本当に効く雇用対策」を提案している。
●著者:海老原嗣生 ●発行:扶桑社
●発行日:2025年9月1日 ●体裁:新書版/212頁
何でもまわりのせいにする人たち
産業カウンセラーの立場から,6,500件以上の相談を担当してきた著者が「他責思考」の問題点と修正法をひもといていく。「会社のせい」「親ガチャだから」「政治が悪い」といった他責の思考・言動は,本人も気づかないうちにクセになってしまうと危惧する。他責は,自分を守ろうとする防衛機制のうち「合理化」が突出した現象で,強すぎると周囲を巻き込み迷惑をかける存在になりかねないと注意を促す。また,「相手が悪い」という結論ありきで考えが止まってしまうので,出来事を多面的に考察する思考力が低下。成長の機会を失い,周囲から孤立し,日々怒りの感情に支配され,メンタルヘルスを悪化させるリスクも高めるデメリットを指摘している。他責グセから抜け出すには,他人を傷つけずに自分を肯定する(自分を守る)ナルシストに寄せていくのも1つの手だとユニークなヒントを紹介。対して「自責」が過ぎても体調不良を引き起こすので,自責と他責は半々,「ほどよく自責,ほどよく他責」というバランスが重要だと訴えている。
●著者:小日向るり子 ●発行:フォレスト出版
●発行日:2025年9月2日 ●体裁:新書版/179頁
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