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書評 2025.11

矛盾が成果に変わる組織をつくる

 製造業や営業の現場で直面しがちな“矛盾事例”を挙げ,「理論」を介してリーダーの考え方・動き方のヒントを導く1冊。ただ,本書には,解決策となる直接的な模範解答は明示されない。そもそもが答えのない世界だという前提に立ち,動きながら,振り返りながら,時に偶然の作用を取り入れながら,問いと対話を重ねて,チーム力を高めていく道筋をレクチャーしていく構成でまとめられている。知識の面では,経営理論,行動経済学,社会学,心理学等を軸に「レジリエンス・システム」と名付けた枠組みを示し,矛盾と迷いを“活用”していく思考法を説く。トップダウンとボトムアップ,短期目標と中長期構想の間に矛盾が生じても,どちらかの排除ではなく両面を視界に入れて解決に近づく方策はあるとの示唆だ。単純化すると,低コストと高品質が対立する場合,製造方法の改善という工夫で乗り越えられる可能性があるという見方を提案している。目の前の実務に追われる読者にとっては,視野を拡大して物事を捉え直す思考訓練の機会になりそう。

●著者:宮下篤志  ●発行:中央経済社
●発行日:2025年9月10日  ●体裁:四六版/154頁

職場問題ハラスメントのトリセツ

 労使双方から相談を持ちかけられる著者が,ハラスメント問題の要点と回避策のヒントを詳述する。基礎編の解説では,白黒の明らかなケースは少ない事情,また,被害者が状況の改善よりも加害者の処分を優先して望むといった人間関係の複雑性を指摘する。続く実践編では,架空と断ったうえで,「加害をしやすい人」につき7類型・22のリアルなストーリーを紹介していく。懲戒処分までには至らず加害者の反省と相談者の納得のうえに解決した例のほか,処分を受けた側が退職,あるいは相談した側が転職準備を決意するといった収束もある。同様に「加害にあいやすい人」についても5類型・10のストーリーを紹介し,コミュニケーションが苦手,職場においてマイノリティ,真面目で責任感が強く自分を責めやすい,といった特徴を挙げている。最終章の「付録」では20項目から構成される「加害リスクチェックリスト」を掲載し,診断と各項目の注意点を整理。従業員の皆さんの他,人事部などハラスメント相談を受ける立場の方にも一読をおすすめしたい。

●著者:村井真子  ●発行:アルク
●発行日:2025年9月18日  ●体裁:四六版/240頁

あなたの職場を憂鬱にする人たち

 カウンセラー・メンタルヘルスの専門家として約1万人の相談に対応してきたという著者が,職場で生じる人間関係のモヤモヤを心理学の知見で解きほぐしていく。「部下を憂鬱にする上司」「あなたを憂鬱にする同僚」「上司を憂鬱にする部下」という3グループに分け,計15のストーリーを紹介。一般企業で身近に起こりそうな例のほか,著者の研究対象であった議員秘書の内幕や,人事コンサルティングの職種(優秀すぎる部下を持った上司の葛藤)など特殊な職場の話も盛り込まれていて興味深い。各場面で起きている現象を心理学のアプローチで観察し,嫉妬,不安,劣等感,怒りの感情のほか,アルコール依存症,摂食障害,ADHD,境界性パーソナリティ障害など病的な症状の影響も含めて考察する。様々な局面で生じる心理作用を知っていれば,状況を客観視でき,必要以上に悲観したり,モヤモヤを増幅させたりしなくて済むと著者は語り,その狙いから,最終章では5つの「役立つ知識」を整理し,身に付けるべきスキルをガイドしてくれている。

●著者:舟木彩乃  ●発行:集英社インターナショナル
●発行日:2025年10月12日  ●体裁:新書版/191頁

HR再起動

 HRは今,地殻変動の真っ只中にあるという確信を得て,「本当にやるべきHRの仕事は何か」と本書は思考を深めていく。HRの領域で起きている変化では「人的資本経営」と「AI」の2つのインパクトに着眼し,問いを重ねて向き合うヒントを導き出していく。典型的な旧弊の例では形骸化したMBOを挙げ,目標を下げて達成率を稼ぐ現象は成果主義ではなく損得主義だと批判。MBOはVUCAの時代に合わないと指摘し,「ノーレイティング」の動向に注目する。一方,HRとAIの可能性では,1人ひとりにパーソナルAIエージェントがつき,勤怠や研修管理のほか,最適なキャリアの提案まで付き添うような世界がまもなく到来すると予測する。それゆえ,AIに模倣できない人間性の核心がカギになると逆説的に見立て,共感力,直観力,倫理的判断,意味の創出といった価値の再定義を提案している。定型業務と化した制度運用から脱し,AIの時代だからこそ人間らしさを守るために再起動が必要だと一貫して訴えていて,書名の真意もそこにうかがえる。

●著者::藤本英樹  ●発行:日本橋出版
●発行日:2025年10月15日  ●体裁:四六版/204頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki






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