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書評 2025.09

事業部長になるための「経営の基礎」U

 『事業部長になるための「経営の基礎」』シリーズ第2弾。数字と経営戦略を扱った前作が“攻め”だとすれば今回は“守り”の領域になると位置づけ,前半に「コンプライアンス経営編」,後半に「危機管理編」を解説している。明文化されたルールの遵守だけではなく倫理規範まで同列で問われる「日本型コンプライアンス」の特徴を挙げ,リスクを発見する12の着眼点と,5つのステップによるリスクマネジメントの進め方を詳述。職場に潜むリスクの洗い出し,予防対策マネジメント,さらに,コンプライアンス研修とコンプライアンスリーダーの育成を教育体系に組み込む運用までを視野に入れる。一方,不祥事対応では,@察知,A認定と発動,B拡大防止,C事態収拾・事後対応,D再発防止,という5つのステップに区切って基本を整理。とりわけ平時の準備を重視し,危機管理マニュアルの策定と危機管理教育の推進をガイドしている。不正行為の調査の進め方と留意点,懲戒処分の種類など,人事部門でも確認しておきたいコンテンツがぎっしりだ。

●著者:角渕 渉/新井健一  ●発行:生産性出版
●発行日:2025年7月30日  ●体裁:四六版/400頁

実践カスタマーハラスメント対応ケーススタディ

 コールセンターでのやりとりや店舗の現場で起こりがちなカスハラトラブルを20のケースで学習していく対応ガイド。各事例とも最初に「望ましくない対応」と題して事態がこじれていくストーリーを示し,続けて「考えてみましょう」と問題点を整理したうえで,改めて時間を巻き戻して「あるべき対応」でストーリーを修正していく構成になっている。返品・返金・誠意を求め上司を出せと凄む言動などは典型だが,考えさせられるのはこじれた原因が接客側にあり,カスタマー側の言い分にも一理ある場合だ。その接客ミスを突いて,理路整然と謝罪を求め,エスカレートしていくモンスターにどう対応すべきかは興味深い。1つの解は“ルールを理解いただけない相手はお客様ではなく,コミュニケーションが成り立たないときには,企業側から丁寧に話を打ち切る”といった対応だが,全社でブレなくそうした判断ができるようになるには,経営レベルでの覚悟も問われるとされる。各ストーリーとも描写が絶妙にリアルなゆえ,血圧上昇には注意して読みたい。

●編著:日本能率協会コンサルティング  ●経団連出版
●発行日:2025年7月31日  ●体裁:四六版/269頁

「働きがい改革」に本気の上司がチームを覚醒させる

 「働き方改革」の結果“働きやすさ”の環境は整っても,職責への自負,周囲からの承認,成長感,達成感といった手応えが満たされなければ“働きがい”は得られないと著者は憂う。縦軸に「働きがい」,横軸に「働きやすさ」をとった4象限を描き,働きがいの小さい「ぬるま湯企業」(右下)から両指標とも大きい「ワークハッピー企業」(右上)への大転換を訴える。そして,カギとなる「上司」に焦点を当て,上司自身の変革をレクチャーしていく。疲弊するマネジャーからやる気みなぎるリーダーへ,管理者ではなく支援者へ,自ら動くプレマネから人の心を動かすマネジャーへ脱皮するためのヒントを多角的に解説。著者自身の会社では週休3日制と完全在宅勤務を試行し,裁量権やオーナーシップとの相性の良さが確認できたと報告する。自己裁量でのびのび仕事に向き合える環境を守るためには,いちいちお伺いを立ててマイクロマネジメントの罠にはまるのではなく,自分で決断し,結果責任を引き受ける覚悟もセットだと極意を言い添えている。

●著者:前川孝雄  ●発行:合同フォレスト
●発行日:2025年8月4日  ●体裁:四六版/232頁

再雇用という働き方

 複数の独自調査と企業事例を紹介しながら,現役とシニアの間の「ミドルシニア」がどのように働き,また,会社は彼らをどのように扱っていくのかを考察していく1冊。継続雇用・再雇用・転職・独立・引退と定年後の選択肢はかつてと比べて幅があるので,いつまでどのように働くかは,家計・健康・意欲・価値観等に照らして個々が主体的に決めればいいと前提を確認する。そのうえで,雇用義務,人材不足,年上部下の問題など難しいマネジメントが求められている会社には,一律で処遇を下げるポストオフ(役職定年・定年)のあり方から見直す必要があるのではないかと指摘し,再雇用者でも成果創出できる人には現役並みの処遇を継続する企業は増えてきたと報告する。年上部下にプレイヤーの活躍を促すためには,目標を追う仲間として期待を伝え,大きな挑戦を求め,未達の場合は躊躇せずイエローカードを渡す“甘えのない関係”は必須だと捉え,制度面ではペイ・フォー・パフォーマンスの仕組みを「70歳雇用時代への処方」の1つに挙げている。

●著者:坂本貴志/松雄 茂  ●発行:PHP研究所
●発行日:2025年8月22日  ●体裁:新書版/233頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki