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書評 2025.08

会社は社員を二度殺す

 長く労働相談の現場に身を置いてきた著者が,過労死・過労自死の“その後”を描く。勤労者の突然死・自死が起きたとき情報不足から沈黙するしかない遺族と,狡猾な対応に走る企業とを対比させ,そもそも遺族が労災申請に動かないと,単に病死・自殺で処理されてしまう理不尽さを報告している。労基署が調査に乗り出したケースでも,会社は証拠集めを妨害し,事実を歪曲・捏造し,「高血圧」「残業代目当」など死因を本人に転嫁。労災認定に進んでも,会社にペナルティを課す効力はなく,遺族が改めて民事訴訟に動かない限り,謝罪や反省は引き出せない困難さを指摘する。そして訴訟に至ると「不倫の噂があった」「家庭の問題では」等,会社は責任転嫁の言動をためらわず,被害者の名誉が傷つけられるという意味で「二度殺す」という書名の真意が明かされる。前半は生々しい法廷ドラマのような展開を再現。後半は賠償金を巡って「命」が値踏みされる経済原理を問題視していく。人事部・法務部の「闇」に踏み込んだ衝撃の問題作といっていいだろう。

●著者:今野晴貴  ●発行:文藝春秋
●発行日:2025年6月20日  ●体裁:新書版/288頁

小さな会社の採用はスキマを狙え

 中小企業が大企業と同じ土俵,ライバル企業と同じ方法で戦っても採用が困難なのは自明だと語る著者は,コンサルティングの現場から導き出した「ゲリラ採用」を提案する。「求職者に選ばれる採用」という立ち位置を全社で共有し,@ターゲットを絞る(ペルソナを具体的に描く),Aライバルを絞って分析する,Bベネフィット(求職者にとってのメリット)を表現するという3方向からの戦略とアクションを詳述している。目の前に突然浮かんでは消えるチャンスに即応するスピード感を中小企業の強みに挙げ,例えばゴルフ好きの応募者がいたら特別扱いするといった柔軟にして独自性のある決断や,人の魅力で対象者をひきつける“属人化”の効力も是認する。辞めるリスクの高い20代を採り合うのではなく,40代に門戸を広げるだけで人は集まり,20年間辞めずに働いてくれると「ゲリラ採用」の可能性を例示する。「ターゲットシート」「ライバルシート」「ベネフィットシート」のダウンロードと解説動画を視聴できる購入者限定特典もうれしい。

●著者:窪田 司  ●秀和システム
●発行日:2025年6月30日  ●体裁:四六版/240頁

Z世代の頭の中

 いわゆる「Z世代」の若者1,600人を対象に大規模なアンケート調査を実施し,55人への直接取材を重ねて,世代の特徴を考察していく1冊。「仕事と働き方」「政治と起業,地元志向」「恋愛と結婚」「家族と出産」「消費とSNS,友人関係」の5章に分けて傾向を整理したうえで最終章では「Z世代と創るニッポンの未来」と題し,彼らとの向き合い方を探る。Z世代は必ずしも打たれ弱いわけではなく,自分をアップデートし続けようとする成長志向が高いとされる。「楽しいだけのぬるま湯」を警戒し,「この会社じゃ成長できない」と気づいた場合は離職の決断も速い。キャリア観ではリスクを先回りし,複数のプランを準備したり,20代から老後の生活資金作りに励んだりするなど行動の原点には焦りと不安感が大きいと分析されている。翻って上の世代が仕事面で彼らに対峙する際は「多様性を示し」「対話と傾聴のプロセスを経て」「個別の助言を通じて自律的な選択を後押しする」スタンスが有効だとまとめ,1on1のスキルをヒントに挙げている。

●著者:牛窪 恵  ●発行:日経BP /日本経済新聞出版
●発行日:2025年7月8日  ●体裁:新書版/296頁

採用の新基準

 「いい人」から「合う人」へ,企業による一方的な「選別」から応募者も企業を選ぶ「選び合い」へ,採用は変化の局面を迎えたと著者は語る。それに伴い採用基準も変わるという前提で,従来のスペックの擦り合わせに代えて,価値観や行動原理をマッチングさせる「スタイルマッチ」を提案する。現実には,企業がアピールする価値観に応募者が共感したとしても,働く現場では,判断のプロセスや行動のスピードが想定と違ったという齟齬は起こりうる。それを回避するためにスタイルの解像度を高め,言語化する必要があると述べ,言語化にあたっては,@Business,ACulture,BJob,CActionという4つの要素による象限を図示し,自社のスタイルを描き出す手がかりを公開している。また,求人媒体やSNSにどうやって情報発信するかというテクニカルなノウハウの前に「誰に,何を」というコア要素を固めておく重要性も言い添える。大手企業5社の成功事例,15項目の「採用の強さチェックリスト」等も見逃せないコンテンツだ。

●著者:秋山 真  ●発行:アスコム
●発行日:2025年7月8日  ●体裁:四六版/256頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki