書評 2025.07
生成AIに仕事を奪われないために読む本
生成AIの普及期を迎えるこれからの社会でキーとなるのは「AIエージェント」だと著者は語る。AIへの指示を自動化するロボットのような機能とされ,これを使いこなせる人が生き残り,指示待ち型・定型業務型の仕事はなくなると予測する。そこで,勤労者がテクノロジーに負けずに市場価値を保持し続けるために身につけておきたいスキルは何かを考察し,19の項目に整理したのが本書だ。AIに代替できないスキルの典型は「一次情報収集力」「課題発見力」など。また,AIの提案をそのまま受け入れない「レコメンド拒否力」,他責にしない「自己責任力」,得意を活かすために環境を変える「逃げ出す力」も人間ゆえの強みだと説明される。さらに「マネジメント力」では,1点でも足りなければマイナス評価を下すAIに対し,「結果は一歩届かなかったが,期待を込めて今回は昇進を認める」といった判断ができる特徴を人間の強みに挙げている点は興味深い。巻末のQRコードから20番目のスキルを動画で視聴できるシークレット特典も面白い試みだ。
●著者:友村 晋 ●発行:日経BP/日本経済新聞出版
●発行日:2025年3月10日 ●体裁:新書版/312頁
仕事の壁はすべて「心理学」が解決してくれる
「なぜかツキをよぶ人が続けている『いつもの習慣』」「相手の『YES』を引き出す心理テクニック」「できる人がやっている『ビジネス信用力』の磨き方」「『交渉の達人』に学ぶ,勝負で使えるワンフレーズ」「人の気持ちをぐんぐん揺さぶる『説得術』を磨く」「味方をどんどん増やす『人たらし』の心理作戦」「部下を尊重しながら上手に導くリーダーシップ」の7章・計100項目の心理学的実践テクニックを解説・編集した1冊。各トピックは1ページまたは2ページの読み切り型の構成ゆえ,気になる項目だけピックアップするような読み方も許されるだろう。いずれもよくあるビジネスシーンを引き合いに事例ベースで説明されているのでイメージしやすく理解も進む。自己暗示を切り口に自分自身をポジティブに導く方法,相手に頼みごとを聞いてもらうちょっとした言い方・振る舞い方の工夫,部下を動かす生産的な一言など,心理学ではおなじみの「〇〇効果」「〇〇の法則」を具体的におさらいできる。ここぞというときに試してみたい知識が満載だ。
●監修:大美賀直子 ●青春出版社
●発行日:2025年6月10日 ●体裁:新書版/191頁
ひとり人事から中堅企業まで使える人事1年目の教科書
通算30年,企業人事に関わってきた著者が自身のキャリアを手掛かりに「ひとり人事」の仕事と取り組み姿勢をアドバイスする。各章の内容を確認する「まとめ」と「復習問題」が差し込まれた構成は教科書的だが,学術体系に基づく組織マネジメント論ではなく,著者の体験を出発点に諸問題を構造化していくエッジの立て方に特徴がある。大企業の子会社・関連会社・グループ会社,外資系企業の中堅中小規模支店・日本法人,ファミリー(オーナー)企業という組織のデフォルトの差異を指摘し,ポジション,スタンスの違いを明らかにする。そのうえで人事の役割を,プロデューサー,ディレクター,フィクサーに分け,エッセンシャル業務,キラキラ業務,隠密業務の3方向からスキルをひもといていく。「ひとり人事」のキャリアのあり方では,社内にムダな敵を作らない全方位外交を意識し,専門性を磨いて信頼を築いていこうと諭す。書名は「1年目の教科書」とあるが,人事業務の経験がある方なら彼我を対比させながら,立体的に読めて楽しめそう。
●著者:岡田英之 ●発行:生産性出版
●発行日:2025年6月12日 ●体裁:四六版/240頁
エッジソン・マネジメント 2.0
書名の「エッジソン」とは,「尖った人」を指す著者の造語。どこにも答えのない時代に答えを創る人,個々のプレイヤーのスキルを統合してオーケストラを完成させる指揮者のような「共創リーダー」を想定し,そのような人材を育成していく取り組みを本書に報告している。概念は「青田買い」ではなく「青田創り」と表現されているものの,特定企業と特定の学校の関係ではなく,N対Nの公共性を確保して展開させる狙いから「一般社団法人エッジソン・マネジメント協会」を設立したと補足する。具体的には学生のプロジェクト活動に経営者・社会人メンターが関与していく形をとり,すでに万博参加や地方活性化等の稼働実績があるという。これを高校3年+大学4年+社会人3年目を意味する「高大社」,「産官学」「地域内」でそれぞれ連携を広げていく展望を描く。視線は他社を出し抜く採用戦略といった次元になく,国力を高める人づくりにある。企業人読者としては改めて自ら仕事に向き合う姿勢と意識の高さが問われているようで,緊張を覚える。
●著者:樫原洋平 ●発行:PHP研究所
●発行日:2025年6月16日 ●体裁:四六版/220頁
HRM Magazine.
|