【水沢の一夜】
蘭学医高野(たかの)長英(ちょうえい)の母美也(みや)と娘能恵(のえ)のもとへ、長英の亡き父の親友、遠藤惣左衛門が突然訪れる。惣左衛門は、蛮社の獄(ばんしゃのごく)で入牢した長英が、火事に乗じて脱獄し追っ手を逃れてこの家を目指していること、その為藩では鉄砲隊まで繰り出したことを告げ、長英に自首させる為に協力してくれと説く。
美也に拒絶された惣左衛門が空しく引き上げた後、その息子で蘭学志望の啓四郎は友人らと計り、長英救出のため能恵を同行しようと言う。だが、母も子も顧みず、奔放に行動する父長英を怨む能恵は断ってしまう。
惣左衛門を先頭に山狩りの隊士たちが出発する。
夜も更けた頃、川人足に姿を変えた長英が入ってくる。久々の対面に長英と美也は抱き合って喜ぶ。しかし父を見つめる能恵の瞳は冷たかった。
そこへ、誤って山狩りの鉄砲に撃たれ、重傷を負った啓四郎が担ぎこまれる。そして―
【毛抜】 -歌舞伎十八番の内-
小野小町から三代目にあたる公家小野(おのの)春(はる)道(みち)の屋敷内では、御家転覆を企む家老八剣玄蕃(やつるぎげんば)・数馬(かずま)親子と、忠義者の次席家老秦民部(はたのみんぶ)・秀太郎の兄弟が対立。そこへ朝廷からの勅使が訪れ、干ばつからの天下を救うため、小野家の重宝、小野小町の雨乞いの名歌の短冊を差し出すよう命じるが、短冊は紛失していた―。
小野家の姫君錦の前(にしきのまえ)と文屋豊秀(ぶんやのとよひで)の縁組みが、姫君の病気を理由に延びており、豊秀の家臣粂寺弾正(くめでらだんじょう)が見舞いの使者として遣わされる。
何と!姫君は髪の毛が逆立つという奇病に苦しんでいたのだ。
御家転覆の企み、そして姫君の奇病の謎に、弾正が挑む―。
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