第35回 ウクライナ侵攻とサイバー攻撃

ロシアによるによるウクライナへの軍事侵攻が国際的のみならず、日本国内においても大きな問題となっています。ロシアが西の隣国であるウクライナに対して軍事侵攻し、その首都をはじめ、各都市を破壊している事実は、反対側の隣国としての日本に対する脅威も想像できなくはないからです。日本に対する軍事侵攻も全くないとは言えませんが、ロシアとの貿易が途絶えること以上に、エネルギーや穀物等、ロシアやウクライナの世界経済に与える影響が間接的に国内の経済に響いてくることが心配されています。

ロシアによるウクライナ軍事侵攻は、サイバー攻撃の脅威にも影響しています。確証があるわけではないのですが、ロシアを擁護する組織等から、反ロシアの立場を取る国々の企業等へのサイバー攻撃、この侵攻の混乱に乗じての不特定組織へのサイバー攻撃の増加です。日本企業へのサイバー攻撃も例外ではありません。大企業のサプライチェーン上の中小企業はもちろん、直接的には政府やインフラ、および大企業に関係のない零細企業であったとしても日本国内の組織というだけでサイバー攻撃の対象になりえるのです。以前に「クジラ漁」の問題が世界的な話題になった際に、和歌山県太子町を中心にクジラ漁や鯨に関連する企業がサイバー攻撃の対象になりましたが、「鯨」という文字が付いているだけで、鯨とは全く関係のない会社がサイバー攻撃による被害を受けた事例がありました。中国との関係が悪化した際には、日本政府機関へのサイバー攻撃が行われ、その際、茨城県の「霞ケ浦」や埼玉県川越市の「霞ヶ関」がサイバー攻撃を受けた事例も存在します。サイバー攻撃は組織的に行われ、その組織の攻撃リストに掲載されてしまうと被害を受ける可能性があるのです。

もちろん、双方の国家としてのサイバー攻撃も存在します。戦場は陸海空だけでなく、宇宙、そして第5の戦場であるサイバー空間なのです。宇宙も偵察衛星による写真データや電磁波等のデータ解析から敵情を把握、逆に妨害や偽装によって混乱させ戦力を削ぐことが行われています。そして見えない戦場であるサイバー空間では、見えないゆえに陸海空での実戦以上に、盛んに攻撃や防御が行われています。一般にサイバー攻撃と呼ばれるサイバー空間上での攻撃は不正アクセス等の直接的に情報通信システムを無力化する攻撃を指すことが多いようです。しかし最も効果的なのは、情報通信システムを利用する人自身を攻撃し、混乱させることによって、ある意味で無力化することを目的に、情報操作やフェイク(虚偽)情報を流布させることです。ウクライナ大統領のフェイク動画が話題になりました。ウクライナ軍に向けて、ロシアに投降するように命じた偽物の動画を作成し、流布させたのです。サイバー空間や情報通信技術の利用はともかく、これは古来からの戦争において用いられた戦術です。現在と異なるところは、けた違いな情報が伝わる速度とその範囲、そしてその情報に触れる人数です。直接的に人を対象とした最も効果的かつ効率的な攻撃なのです。