第3回 プロビデンスの目:拡大する監視カメラの用途とIoTの功罪


20世紀は映像の時代と呼ばれました。社会全体の様々な歴史が映像として記録された時代でした。その映像は記録として残されたのです。いわば映像記録の時代でした。21世紀は映像を記録ではなく、リアルタイムで共有する時代です。極端にいえば、全ての人の目を全ての人が共有する時代であり、人の目だけでなく、映像カメラを用いて人がいなくてもあらゆる場面を全ての人が共有する時代です。21世紀後半には共有と合わせて共感することも可能になるでしょう。21世紀はまだ始まって間がなく、この真に共有する時代の入口に入ったところです。しかし、今でも、身の回りで話題になる映像のほとんどがSNS(ソーシャルネットワークサービス)での投稿映像であり、犯罪や事故に関わる事件映像でさえ、監視カメラやSNSの映像です。町中に設置された監視カメラやほとんどの人が常に携帯しているスマートフォンのカメラによって映像を共有しているのです。まさに人類は「プロビデンスの目」を手に入れたといっても良いでしょう。

その至る所に設置された監視カメラですが、必ずしも「監視」として強く意識されているわけではありません。例えばライブカメラと呼ばれるものです。インターネットが普及し始めた当時からの利用方法で、風景を撮るカメラを設置し、常にその画像を配信するサービスです。利用者は家に居て、そして今ではスマートフォンを使うことによって、いつでもどこでも、その画像を楽しむことができます。世界中、様々な場所にカメラが備え付けられており、有名な観光地であれば、ほとんどすべてといってよいぐらい、今の風景を楽しむことが出来ます。例えば、イタリアのローマにある、有名な観光地である「トレビの泉」の今の風景を見ることも可能です。 http://www.skylinewebcams.com/en/webcam/italia/lazio/roma/fontana-di-trevi.html もちろん、国内の至る所の風景も眺めることが出来ます。たとえば、神戸六甲からの風景(夜景)を見ることも可能です。 http://www.feel-kobe.jp/camera/

ライブカメラは「監視」という強い意識はありません。しかし画像を共有することでは同じです。ライブカメラは、一般の人への公開が目的であり、すべての人との共有が目的です。対して、監視を強く意識したカメラでは必ずしも無条件に全ての人との共有が目的ではなく、制限する必要があるのが一般的です。つまりプライバシーを考慮して、監視を目的とした特定の人以外には閲覧できないようにする必要があります。

さらに最近ではペットブームも相まって、自宅での室内飼いの犬や猫の様子を垣間見るライブカメラが流行しています。このライブカメラ(ペットカメラ)は利用している人にとっては「監視」という意識は極めて低いのですが、自宅というプラバシーの宝庫を放映することになり、一般の監視カメラ以上に閲覧制限を厳しくする必要があります。

この閲覧を制限すべき監視カメラの映像を誰でも見ることができるようになっているということで、数年前に大きな問題になりました。インターネットの利便性、低コストであることを利用して、インターネット経由で監視カメラが数多く設置されています。特に駐車場、コインランドリー、複数の自動販売機設置場所等が多く、これは大概、無人で営業していることから、管理者(営業者)がいる自宅等で監視や録画を行っていると考えられます。しかし、コンビニエンスストア(コンビニ)やホテルのフロント、マンションの玄関等の監視カメラもあり、顧客や利用者に対する著しいプライバシーの侵害にあたる可能性が高いのです。さすがに大きく報道されて以来、改善されましたが、店舗や社内事業所、あるいは病院等で、事実上公開されている監視カメラも未だに少なくありません。本来ならば、アクセス制御といって、一般の人がアクセスできないような設定にしなければならないのですが、それを怠って誰でも見ることができる設定にしているのです。アクセス制御を行っている監視カメラもあるのですが、単純なパスワード認証だけであり、「1234」のような簡単なパスワードが設定され、デフォルトパスワードといって、監視カメラの購入時から予め設定されているパスワードのままで利用している場合もあります。これらも管理者以外の人が見ることになります。大概の場合、このような監視カメラも、掲示板等でそのパスワードが公開されてしまいます。

このようなインターネットを利用した監視カメラについては、20年近く前から問題になっていました。当時、保育園や幼稚園の映像を複数の監視カメラで放映し、保護者に見せるというサービスが始められました。施設での虐待が問題となった時期でもあり、自分の子どもが無事であるかを確認するためのサービスだったのです。保護者だけがアクセスすべきですが、一般に公開されてしまい、大きな問題になりました。誘拐等の犯罪に利用される可能性もあるからです。この頃は個人ではなく組織が運営していましたが、現在では個人が誰でもライブカメラを容易に、しかも安価に設置できます。ペットカメラに代表されるように、「監視」どころかプラバシー漏えいや盗撮や脅迫に利用されることを意識せず利用するようになっています。改めて映像の共有という時代の「光と陰」を十分意識しなければなりません。

今、またこの監視カメラの映像が大きく問題になっている背景には、IoTというキーワードがあります。IoTとはInternet of Thingsの略で、モノのインターネット、すなわちすべてのモノをインターネットにつないで更に高度なサービスを実現しようという動きがあるからです。監視カメラですら、インターネットにつなげることで大きな問題を起こしているわけですから、すべてのモノをつなげるとなると、さらに大きな問題が起こることは想像に難くありません。IoTに対しては、このセキュリティの問題は大きな課題なのです。