耳寄り資料室

これからのデータセンターで考えること(3)

シスコシステムズ合同会社
井村 直哉

2008年はグリーン、仮想化、SaaSといった話題で賑わいを見せたが、データセンターの中も、今後、それらの言葉を実現する環境へと変貌していくだろう。グリーンにおいてもSaaSなどのサービスにおいてもアーキテクチャのベースとして仮想化はなくてはならないものとなる。今までの仮想化は、サーバの仮想化が中心であったがストレージ、ネットワークそしてデータセンターの所在自体も仮想化されていくことになるであろう。将来は仮想化されたデータセンター間を仮想マシンが自由に行きかうようになる。この仮想サーバ環境のニーズを十分満たすためには、10ギガビットイーサネットのネットワークが適している。10ギガビットイーサネットは、すでに多く使用されているシステム領域もあるのだが、全体からは普及はまだまだと言ったところである。運用効率を高め、また消費電力の削減と言ったグリーンを目指すために10ギガの活用、そしてその帯域を如何に上手く使うかがカギになる。

ストレージ領域での10ギガの活用は、ユニファイドI/OとしてFCoE(Fibre Channel over Ethernet)の導入を進めることだが、ファイバチャネルでの伝送信頼性と同様なレベルまでをどのように補うか、まずはFCoEを利用するに当たっての前提となるDCE(Data Center Ethernet)、CEE(Converged Enhanced Ethernet)について見てみる。イーサネットは、元来、フレームエラーや輻輳発生時などによりパッケットドロップを発生させるロッシーネットワークであるが、ファイバチャネルにおけるB2Bクレジット(バッファツーバッファ クレジット)と同等のリンククレジット メカニズムをどのように実現するかが重要であった。イーサネットでは、同様の仕組みとしてIEEE802.3 Annex 31Bで定義されているPAUSEフレームがある。このPAUSEの機能は、スイッチのキュー(バッファ)がいっぱいになる前にデータの伝送を一時的に抑制するために使用するものである。アダプタ数、ケーブル数を削減する目的でもあるユニファイドI/Oにおいては、10ギガビットイーサネットを一つの大きな土管のように使用していると、様々な種類のトラフィックが流れるネットワーク上、PUASEにより、全ての伝送が一時停止してしまう不都合が生じる。そこでトラフィックの種類ごとに8つまでの仮想レーン(優先順位)を作ることができ、そのレーン(優先順位)ごとにPAUSEを用いてキュー(バッファ)の制御を行うことにより、優先すべきフレームのドロップを極力避け、10ギガの帯域を効率よく使用しながらロスレスネットワークを実現し、ストレージI/Oへの適用ができるのである。

より信頼性のあるネットワークを実現するために、フローの制御、輻輳の管理としてもう一つの技術がある。輻輳は様々な原因で起こるのであるが、ストレージI/Oネットワーク上のアダプタやスイッチ等のハードウェア上の何らかの故障、処理性能不足で発生することが多い。輻輳発生時には、いかに早く根本原因を突き止め、対処するかが重要であるが、輻輳管理においては、輻輳発生源からのトラフィックのシェーピングを行うことにより発生源からのトラフィックを抑制し、他の発生源以外のパスからのトラフィックへの影響を緩和するものである。現在、IEEE802.1Qauとして標準化を進めているが、Backward Congestion Notification(BCN:逆方向輻輳通知)等と同様なアルゴリズムで実装されることになるであろう。この輻輳通知の機能と前節のPAUSEの機能の違いは、PAUSEがホップ単位であるのに対して、BCNは輻輳の発生源まで伝搬されることである。

ネットワークの信頼性と共にもう一つ重要なことがある。それはファイバチャネルでSAN(Storage Area Network)を構成した場合、マルチパスI/Oができることである。イーサネットのレイヤ2ネットワークでは、トラフィックのループを防ぐためスパニングツリープロトコル(STP)が用いられる。スパニングツリーに沿ってフレーム転送が行われるため、常に1パスのみアクティブに使用されるかたちで、マルチパスでのI/Oはできないのである。そこでそのレイヤ2マルチパスをサポートするために、STPの代わりにIPネットワークで使用されるIS-IS等の経路選択アルゴリズムを使用し実現しようとしている。シスコからもIETFへ仕様を提案し、現在、IETFにおいてもTRILL(Transparent Interconnection of Lots of Links)という名前のプロジェクトで検討が進められている。では、それまではマルチパスI/Oはお預けかというと、そうでもない。FC-SANにおいてもマルチパスI/Oを行うためには、マルチパスで伝送されるフレームの管理、パスのロードバランスをきちんと行わなければならないので、そのためのソフトウェアをサーバへインストールする必要がある。サーバからストレージまで、全てをFCoEで構築することは、まだストレージイニシエータでのFCoEのサポートを待たなければならない。順次ストレージベンダーの対応は増えていくが、すでにFCoE-Switch-FC接続構成においては、サポートするマルチパスI/Oソフトウェアもあるのである。

イーサネットでのユニファイドI/Oへのチャレンジが始まったところであり、その基盤となるのがDCE、CEEである。では、DCEとCEEでなぜ名前が異なるのか不思議に思う諸氏もいることであろう。DCEは、次世代データセンターにおいてパケットロスの無い、より安定性のある効率の高いネットワーク(FCoEの実装基盤となる)を目指しシスコが提唱した言葉である。同様にCEEは、業界ベンダー間(シスコを含む)のコンセンサスを得るために標準化に先立ちIBM社が考案した名前で、DCE、CEEともに中核となる仕様(優先順位フロー制御、帯域幅管理、DCBX)は同一である。当初からDCEは、IEEE提案でもあるレイヤ2マルチパス、輻輳通知の仕様も含むスーパーセットであったが、今ではCEEを使用するベンダーにおいても、レイヤ2マルチパス、輻輳通知も含めて仕様説明しているので、どちらも同じと考えてよい。またFCoEのための仕様とも言えるが、ロスレスイーサネットでは、iSCSIにおいてもその恩恵が享受できる。個人的には、言葉は統一した方が良いと思うのだが、なかなか難しいのもこの業界の特徴でもある。

3ヶ月に渡り、これからのデータセンターにおいて考慮すべき、また注目すべきことを少しは述べることができたが、まだまだ多くの注目すべき大きな変化もあることであろう。IT技術者においても、サーバ担当、ストレージ担当、ネットワーク担当という垣根を低くしていく必要がある。それぞれの分野のエキスパートは必要ではあるが、今までと異なる分野へのチャレンジをしていただきたい。今年は「Change」の年と多く語られているが、受身のChangeではなく、Changeを起こさせる誰もがChallengeの年となるよう願う。同じCから始まるCiscoもChangeを起こすChallengeを続けるつもりだ。
(完)