耳寄り資料室

これからのデータセンターで考えること(2)

シスコシステムズ合同会社
井村 直哉

昨年、秋の米国金融危機に始まり厳しい経済情勢の中、我がシスコシステムズも年末年始は、例年よりも多くの休暇を取ることとなった。これは様々なコストセーブの一環であるが、システムを構築する上でも今まで以上にそのコストを抑える意識が高まっているように感じられる。私自身、お客様システムに対しては、できる限りシンプルに、後の運用段階まで含め、できるだけ余分なコストがかからないシステム構築を提案申し上げている。前回のケーブルの話に続き、今回はアダプタについてであるが、特にストレージ接続とも関係し、今後の拡大が予想される10GbE/FCoE対応アダプタを中心にコスト面も含め述べることにする。

ストレージとの接続は、もっぱらFibre Channel対応HBA(Host Bus Adapter)が使用されるケースが多いのであるが、私自身の実際の調達経験からもHBAは高価な買い物であった。冗長化構成をとろうとすると1サーバ当り最低2枚のHBA、ネットワークも2枚以上のNIC(Network Interface Card)を使用することとなり、サーバがたくさんあるとサーバ、ストレージの費用に加え、更なる多大な出費となり、多くのユーザにおいてもSAN構成への投資を躊躇したくなる気持ちにもなるのではないかと思う。それ故、ユニファイド・ファブリックとしてHBAとNICの機能を併せ持った統合アダプタとなればコスト面、エネルギー消費面での削減が可能になる。

この統合型アダプタのことをCNA(Converged Network Adapter)という。CNAは、HBA機能とNIC機能の両方を合わせ持つPCI Expressアダプタである。第一世代のアダプタは、ポートコネクタの後ろにMenlo ASICが配置されFCoEの処理がなされる。その後、別々に配置されているFC用ASICまたは10GbE用ASICへと処理が引き継がれていくのである。オペレーティングシステムからは、それぞれ2つの独立したデバイスが存在するように見える。ストレージへのマルチパスI/Oをサポートするソフトウェアでは、何の問題もなく動いてしまうものもある。Microsoft Windowsや各ベンダーのツールからも別々のアダプタが接続されているように見えるので、機会があれば是非確認していただきたい。
第一世代のアダプタは、昨秋に市場に出てきたのであるが、その価格の高さに驚いてしまった。日本でのCNA価格設定はHBAの時と同様、米国の2~3倍であり、まさにHBAの価格と10GbE NICの価格を足し算したものに他ならない。実際にボード上にはそれぞれの機能のAISCが載っているので足し算も間違いではないのだが。これではアダプタ統合におけるコストメリットがないに等しい。まだまだユーザ本位になっていない。

そこで第2世代のCNAが今年の前半にも各アダプターベンダーから提供されることになる。ここでは、すべての機能をひとつのASICで処理をすることと、8GB FCをサポートすることがポイントになるであろう。ASICの統合は、更なる消費電力の低下と価格面での低下が促進されることになる。今まではHBAを作っていたベンダーのみであったが、今後は10GbE NICベンダーもFCoEの機能を載せて来るようになる。米国では定価でSFP+ Copper仕様のものが$800以下で登場するかもしれない。FCoEを搭載しない10GbE NICであれば$600以下になることが予想される。今、日本での価格設定が非常に興味を引くものとなっている。たとえ良い技術であっても、それに見合った、その普及を促進する価格にならなければ、到底ユーザに受け入れられないものとなってしまう。
また、将来的にはLOM(LAN on Motherboard)も予定されており、CNAは購入するものではなく、サーバのマザーボード上に付いているひとつの機能となって行く。こうなるとFCoEによる接続にあたってアダプタの価格を気にする必要もなくFCoEがデータセンター内のBlock I/Oを必要とするシステムでは主流となる接続形態になっていくであろう。

コストの低減の意味では、特にローエンドシステムからiSCSI接続ストレージの利用が増えてきている。ユーティリティが充実しているストレージもあり、HBAに代わりNICを使用してストレージと接続でき、さらにブロックI/O が可能となれば、FC接続と比べかなりコストパフォーマンスが良いものとなる。10GbE上では、さらにパフォーマンスも見込める。但し、TCP/IPを使用している以上、そのオーバヘッドは大きく、TOE(TCP/IP Offload Engine)機能搭載のNICを使用しないとホストCPUにかなり負荷をかけてしまうことになる。その点、実際の性能試験においてもFCoEは、オーバヘッドは少なく、今までと同様のFCの管理モデルを踏襲し、FC接続と同様にサーバのSANブートをサポートすることにより、データセンター内では、より大きなシェアを獲得するものとなって行くと思われる。たかがSANブートといえども、物理サーバを抽象化し、将来のデータセンターの仮想化・自動化には有用なテクノロジである。また、iSCSIはTCP/IPは輻輳によるパケットドロップからのリカバリ面等の特徴をしっかり理解しておかないと、ストレージI/Oで使用する分、思わぬ落とし穴にはまることにならないよう気をつける必要がある。FCoEのベースとなるDCE(Data Center Ethernet)やCEE(Converged Enhanced Ethernet)によるロスレス・イーサネットの利用は、サーバ、スイッチ間での信頼性は改善できるがスイッチとストレージ間は依然TCP/IPでのやり取りとなるのでストレージまでFCoE接続の場合と比べ信頼性が落ちる。エンドツーエンドまでFCoEの構成で組むかどうかは、信頼性とコストとの兼ね合いである。

今後、特に将来データセンターの運用コストを格段に下げるために、仮想化の導入、遠隔地での無人、自動運用を考えられておられる方は、それぞれのテクノロジの特徴、意味を良く理解し、シンプルかつ効果的な組み合わせで構築できることが望ましく、それらをしっかり手助けできるパートナーを選ばれることをお勧めする。エンジニアにおいても、今後の仮想データセンターシステム構築においては、ストレージだけ、サーバだけ、ネットワークだけ、では済まされなくなってきており、新たなチャレンジが必要である。ボーダレスの時代がすぐ目の前まで来ている。

次回は、次世代データセンターネットワークにおけるいくつかの要点について述べることにする。