Storage Magazine翻訳記事

論説:ストレージの将来は雲の中?

著者Rich Castagna
Storage Magazine 2008年4月号より


ポール・マリッツ氏は近頃、「クラウド(雲)」の中にいるようだ。それはいいことだ。彼は自分の会社であるPi CorporationをEMCが買収した後、EMCに新設されたクラウド・インフラストラクチャおよびサービス部門のプレジデント兼ジェネラル・マネージャに就任した。マリッツ氏の肩書きを見ると、まるで気象学者か何かであるかのようだが、かつてボブ・ディランが歌ったように「風がどちらに吹くかは、気象予報士でなくても分かる」。そして現在、新しいストレージ管理手法に関して言えば、風は明らかにクラウド(雲)の方に向かって吹いている。

その「クラウド(雲)」とは、もちろんインターネットのことだ。インターネットを雲に例えるのは、PowerPointのプレゼンテーションでインターネットを綿雲で表すことに由来する。この例えが普及したのは、インターネットが私たちの頭上を覆っているからなのか、それともインターネットが誰も真に理解できないほど大きなものだからなのかは分からない。いずれにせよ、雲、つまりクラウドは今「流行り」になっていて、「クラウドストレージ」は宣伝文句として登場することが多くなった。

雲の例えは新しいものだが、概念は少し前からあった。ウェブが未熟だった時代、アプリケーションサービスプロバイダ(ASP)が手元にハードウェアやソフトウェアを持つ必要がなく、インターネットでアクセスできるアプリケーションやサービスを展開していた。ドットコム・バブルが崩壊するとほとんどのASPは淘汰されていったが、その一部(Salesforce.comなど)は、なんとか生き残った。最近どっと出てきているクラウドに関する各種サービスは、実装や管理、運用保守のコストを大幅に削減できるサービスモデルが登場する可能性を高めている。

Software as a ServiceまたはStorage as a Serviceとも呼ばれるクラウドストレージの世界は、大手のストレージ会社がストレージサービスプロバイダを取り込むのに大金をはたくようになってから賑やかになった。動きの多くはオンラインバックアップに絡むものだ。EMCはMozyを、SeagateはEVaultを買収、Iron MountainはLiveVaultを手に入れた。それ以外にも買収の動きがあった。

Symantecは自前で開発したSymantec Protection Network(SPN)というSaaS製品を展開している。SPNのSaaSでのサービスは二手に分かれている。1つはオンラインバックアップサービス、もう1つはセルフメンテナンスができるバックアップオプションで、Backup Exec 12のユーザーにオンラインストレージを提供する。昨年、Nirvanix Storage Delivery Network(SDN)を持って現れたNirvanixは、そのプラットフォームで提供するFreeDrive、ElasticDriveなどのサービスで頭角を現している。

Amazonは膨大なストレージ装置の管理の経験を生かし、Simple Storage Service(S3)を開始した。これは1ギガバイトあたり0.15ドルでオンラインストレージを提供するもので、転送料は1ギガバイトあたり0.10ドルだ。

このように、クラウドストレージは今急成長しているがまだ十分な検証が済んでいない製品カテゴリーであり、ストレージ管理者はミック・ジャガーのように「ここから出ていけ(Get off of my cloud)!」と叫びたくなる代物かもしれない。だが、もっとよい手法がインターネットから出てくる可能性もあり、今後も長い目で注視するべきだ。

クラウドサービスが従来のストレージ運用に影響力を及ぼすには、まずサービスが信頼性の高いものであること、ドットコム不況にも耐えうること、そして一貫した予測可能なレベルのパフォーマンスを維持できることを証明しなければならない。

だが、どうしてもこの種のサービスを検討しなければならないこともある。特に、ITのリソースが乏しい会社や設備の行き届かない遠隔地の事業所を持つ会社などがそうだ。その場合ストレージ管理者は、会社所有の巨大コンピュータにデータを置く場合以上のセキュリティを確保しなければならない。いったい誰が、CEOに「重要データは今ここにはなく、雲の上のどこかにあります」と説明したいと思うだろうか。

ユーザが自分のバックアップやディザスタリカバリをクラウドに託するようになるまでには、やるべき事がある。(バックアップやDRをクラウドに託するというのは)現実からかけ離れているように思えるが、一部のストレージメーカーにとっては、これは希望の光になるかも知れない。

(完)

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