ITアーキテクトのひとりごと
第50回 「修繕計画を立てないITシステム」

 

家やマンションを買うときには、頭金や毎月、ボーナス時の支払い計画を立てるのは常識だ。給料がどのくらい上がるのか、子供の教育はどうするのか。今にも超巨大地震が発生するかも知れないときには、家が壊れたらどうする、富士山が爆発したら、どこに避難しようかと、考えておくことは山積みだ。

 

どこからか「考えようとする動機や余裕があるだけ、まだましだ」という声が聞こえてくる。あまり考えずに成り行き任せでいっても、そこそこうまくいく、という事も多いだろうが、そんな良い時代は終わったらしいので、ちょっとは考えて行動しないといけない。

 

形あるものは壊れるということで修繕費用の蓄えも大事だ。マンションなら修繕費用の積み立てが強制的にあるが、一戸建てでも費用を考えておかないと大変なことになる。一戸建てでは、修繕費用が工面できなければ朽ちるに任せるという自己責任で解決できるので、少しは気が楽だが、共同利用のマンションではそうはいかない。一戸建てでも、朽ちるに任せたような家が近所にあると、周りからは後ろ指を指されることになる。

 

ところで、建物の寿命は数十年、百年と長いので、作るときだけでなく修繕計画やリフォームが非常に重要となるが、寿命が短いらしいITシステムの修繕計画はいい加減だ。

 

そもそも、ITの企画段階で10年、20年、もっと先を考えているプロジェクトには滅多にお目にかかれない。何とか無理矢理、10年まで寿命を延ばしたようなシステムは、最初から10年の寿命を計画していたわけではない。行き当たりばったり、お金がない(減価償却費って何だっけ)、人がいない、壊れないから、キャパシティに余裕があるから(最初からサイジングが過大だっただけ)と先延ばしされたものも多い。

 

今のITシステムは生産設備と同じようなものだ。従って、機械設備よりも短い期間で減価償却したITシステムを10年、11年、12年。。。と使い続けるメリットは大きいが、これまでのITシステムの進歩は速かったので、レガシーと最新技術をどのようにバランスさせるかはCIOの腕の見せ所だった。

 

ところが、クラウドデータセンター、仮想化、ITのコモディティ化やITアーキテクチャの標準化と汎用化、運用の標準化は、ITシステムも建築と同じように一定の標準化された設計、見積、構築、維持管理や分業化、そしてリノベーション、再開発を可能とするようなものに変わって行かざるを得ないような状況に追い込んでいる。

 

これらのコモディティ化をいっそう進めることで、作っては壊し、作っては壊しするようなユーザにとってもSIerにとってもリスクの高い作業が減り、もっとクリエイティブな仕事が増えてくることを祈る。クリエイティブなんていう言葉から無縁だったIT業界、ITシステムが変わっていき、長期の修繕計画を前提としたアーキテクチャで作られたITシステムが増えていくことでIT業界が変わっていくと嬉しい。

 

ゲームやコンテンツビジネスだけがクリエイティブじゃないことを見せようじゃないか。

 



JDSF データ・マネジメント・ソリューション部会
株式会社エクサ 恋塚 正隆
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