ITアーキテクトのひとりごと
第39回 「ビッグデータの活用の主役はどこ?」

 

光の速度を超える素粒子が発見されたかもしれない、というビッグニュースが発表された。大量の実験データに裏付けされ、科学者達の十分な考察に耐えて発表されたにも関わらず、断定には至っていないというところが非常にフェアな発表だ。ビッグサイエンスの世界では大量の観測データを短期間で取得し、その分析に何十年もかかるということはざらだ。新たな現象が見つかって、過去のデータを再チェックすることもあるので、データの長期アーカイブも大事になる(データを取るためにかかるコストがとにかく膨大なので無くなったら大変な損失だ)。それにしても、光よりも速いというのが事実だとしたら世の中がどう変わるのか全くわからないので、それで何なの(雑誌「サイエンス」で庶民向けに解説してくれると思うので、しばらくは要チェックだ)。

 

さて、世の中で生じている事象を何でもかんでもセンサーネットワークでモニタして記録することが可能になり、それらをリアルタイムで分析することも可能になった、ということでビッグデータが注目されているらしいが、仮説なしで大量のデータをリアルタイムで分析できるわけがないので、その仮説をどのように考えて設定するかが重要だ。そこがノウハウなので、本当に良いアイデアを持っていたら道具立てが成熟するかどうかという微妙なタイミングを計ることが肝要だ。

 

仮説を試す環境も大事だが、いろいろな仮説を試そうと思ったらデータウェアハウスが必要になる。受け入れられる実現可能なコストの限界があるので、何でもできる、というのは無理だ。そこそこの目論見が無いと仮説を試すお金も出ないので、取りあえずデータだけ貯めておこう、なんていう冒険は誰もしないだろう。

 

統計分析やら数値シミュレーションで、ほぼ既知の現象や発見された現象を後付けで納得するために確認してみるということがあるが、それが意味のある事かどうかは、その使い方だ。大量データの高速処理技術の進歩で、モニタデータを分析し続けて変化を見つけ出すことが容易になったので、変化の意味を洞察するノウハウを持っていれば、そのノウハウを普遍化して応用していくための費用対効果は良くなるけど、効果も大きければ費用もでかいので、結局はお金がないとできない。そのノウハウも変わってくるので、ノウハウを磨き上げる努力は営々と続ける必要がある。結局は、ビッグデータの世界でも、お金を持っていた上に、ノウハウ、商売の仕方を知っていないと猫に小判だ。

 

大量のデータ(大量ではない場合も)をリアルタイムで分析するコストをかけたあげくに、分かったことは、これまで定性的にわかっていることを追認しただけ、なんていう実験的なビッグデータ活用もあるようだが、本当に役に立つ使い方は、きっとみんな隠しているに違いない。

 

監視カメラ・ネットワークの画像をリアルタイムに分析して犯罪者を見つけたり、犯罪を抑止するというのは、役に立つビッグデータ処理の典型的な応用かも知れない。社会の役に立つが、お金に換算するのは難しい。ビッグデータを活用したこんなシステムは、よくよく考えてみると社会にたくさんありそうだ。現代の監視社会では、ビッグデータを本当に活用しているビッグユーザは知らないところにいるのかも知れないと思うと、SF小説でも読んでいるかのようだ。

 



JDSF データ・マネジメント・ソリューション部会
株式会社エクサ 恋塚 正隆
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