
部門間連携を促進させるポイント
(株)ジェイック 取締役 教育事業部長 近藤浩充
■重要性増す部門間連携と現実の課題
近年,組織のシナジー創出やイノベーションの加速を促す人事戦略の一環として,「管理職層の部門間連携力」を強化したいというニーズが,特にエンタープライズ企業などで高まっています。外部環境や顧客ニーズの多様化が進み,多くの日本企業で主流だった「部門ごとの役割を明確に定めた組織体制のもとで業務を遂行し,組織全体を成長させるスタイル」から,部門を超えて情報が流通し,現場主体でイノベーションを生み出せる組織への変化が求められています。その成否を左右するのが管理職層です。管理職層が連携を深めれば,部門をまたいだ生産性の向上や新規事業などの推進を加速させられます。しかし,長年築かれた縦割り組織の風土は,トップが重要性を説くだけでは変わりません。連携の重要性は理解されても,「どう行動すればよいのか」が不明瞭で,実践に移すのが難しいのです。
管理職層の部門間連携を強化するには,次の3つのアプローチが有効です。
■組織の土壌づくりは管理職の行動変革から
1つ目は,コミュニケーションの「青信号思考」と「赤信号思考」の切り替えです。「青信号思考」とは,思いついたアイデアを制約なく発言するスタイル,「赤信号思考」とは,発言の正しさや実現可能性を判断しながら話すスタイルを指します。多くの企業では,管理職層が慎重に発言する傾向が強く,特に部門間の会議では「赤信号思考」に偏りがちです。しかし,これでは自由な発想や新たなアイデアが生まれにくく,部門間の関係性も硬直化してしまいます。そこでまず大切なのは,管理職層が安心してアイデアや意見を発信できる場づくりです。例えば,部門横断の会議では「批判なしのブレインストーミング」をルール化するなど,青信号思考を促す設計にすることで,発言のハードルが下がります。自由に話せるという体験が,管理職層の思考と行動の幅を広げる第一歩となります。
2つ目は,「対話の場を設計・リードする力を育てる」ことです。各自が話したいことを語るだけでは,部門間の相互理解や協働にはつながりません。他者の声に耳を傾け,対話の姿勢をもつことが,部門間連携のカギとなります。そこで有効なのが,管理職層が参加する会議において,目的を明確にすることです。「この場は自由な発想で話す場」「議論を深める場」「結論を出す時間」といった目的を提示することで,参加する管理職層は他者との対話を行いやすくなります。こうした会議を重ねることで,管理職層は「他部門の意見を引き出し,受け止める」という,対話をリードする力を身につけ,さらに,自ら場を設計できるようになります。
3 つ目は,「役割意識を解除する」ことです。部門間連携を進めるには,管理職層が自部門の視点に固執せず,会社全体の視点で課題を捉えることが求められます。そのための施策として,定期的なジョブローテーション,部門横断のプロジェクト,研修実施などが効果的です。研修の内容としては,「他部門の管理職と共に課題に取り組むワークショップ」や「対話型リーダーシップについて学ぶ研修」「部門横断プロジェクトを行う際のファシリテーション研修」などが挙げられます。これらを通じて,管理職層の視野が広がり,協働の土壌が育まれます。
部門間連携を実現するためには,トップが重要性を説くだけでは不十分であり,管理職層が日々の行動を変えることが必要です。そのためには,「青信号思考」「対話の場を設計・リードする力」そして「役割意識の解除」の3つを意識し,その実践を後押しする施策で環境を整えることが重要です。
(月刊 人事マネジメント 2025年6月号 HR Short Message より)
HRM Magazine.
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