
守・破・離のステップで若手の感性を伸ばす
グレース 代表 福山真由美
企業研修で出会う新人や入社3年目までの社員から「自分たちがやりたいことはもうやり尽くされている」「何からやればいいのか上司が教えてくれないので仕事の仕方が分からない」など聞くことが多くなりました。彼らは,個性をうまく発揮できず,モチベーションが上がらないことを他責にする傾向があります。一方で,若手の変化に伴い,何とかして彼らの意識を上げたい,やる気を引き起こしたいと思っている管理職層からの相談も増えています。
■イノベーションは「守・破・離」の先に起こる
若手が活躍するための組織作りには,若手の自由な感性を引き出す環境作りが欠かせません。私が重要な点だと考えているのは,「型を身につけてもらうこと」です。「型を学ぶこと」で型が新たに作られ,型が磨かれるようになると考えています。
具体的には,若手社員に,まず会社の基本的な仕事や考え方について1度はしっかりと身につけてもらうことが肝要です。「イノベーション」は「型」=「伝統」を知ってこそ始まるのです。「型から入って,型から抜ける」ために1度は「型」の基本や伝統を知ってもらう必要があります。
私が講師を担当している研修では,伝統芸能の日本舞踊において身につけた「守・破・離」の考えをよく話しています。
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「守」……まずは,先輩の教えや指示通りに徹底的に動くこと,目の前のことをやり切る力をつけること。
「破」……次段階では,自分の考えも取り入れてみる,独りよがりではなく,バランス良く分析,改善していく。
「離」……先輩から教わったことを基本にして,独自のものを開拓,提案できるようになる。
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このステップを説明するときに「守」は入社2年目くらい,「破」は3年目くらいなどその会社に応じた年数を振り分けて,自分が今どのステップにいるのか,1人ひとりの立ち位置が分かりやすくなるよう導くのです。そうして,会社の歴史や手法に目を向けはじめた新人は,従来の自分だけの世界から少しずつ違った感性を自ら育んでいきます。
■伝統や基本の習得があってこそ可能性も広がる
イノベーションを生むためには,若手社員の感性を抑圧しない環境作りや時間の猶予が企業に必要だと思います。
少し時間はかかりますが,まず各企業の様々な伝統や基本(具体的には社史,企業のビジョンの理解,仕事のマニュアルの研修など)に触れさせ,どう感じるかについてレポート作成などを通じて,言語化させることから始めるとよいでしょう。そうすると,例えば,若手が「何かこのやり方は古くさいですね」と感じた資料作成手順に関して「自分ならこうします」と合理的な提案をしたり,「まだ技術が伴わないけれども,おそらく求められているイメージではこんなことではないですか」などと発言する状況や段階がだんだんできてきます。
できない言い訳を探しがちな新人にできる糸口を提供し,感性がより自由に働くように可能性を広げていくのは確かな基礎力です。その基礎力の保持こそが,様々なプロジェクトの場面での判断材料となります。
若手社員や新人が持つ能力は無限です。ただ少しばかり自らの考えを自己完結してしまい,表現することが得意ではないだけです。段階を踏んで,自社の歴史ややり方を理解させるきっかけを作ることで,感性が育まれ,その先の斬新な切り口,イノベーションの提案ができる人材が増えてくるのではないでしょうか。
(月刊 人事マネジメント 2017年7月号 HR Short Message より)
HRM Magazine.
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