
アドラー心理学で行動力を高めよう
(株)アンカリング・イノベーション 代表 大平信孝
採用,教育,人事制度などに時間も予算もかけているのに,社員がやる気をなくしたり,辞めていってしまったりする。会社の方針と現場のギャップ・板挟みのなか,人事担当者としてできる精いっぱいのことをやっているのに思うように成果が出ない。自分自身のキャリアプランについて,じっくり考える時間や余裕すらない……。人事担当者の悲鳴にも近い嘆きを聞く機会が少なくない。
「どうしたら,人事担当者を含めた社員のやる気が持続し,自ら動けるようになるのですか?」
そんな相談を受けた際に,私がお話しさせていただくことの一部を紹介する。
■原因追求から目的追求へ発想を変える
1つの視座としてアドラー心理学が役に立つ。「過去の原因は『解説』になっても『解決』にはならないだろう」とアルフレッド・アドラーは言う。アドラーは,ユングやフロイトに並ぶ「心理学界の3大巨頭」の一人。アドラー的アプローチでは,「なぜダメなのか?」「どこがダメなのか?」という過去の原因追求ではなく,「本当はどうしたい?」「どうすればうまくいくのか?」という未来や目的を考えて実行していくことになる。
人は目的地が明確になれば,自ずと動き出す。目的地に到着したときに味わえる感情をイメージできれば,なおさらエネルギーが湧いてくる。車の運転でも目的地が設定できれば,カーナビが作用するのと同じだ。そして,目的地が決まれば,そこに至るプロセスは無数にあることにも気がつく。
このアドラー心理学で提唱される考え方を1分間で誰でも実行できるようにメソッド化されたのが「1分間行動イノベーション」である。「1分間行動イノベーション」では,50秒間「この案件,本当はどうしたい?」と問いかけ,残りの10秒で実際に行動するだけである。
社会人になると,目の前の仕事に追われることが増え,「あれをやらなければ」と頭では分かっていても行動が伴わないこともある。ところが,感情が動けば,人はあっさり行動に移せる。「感動」という言葉はあっても「知動」という言葉がないことからも,人は理屈ではなく,感情で動くと理解できるだろう。
■「心の声」を聞けば自然と動けるようになる
いつものルーティンワークや瑣末なことはすぐに行動できるのに,成果に直結するキーアクションが先延ばしになってしまうということがよくある。その場合, 3つの声を分けて「本当はどうしたい?」と自身に問うことをおすすめしている。3つの声とは,以下の通り。
@ 頭の声……普段考えていることで,○○しなければならないといった義務感。
A 体の声……体の状態やコンディションを指す。肩がバキバキだ,喉が少し痛いなど。
B 心の声……感じていること,気持ちで,○○したいという欲求。
これらの3つの声を分けて聞いてみるのだ。例えば,やる気が持続しない,なかなか行動できないと悩む人の大半は,頭の声だけで仕事をしていることが多い。あるいは,体調が安定しないと悩む人は,体の声を無視して自らを酷使していることが多い。
特に行動力を高めたい場合は,3つの声のうち「心の声」を重点的に聞いてみるとよいだろう。そして,50秒で自分の欲求を突き止めたら,10秒でいいので,すぐに行動する。たった10秒でも小さな行動をコツコツ続けていけば,やがて大きな変化につながる。小さな一歩の積み重ねが,主体的で前向きなビジネスパーソンを作っていくのだ。
(月刊 人事マネジメント 2016年1月号 HR Short Message より)
HRM Magazine.
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