
女性人材の育成は大学教育から
群馬県立女子大学 国際コミュニケーション学部 准教授 安齋 徹
■「2030」に近道なし
「社会のあらゆる分野で,2020年までに,指導的地位に女性が占める割合が,少なくとも30%程度」になることを目指す「2030」の達成に向けて官民挙げた取り組みが始まっている。しかしながら,現状では女性管理職比率は依然として低く,出産・育児期に退職する女性も未だに多く,性別役割分業に根差した意識も残存する。
「2030」に向けた近道はなく,女性管理職を増やすには,第1に一定比率の女性を採用すること,第2に女性が働き続けられる環境や制度を整備し職場文化を醸成する(併せて男性も含めた働き方改革を進める)こと,第3に初期キャリアから女性の育成を丁寧に進めること,第4に「一皮むける経験」を積ませて成長を促すこと,第5に「管理職になりたくない」という意識を払拭すること,を地道に推し進めるしかない。
■英語とリーダーシップを身につける
女性人材を育成していくには,企業での実践のみならず教育現場での取り組みも重要である。特に女性の場合,就業後に出産・育児などでキャリアが一時中断する可能性もあるため,入社以前の学生時代をいわば「インキュベーション期(その後のキャリア形成につながる基礎固めの時期)」と捉えたうえで,大学教育の質的向上に努めていく必要がある。
群馬県立女子大学国際コミュニケーション学部は創設10周年を迎えた定員60名の学部であるが,「小さくともキラリと光る学部」として英語とリーダーシップを身につけ世界に羽ばたく人材を育成している。英語教育では,学生の約8割が留学し,独自の英語学習プログラムを通じて実践的な英語力を伸ばしている。昨年度の新入生からTOEICの目標値を800点に引き上げ,TOEIC Speaking & WritingTestsの全員受験も開始した。リーダーシップ教育では,ボランティア経験なども単位認定し自律的な行動を促し,「問題解決とリーダーシップ」という授業も必修化した。教室を飛び出しての学びも重んじる「ビジネス・リーダー論」という授業では,地元の玉村町と連携し新設の道の駅「玉村宿」を盛り上げるイベントを企画・実行(関連商品の開発も提案)するグループワークに取り組んでいる。
■「2030」の先も見越した志と視野
主宰する「社会デザイン論ゼミナール」では,「日本一のゼミを目指そう!」という高いビジョンを掲げ,「社会を変える,ビジネスを創る,自分を磨く」ことを目標に,思考力・行動力・創造力を身につけながらこれからの社会やビジネスを如何にデザインするかを探求している。負荷(ストレッチ・アサインメント)をかけつつ,きめ細かな工夫(案件ごと輪番でのリーダー制,毎月の個人面接,行動指針の策定など)を凝らすことで確かな成果(東北復興支援のボランティアへの参加や地域の課題解決への取り組み,様々な学外コンテストでの入賞)を収めている。ゼミ生からは「頑張りぐせがついた」「失敗から学ぶことの価値に気づいた」「可能性は無限大」「未来が楽しみ」というコメントが寄せられている。
国内外での多彩な実務経験を有する大学教員として,単に管理職予備軍となりうる人材を輩出するだけでなく,社会をよりよく変革し,新たなビジネスを創造していく元気と勇気のある人材を育成していくことこそが真のミッションであると自覚している。東京オリンピックでも開催後の日本のありようが大事であるように,女性の活躍推進も「2030」が最終ゴールというわけではない。その先も見越した高い志と広い視野を持って,企業も大学も女性人材の育成に腰を据えて取り組んでいくべきである。
(月刊 人事マネジメント 2015年6月号 HR Short Message より)
HRM Magazine.
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