
「成長本位制」人事制度のすすめ
森人事企画事務所 代表 森 祐二
■旧式成果主義の限界
私が初めて人事制度設計の仕事に関わってから20年以上たちますが,その間,人事制度のトレンドはほとんど変わっていません。それは一言でいうと「人件費の再配分に重きを置いた成果主義」,つまり,成長が鈍化して総人件費を増やせないという事情のなか,ハイパフォーマーの給与は増やし,そうでない人の給与は減らすことで成果の促進と人件費コントロールを行うという分かりやすい構造です。また,「ヒト」よりも「仕事」にフォーカスした制度運用を行うことが基本となっています。
ところが,皆さんご承知の通り,このトレンドに沿った人事制度はなかなか効果が上がっていません。いくら会社が「人事制度改定を通じて社員のやる気の向上を狙う」と言っても,社員側には人件費抑制という会社の都合が透けて見え,多くの人は半ばあきらめたような気持ちで新しい制度に対峙している,という状況があちこちで発生しているのではないでしょうか。人事制度の本質は「みんなが生産性を高めるように努力することを促す,組織活性化の仕組み」のはずですが,どうも多くの成果主義型人事制度はここに向かっていないと感じられます。
■「成長本位制」人事制度とは
そこで私がおすすめしたいのが,「成長本位制」人事制度の構築です。
これは決して成果主義を否定するものではなく,「仕事の成果の起点はすべてヒトの成長にある」という考えに基づき,徹底的に「ヒトの成長」にフォーカスした人事マネジメントをすることで,最終的に成果の最大化を図るもの,つまり,成果主義の形態の1つといえます。ただし,信賞必罰のスタイルはとらない点で,旧式成果主義とは一線を画すこととなります。成長の余地(伸びしろ)はすべての人にあるため,特定の層をターゲットとするのではなく,全社員に人事制度改定の主役として,当事者意識を持ってもらうことが可能です。また,何より職場におけるマネジメントが前向きなものになることが大きな特徴です。
■制度設計のポイント
具体的に,この制度において最も特色が出るのが「評価制度」です。例えば,その人の成長度合を測る「成長インジケーター」を「知識・スキル」「業務プロセス(行動)」「業務成果」「チーム貢献」について個人別に設定し,それにどれくらい到達したかという観点で評価を行うイメージです。組織目標等からブレイクダウンしたものを評価基準にするのではなく,あくまで社員1人ひとりが1年間でどれくらい成長したかを評価します。もちろん絶対評価で,成長の度合が大きければ上司や周囲から承認され,今後のステップアップに向けて役割が拡大しさらなる成長へのチャンスが与えられるという好循環を仕組みとして作っていきます。
一方,報酬については,「成長本位制」で運用するのは難しいため,評価制度とは切り離して,役割・職責や会社業績と連動する「仕事本位制」にすることが望ましいでしょう。評価を報酬に直接反映させないというのはこれまでの常識とは異なり,導入当初は混乱も想定されますが,長期的に見ると評価運用の目的がよりシャープになることでの効果は非常に大きいと考えます。
「理屈は分かるがやる気が出ない」という旧式成果主義型人事制度の欠点を克服し,新たな組織風土形成を期待できるのがこの「成長本位制」人事制度です。導入にはさまざまなハードルが存在するでしょうし,設計も決して容易ではありませんが,トライする価値のあるテーマだと思います。
(月刊 人事マネジメント 2015年5月号 HR Short Message より)
HRM Magazine.
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