
部下が自ら育つマネジメントを
潟Vェイク 代表取締役社長 吉田 実
■課長の99%はプレーヤー兼務という現実
人材育成の機会を通して,多くのマネジャーにお目にかかるが,余裕のある人はほとんどいない。予算達成へのプレッシャー,残業をさせない労務管理,厳しくなるコンプライアンス,部門の方向性の明示,そして部下育成等,マネジャーに求められる仕事は多岐にわたる。さらには,自ら現場にプレーヤーとして足を運んでいるのが現状だ。産業能率大学の『上場企業の課長を取り巻く状況に関する調査』によると,課長の99%がプレーヤーを兼務している。もはや,マネジメント専任の課長など存在しない。
■若手が成長しない4つのパターン
一方,経営者や人事部の育成担当者からは,「若手が育っていない」という声が以前にも増して強くなっている。グローバル化が進み,ビジネスを取り巻く環境が益々厳しくなっていくなか,イノベーションを起こさないと勝ち残れないとの経営者の焦りとは裏腹に,期待通りに若手社員が成長していない。
成長していない若手社員のパターンは次の4つに分けられる。
1つ目は,「やる気が出ない」パターンである。若手が「頑張ろう」という気持ちになれず,モチベーションを落としている。成果ばかりを求められ,精神的に参っている社員もいる。このようなパターンに陥っている若手を抱える組織のマネジャーは,部下への関心が薄かったり,日常のコミュニケーションが少なかったりしている場合が多い。
2つ目は,「成果が出ずに苦しんでいる」パターンである。何とか頑張ろうとしているものの,成果が出ずに疲弊してしまっている。やみくもに動くだけで,適切な行動になっていない。このような若手のいる組織のマネジャーは,成果につながる技術的な後押しができていない場合が多い。
3つ目は,「考えずに仕事をこなす」パターンである。新入社員のときから“指示されたことをこなすのが仕事だ”と思い込み,自分で考えない。「考えて仕事をしろ」と言っても,そもそも「考えること」が分からない。このような若手のいる組織のマネジャーは,部下に質問を投げかけたり,内省を促すような支援ができていない場合が多い。
4つ目は,「新たなチャレンジをしない」パターンである。新しいことにチャレンジしたり,失敗するような経験を積んでいない。何となく生ぬるい環境で,刺激を受けることもなく日々を過ごしている。このような若手のいる組織のマネジャーは,部下が現状の能力でできる仕事ばかりを割り振っていて,ストレッチの機会を提供していない。
■これからのマネジャーに求められること
マネジャーは忙しい。それでも,「部下育成」は,マネジャーの重要な役割である。まずは,自分の部下が陥っているパターンを見極めること。その上で,マネジャーがなすべきことは何か。
それは,手とり足とり部下を育成することではない。だからといって,「背中を見て学べ」と自らがプレーヤーとして率先垂範するだけでは部下は成長しない。「部下の管理」でもなく,「部下の放置」でもなく,「部下が自ら育つ場を創る」ことこそが,これからのマネジャーに求められるあり方だ。組織にぶら下がるような部下を創り出してはならない。部下が自ら育つ場を創るためのポイントは,組織内の「対話」である。お互いが知り合い,本音で話し合い,感情まで共有できる関係性を築くことが「場」の創造につながる。そのための最初の一歩は,部下の声を心から「聴く」ことである。そのような取り組みから,部下が自律的に成長する組織作りにチャレンジしたい。
(月刊 人事マネジメント 2013年4月号 HR Short Message より)
HRM Magazine.
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