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書評 2026.2

仕事に「生きがい」はいりません

 様々な機関が公開している調査データを基に若者世代の意識および世代間ギャップの輪郭を描き出していく論考。11に区切ったテーマ(@職場,A就活,B成長,C生きがい,D努力,Eコミュニケーション,F消費,G承認欲求,H恋愛,I社会貢献,J信用)につき,2名の著者がリレー形式でつなぐ構成は,対談に臨場しているような感覚で面白く読める。長期的観測からは,「やりがいや生きがいよりお金のため」と割り切る仕事観が年齢を問わず上昇している傾向を指摘し,2010年代の「ブラック企業問題」や「働き方改革」の気運が契機になっていると分析する。また30年前の若者が年月を経て熱意・意欲を失い“丸くなる”のに対し,今の若者は,初めから“丸い”(やりがいなど求めていない)と観察。喜怒哀楽を素直に見せない特徴には他者からの視線を気にする心理が強く働いていると論じている。若者たちが「才能や育成環境による格差に追い付けないから無駄な努力はしない」と諦念を抱く状況に,誰が責任を負うべきなのかは考えさせられる。

●著者:金間大介/酒井崇匡  ●発行:SBクリエイティブ
●発行日:2025年12月15日  ●体裁:新書版/224頁

企業不祥事の真相

 公表されている第三者委員会報告書などから,有名企業の不祥事を実名で追い,問題点を見直していく論考。@会社の事業計画や投資意思決定,A経営者の意思決定,B時代の変化と自社のあり方との不適応,の3章に分類し,組織に潜むリスクを再検証していく。マスコミが叩き,SNS上で炎上するような“決めつけ”は退け,単純化できない事情を多角的に捉えようとする視点は特に興味深い。ハラスメント問題と結論づけられた案件も,時系列で確認すると,プロジェクトマネジメントの能力不足によってリスク見積が甘くなり,ハラスメントは最後の引き金に過ぎないことが分かる。ケイパビリティ(能力・設備・人材)がない状態で,競争参加を強いられている事業では,不正しか手段がなく,現場が犠牲的立場に追い込まれているとも指摘。誰かが悪意を持って不正を命じるケースはまれで,何としても乗り越えたいとする空気感から,不正が自然発生する危うさを報告する。「報道されている問題」と「真に問うべき問題」を切り分けた冷静な分析眼に要注目だ。

●著者:秋山 進  ●発行:日経BP /日本経済新聞出版
●発行日:2026年1月8日  ●体裁:新書版/263頁

部下の心を動かすリーダーがやっていること

 組織が成果を高めていくには,「仕事」でも「働きやすさ」でもなく「職場」へのエンゲージメントがポイントになると著者は提起し,リーダーに求められる再現性あるスキル「共感型マネジメント」をガイドしていく。共感する力と共感してもらう力の双方向の関係が機能してこそ土台になると説き,その上に,メンバーが自律し成長していくサイクルを描く。その過程では,「任せてほしいけど放置されたくない」「教えてほしいけど自分の働きも認めてほしい」といった心理も受け止める“関与の距離感”が腹落ちのキモになると指摘している。メンバーの自律的・主体的関与については「推せる職場づくり」というかみ砕いた表現で概念を打ち出し,@リーダーのマインドセット,Aメンバーの相互間の理解を深める,Bメンバーの意欲を引き出す,C挑戦の場の用意と支援,D「推せる職場」の仕組化,という5段階での展開を体系づける。管理型から共感型へリーダーが大変身するための,論理的かつ具体的なノウハウがぎっしり詰め込まれた1冊だ。

●著者:上林周平  ●発行:アスコム
●発行日:2026年1月9日  ●体裁:四六版/240頁

職場の対話はなぜすれ違うのか

 書名から,職場で役立つセリフ集のような解決策を期待するかもしれないが,本書の視座は高く,内容は学術的アプローチから外れない。【講義篇】ではコミュニケーションが一方通行(伝える)から双方向(分かり合える)へ変質してきた背景を解説しつつ,そこで止まるから“対話疲れ”が起きると指摘。やり取りの即興要素による響き合いを経てイノベーションを創発させる関係まで概念を広げて,一段深い思考を促している。【実践篇】では,実際の職場へ展開する手法を丁寧に追い,「伝える=伝わった」だけで終わらせないコミュニケーションの可能性を5つの「教訓」に整理していく。組織開発のしかけ(場づくり・診断・介入・教育)を正攻法に位置づける一方,その限界も語り,「対話」そのものを目的にしない捉え方の転換を知恵の1つに挙げている。「ブロック」や「論破」のような“切り捨て”が対話を雑で浅いものにしているという警告や,AIには真似のできない「沈黙の価値」への着眼など,安直なノウハウとは異次元の刺激が得られそう。

●著者:小林祐児  ●発行:光文社
●発行日:2026年1月30日  ●新書:新書版/331頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki






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