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◆『現代社区教育の展望』(上海教育出版社)
出版祝賀会(11月22日)
原題『当代社区教育新視野ー社区教育理論与実践的国際比較』
日本題『現代社区教育の展望』(下記) B5版、285頁、美装上製
日本の販売価格(諸雑費含めて):1000円
希望者は小林(またはTOAFAEC事務局)
→■まで
1,上海訪問・参加メンバー:
小林文人(編者)、末本誠(同)、伊藤長和(執筆者)、矢久保学(同)、
上野景三、美若忠生、小松宏晃、張明順、松田敦子
2、航空便
(1)東京グループ(小林文人、伊藤長和、矢久保学、小松宏明)
出発:11月20日(成田)中国東方航空(MU524)13:50〜16:00(上海浦東)
*11:50 成田第2ターミナルHカウンター集合
帰国:11月24日(上海・浦東空港)
中国東方航空(MU523)09:05〜12:50(成田着)
(2)関西グループ(末本誠、張明順、松田敦子、美若忠生)
出発:11月21日(関西空港)MU516 13:35発〜14:55(上海浦東)
帰国:11月24日・末本(浦東空港)MU055 14:35発〜17:30(関西着)
11月25日・残り3人 同上
(3)九州(上野景三)
出発:11月21日(福岡)MU518 13:15発〜13:45着(浦東空港)
帰国:11月24日(浦東空港)MU517 09:45発〜12:15着(福岡)
3,スケジュール
★記録「南の風」記事へのリンク
11月20日(東京グループ)夜・上海教育出版社による祝宴
ホテル:上海静安賓館(上海市静安区華山路370号
電話(001−86)21−62481888(代表)
21日 自由行動 閘北区社区学院(小林国際図書室)訪問ほか
午後・関西・九州グループ(末本誠他)上海着
夕食・出版社による歓迎宴会
11月22日 8:30〜11:30 出版祝報告会
会場:上海図書館(新館、淮海西路)4階多目的ホール
午後・浦東区(社区教育)施設など訪問
夜 ・浦東区による歓迎夕食会
11月23日 観光・観劇
夕食・(おそらく)答礼宴
11月24日〜25日 一行帰国
*関連写真(2003年11月)
11月25日(小林のみ)上海・虹橋空港10:10〜烟台へ(CA3330、)
29日(青島)MU784 13:15発〜17:05着(成田)
▼上海教育出版社による記念祝宴(20031120)
新刊・上海教育出版社「現代社区教育の展望」
(2003年11月・刊行)
小林文人・末本誠・呉遵民・共編著
『現代社区教育の展望−社区教育・社会教育の理論と実践の国際比較』
(上海教育出版社、2003年11月)
【前書き】
2001年10月、上海の成人教育関係者の招聘により、私たちは「社区教育」調査団として上海を訪問した。旅程の最後の夜、ホテルに上海教育出版社の袁正守・副編集局長が来訪され、楽しい交流と歓談のひとときをもつことができた。本書出版の構想はこの夜の語らいから始まったようなものだ。それからすでに2年ちかくが経過している。
考えてみると、中国・韓国・日本など東アジアの諸国は一衣帯水の位置にありながら、社会教育・成人教育についての研究・交流は、これまで誠に微々たる流れにとどまっていた。私たちは文化的には相互に永い交流の歴史をもっているが、政治的には侵略や戦争など不幸な一時期があり、歴史的に友好・親善の大河の流れを創り出すことは簡単なことではなかった。中国と日本の、あるいは韓国との、社会教育・成人教育関係者がともに友人として出会い、親しい研究・交流の関係を紡ぎ始めるのは、ほぼ1980年以降のこと、まだ四半世紀を経過していない。
日本では、教育や文化の国際比較研究という場合、欧米諸国との比較研究が主流であって、東アジア諸国についての研究はむしろ少ない。社会教育・成人教育の領域も例外ではなかった。一つの海を隔てて、すぐ隣りの国の社会教育・成人教育の制度や動向についてほとんど知見をもつことがなかった。それだけにこの10数年来、私たちは中国や韓国の関係者と研究交流する機会を求め、それぞれの国・地域(都市)の活気ある動きを調査し学習する努力を重ねてきた。「東京・沖縄・東アジア社会教育研究会」(通称・東亜社会教育研究会、1996年)を設立し、研究年報『東アジア社会教育研究』(第7号、2002年)を刊行するなどの活動をしてきたのはそのためであった。
私たちの中国・日本の相互比較研究の架け橋となってきたのは、編者の一人・呉遵民である。編者たち三人はともに自己主張をもつ対等の研究者であるが、経歴をたどれば、かって末本誠は小林文人の学生であり、呉遵民は末本誠の学生であった一時期がある。同じ分野の研究に携わる研究者として三世代にわたる交流は幸いに密接なものがあり、とくに中国・日本の研究に関しては呉遵民が貴重な媒介役となって今日まで歩んできた。奇しくもこの三名が編者となり、海を越えて協力し、三世代の力を結集しあって、一冊の本を創りあげることになった。編者たちの個人的な喜びはもちろんであるが、中国と日本そして東アジアの共同研究が新しい時代を迎えた証左として感慨新たなものがある。
本書には、これまでにない幾つかの新しい試みがある。第一は、書名にある通り、いま現代的課題となってきている「社区教育」について国際的視点からの理論化を試みたことである。第二に、世界的視野をもちつつ、とくに日本・韓国を含めて東アジア的な「社区」教育の独自性と展望を画き出そうとした。第三には、地域を基盤として展開してきた日本の社会教育についてやや詳細に紹介し、その成果と教訓を通して今後の社区教育の方向を明らかにしようとした。日本の社会教育が本格的に中国書で取りあげられるのは初めてのことであろう。
編集・執筆にあたって、私たちは抽象的な理論から出発するのでなく、地域の具体的な現実と実践的な取り組みに基づいて、理論化と課題提起の努力を試みた。性急に結論を急ぐのでなく、地域の実践と運動の積み重ねのなかで、さまざまな矛盾や困難に挑戦しつつ、課題を探求していく姿勢こそが重要であろう。
執筆者については、三人の編者だけで書くのでなく、日本からは地域自治体の社会教育に携わる実践的専門家の事例報告を重視した。また、中国の少数民族の研究に日本人研究者が挑戦し、日本の社会教育や文化運動の新しい状況について、中国人研究者が意欲的に執筆にあたった。韓国の「平生教育」動向についても新しい報告を盛り込むことができた。
執筆者相互では、あまり細かな協議・調整をしていない。担当した章節のテーマにそって、できるだけ自由に書くことにした。それぞれの個性と自己主張を尊重したかったからである。それだけに全体的な統一性に欠けるところがあるかも知れない。編集段階では「実践的具体的に元気が出るような本にする」「心がおどるような本にする」をことを語りあったが、この方針が実際にうまく実現できたかどうか。はじめての中日・共同制作の本であるだけに少なからず課題を残していることを自覚している。
本書は、中国と日本の社区教育・社会教育に関する共同研究の出発の本である。これをステップにさらに課題を発展させ、国際的にも質の高い理論水準と実践的提起を積み上げていきたい。
最後に、私たちの友人であり、中国成人教育領域の指導者であり研究者でもある郭伯農先生が御多忙の中で、序言を書いていただいたことに深く感謝の意を表したい。また執筆に参加した日本専門家と中国語への翻訳の労をとっていただいた中国の若い友人たちに心から感謝したい。本書出版の機会を用意され、私たちの遅れた原稿を忍耐つよく待っていただいた上海教育出版社の友情と心意気に御礼を申しあげる。
共編者 小林文人
末本 誠
呉 遵民
(2003年5月4日)
▲編者3人と上海教育出版社(20031122)
【本書の構成・目次・執筆者】
目次
序言-----------------------------郭伯農
まえがき-------------------------小林文人、末本誠、呉遵民
まえがき・日本語の原文
第T部 現代中国社区教育の理論と実践 -------------- 呉遵民
第一章 中国社区教育の歴史的形成と展開
第1節 歴史的背景及び沿革
第2節 概念の吟味と問題の限定
第3節 社区教育の意義と目的
第二章 中国社区教育の機能と目標にみられる特徴
第1節 機能に関する検討
第2節 中国の社区教育の特徴
第3節 目標
第4節 内容と方法
第三章 現代中国社区教育の行政管理体制、施設及び専門管理者の養成と配置
第1節 新型社区教育の行政管理体制の構想と創建
--「官民連携」による社区教育管理体制
第2節 社区教育発展の必要条件――施設と専門職員
第四章 生涯教育体系における社区教育の役割と位置付け
第1節 教育と人間の生涯発達――生涯教育理念について
第2節 「学習社会」への筋道――社区教育発展の未来
第五章 中国・日本の現代社区教育・社会教育の比較
第1節 学校教育と社会教育――戦後日本における教育体制の基本原理
第2節 “教化”から民主へ−戦後日本社会教育の特徴
第3節 “施設主義”と“教養中心”−日本の社会教育を支える研究と思想
第4節 優勢と欠如−中国社区教育の発展に対する啓示とその展望
第U部 地域社会教育と生涯学習-----------------末本 誠
第一章 生涯学習と地域社会教育
第1節 学校モデル教育についての批判
第2節 “成人”という学習者の発見
第3節 地域社会教育的特徴と可能性
第二章 地域社会の現代的意味と社会教育
第1節 人間形成の全体性と地域社会
第2節 社会変化和地域社会教育
第3節 日常実践としての地域生活
第三章 地域社会教育の役割と課題
第1節 “不定型教育”としての地域社会教育
第2節 日常実践の意図的組織化の方法
第3節 NPOと行動による学び
第V部 日本と東アジアの地域社会教育の展開-------小林文人・黄丹青
第一章 日本社会教育の歩みと特徴
第1節 社会教育概念の登場と展開
第2節 戦後日本の教育改革と社会教育の新たな歩み
第3節 社会教育の法制と自治体の役割
第4節 社会教育の地域への定着過程
第二章 公民館等の施設の展開と地域実践の広がり
第1節 新しい「公民館の建設」(初期構想)
第2節 公民館の近代化−自治体の取り組み
第3節 枚方テーゼから三多摩テーゼへ
第4節 図書館、博物館、そして生涯学習施設
第5節 学校と地域・社会教育との連携
第6節 集落自治活動と地域づくりの取り組み
第三章 自治と参加、地域づくりへの展望(黄丹青)
第1節 経済成長・地域開発と社会教育
第2節 自治体社会教育の計画化と住民活動の展開
第3節 文化協同運動の多様な取り組み
第4節 非営利市民団体(NPO)と社会教育の可能性
第四章 東アジアの社会教育・生涯学習の展開と課題
第1節 東アジアにおける「社会教育」の歴史的展開
第2節 社会教育の東アジア的特質
第3節 社会教育法制から生涯学習法制へ
第4節 国際的視野からみる東アジアの課題
第W部 各地からの実践・事例報告
一、中国の実践報告
(1)上海市湖南街道------------- 葉申江
(2)上海市彭浦新村街道--------- 王鋼 張美羽
(3)上海市金楊街道------ ------- 章佩均
(4)寧夏回族自治区葦州回民女子小学----新保敦子
二、世界各国からの報告
(1)イタリヤの「人民の家」---------- 中嶋佐惠子
(2)韓国の地域生涯教育--------------- 金子満
(3)アメリカにおける地域社会教育----- 谷川裕稔
(4)フランスの社区教育--------------- 末本 誠
三、日本からの事例報告
(1)川崎市の地域社会教育--------------- 伊藤長和
(2)大阪市の生涯学習計画--------------- 野間康三
(3)東京・三多摩の住民運動と職員の協同--- 内田純一
(4)松本市の社会教育------------------- 矢久保学
(5)沖縄・那霸市の地域住民活動---------- 仲田惠司
付録:
1、中国成人教育と生涯教育年表
2、日本社会教育年表
▲松本・矢久保学さんと小松宏晃さんが持ち込んだ祝酒・信州銘酒
【編著者・執筆者・訳者一覧】
一、編著者(分担)
小林文人(東京学芸大学名誉教授) 〈まえがき、第V部 第1、2、4章〉
末本 誠 (神戸大学教授) 〈第U部 第1、2、3、4章 第W部 事例報告4〉
呉 遵民 (中国華東師範大学助教授)〈第T部 第1、2、3、4、5章、中国生涯教育年表〉
二、執筆者(執筆順)
葉 申江 (上海市浦東新区成人教育協会副主任) 〈第W部 中国の実践報告
1〉
王 鋼 (上海市閘北区教師進修学院教研室主任) 〈第W部 中国の実践報告 2〉
張 美羽 (上海市閘北区彭浦街道弁事処) 〈第W部 中国の実践報告
2〉
章 佩均 (上海市除?街道弁事処主任) 〈第W部 中国の実践報告
3〉
新保敦子 (早稻田大学教授) 〈第W部 中国の実践報告 4〉
中嶋佐惠子(姫路獨協大学助教授) 〈第W部 世界からの報告 1〉
金子 満 (九州大学大学院博士課程) 〈第W部 世界からの報告 2〉
谷川裕稔 (中九州短期大学助教授) 〈第W部 世界からの報告 3〉
黄 丹青 (埼玉大学非常勤教師) 〈第V部 第3章、戦後日本社会教育略年表〉
伊藤長和 (川崎市生涯学習振興事業団事務局長) 〈第W部 日本からの事例報告
1〉
野間康三 (大阪市教育委員会) 〈第W部 日本からの事例報告 2〉
内田純一 (東京都教職員研究センター) 〈第W部 日本からの事例報告 3〉
矢久保学 (松本市南部公民館) 〈第W部 日本からの事例報告
4〉
仲田惠司 (那霸市石嶺公民館) 〈第W部 日本からの事例報告 5〉
三、訳者
黄 丹青(埼玉大学非常勤教師)
張 明順(神戸大学大学院修士課程)
白 メイ (中央大学大学院修士課程)
邱 蓉 (日本在住)
閻 小妹 (信州大学経済学部助教授)
▼執筆者・伊藤長和さん(川崎)ー20031121−
▼執筆者・矢久保学さん(松本)右ー20031121−
▼
【解題】
『現代社区教育の新視野−社会教育・社区教育の理論と実践の国際比較』
出版をめぐって
華東師範大学 呉 遵民
今年9月1日、標記のような日本社会教育と中国社区教育に関する相互交流・共同研究の本が中国上海教育出版社より出版されました。この本の裏表紙において、出版社の編集者はこのように書いています。
「この本は初めて日中両国の三代の学者が共同構想により、丁寧に執筆した社会教育と社区教育の分野における問題探求の著作であり、この本の出版によって中国の理論と実践工作者に対し社区教育研究の新しい国際視野を広く開拓するだけではなく、我国における都市部と農村部の住民たちが、積極的に社区教育の実践に参加していくに必要な理論上の素養が提供されたとも言える。」
この本は、小林文人先生、末本誠先生と筆者の「三代の学者」による共著として構想され、日本と中国における多数の学者や現場実践者の協力によって実現したものです。いったいどのような本であるのか、また、いままで刊行された類似の本と比べてどのような新しい特徴を持っているのか。この本の出版を推進してきた編者の一人として、具体的な経緯や本の内容など少し紹介してみたいと思います。
周知のように、日本と中国は“一衣帯水”の隣国であり、特に1972年日中両国の国交が正常化して以来、政治、経済、文化など多くの分野において活発な交流が展開されてきました。教育の領域においてももちろんのことですが、ただ、社会教育・成人教育の領域についての研究・交流はこれまでそんな多くはありませんでした。
原因はいろいろあると思いますが,新中国が成立した後、日本と類似した社会教育活動が廃除されたことが、一つの主な要因ではないかと考えられます。しかし、旧来の社会教育を廃除したことにかわる適切な市民教育や学校外教育などが展開されてこなかったため、国民教養教育は一時的な宣伝や政治運動にとって替わられてきました。この結果としては国民教養水準の低下や社会的な汚職腐敗現象が増えるなど、多くの問題を抱えてきました。中国の政府関係者や学者がこのような苦境から抜け出すため、世界や日本の成人教育や社会教育の動向に注目しながら、欧米の「社区」教育概念を導入する経過がありました。
一方、日本社会教育の代表者の一人として小林文人先生は1990年代初頭から、中国の成人教育関係者との交流を始め、10数年以来これらの学術研究や交流活動を継続し、中国の成人教育学界に深く影響を与えられました。また末本誠先生はともに何度も訪中されると同時に、フランスを中心として世界の成人教育・地域市民活動の動向についての研究を重ねてこられました。
このような背景において、2001年10月、上海の成人教育関係者の招聘により、小林文人先生を団長として、末本誠先生を含め日本「社区教育」調査団が上海を訪問しました。この機会に、古くから教育理論本の出版を手がけてきた有名な上海教育出版社の副総編集長の袁正守氏が、わざわざ調査団が泊まっていたホテルを訪ねて、「国際社区教育の理論と実践」(当初の書名案)についての執筆を強く要請しました。日本社会教育の特長と魅力(理論性と実用性)や、中国の社区教育がこれからどう展開されるのかという課題(重要性と必要性)を解明していくための本づくりとして画期的な構想であると言えるでしょうと。
出版社側は、さらに筆者が中国人として日本の留学経験があり、そこで末本誠先生は筆者の恩師であり、同時に末本先生はかって小林先生のところで学んだ関係でもあり、この師弟3代において、共同研究的に本を創りましょうということを強調しました。袁副総編集長の言によれば、本の内容だけでなく3世代による本づくり“それ自体に意義が深いのです”と言われました。
この本は2001年10月に構想され、1年余をへて構成案が具体化し、2003年5月に全ての原稿が出揃って出版社に提出され、そして2003年9月に発行される、という経過になりました。日本側からは両先生だけでなく、中国研究をすすめている社会教育研究者、日本研究をすすめている中国人研究者、さらに日本主要都市の社会教育を担っている実践家たちが多く執筆に参加し、結果的にはじめて日本の社会教育が本格的に中国に紹介される本として結実しました。喜びにたえません。
この本は三部12章で構成されています。各部の内容は以下の通りです。
第1部では、現代社区教育理論の提唱と中国における社区教育概念の受容及び実践の展開について検討しています。第1章は現代中国社区教育理論の誕生と展開;第2章は現代中国社区教育の機能、特徴と目標;第3章は現代中国社区教育の行政管理体制、施設及び専門管理者の養成と配置;第4章は生涯教育体系における社区教育の役割と地位;第5章は日中社会教育、社区教育との比較について、それぞれ検討を深めています。第1部は本書の基礎部分として位置づけています。中国社区教育の歴史的展開と今後の発展についての検討を主眼としていますが、とくに研究の視点として、国際的な社区教育論の発展経緯とその基本概念を検討し、それと関連する中国における社区教育理論の受容とその特徴を把握することが、今後の中国における社区教育理論と実践にとって必要かつ前提となる条件であると考えました。
第2部は、国際的視点から地域社会教育と生涯教育の理論や実践の意義をとらえ、社区教育の歴史的基盤を成すものとして検討しています。具体的には、第1章で地域社会教育と生涯学習、第2章で地域社会の現代的意味と社会教育、第3章で地域社会教育の役割と課題について検討しています。第2部では、社区教育の基盤として地域社会教育の理論と実践の課題を究明しています。
第3部は、とくに日本と東アジアの地域社会教育の展開について考察しています。第1章で日本社会教育の歴史と特徴、とくに戦後の教育改革とその後の展開、第2章で公民館等の施設の展開と地域実践の広がり、第3章で自治と参加の動向、地域づくりへの展望、第4章で東アジアの社会教育と生涯学習の展開と課題、を主な内容としています。とくに東アジア社会教育の一つのモデルとして日本社会教育の理論や実践の展開と特徴を究明し、東アジア更に世界においてその位置付けと重要性を示しています。
第4部は日本、中国さらに世界からのいくつかの具体的な実践報告を事例的に収録しています。これまでにない拡がりです。第1部〜第3部の理論的な検討に対して、実際に地域に生きている多様な実践事例の活動報告です。
巻末には、日本社会教育と中国成人教育の年表をそれぞれ添付しています。
ご承知のように、近年来、中国政府は社区教育に対して極めて重視の姿勢を示しており、更に生涯教育体系の構築や学習型社会の形成を目標とすることを強調しています。言い換えれば、社区教育活動の展開は、地域社会の安定、経済の発展、地域住民の多様化する学習要求の充足など、社区(地域)建設という総合的な目標をめぐって取り組む必要があります。
しかし、活発な実践活動が展開される一方、もう一方は理論研究の遅れと不足は否めないことです。統計によれば、中国国内において社区教育に関する著作はわずか2〜3冊にしかすぎないといいます。また内容についても国際的な視点からの考察が充分でなく、狭くて古く、説教めいているようなものもあります。このような現状から言えば、このたびの日中合作による「社区」教育に関する本の出版は、中国の関係者にとって望ましいものであり、またこれからの社区教育をどう展開するかにあたって指針となるに違いなく、理論と実践両面から意義ある本と思われます。
以下に、この本の冒頭に小林先生が前書きとして執筆したなかの一文を引用して、本文を終わることにします。 “本書は、中国と日本の社区教育・社会教育に関する共同研究の出発の本である。これをステップにさらに課題を発展させ、国際的にも質の高い理論水準と実践的提起を積み上げていきたい。”
*TOAFAEC『東アジア社会教育研究』第8号(2003年秋・刊行)収録
▼祝宴翌日・上海近郊へのエクスカーション (左より、伊藤・上野・末本の3氏)20031123
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