恋塚正隆の連載コラム

【連載】バックアップの真実
第8回 「クライアント・バックアップ」

バックアップの基本はフルバックアップ、増分バックアップ、差分バックアップです。と、物の本や、JDSFのセミナーで説明されていますが、いわゆる基幹系業務システムではフルバックアップだけ、という構成が非常に多くなっています。この背景はいろいろとありますが、そもそも業務系のシステムでは障害時に特定の問題のファイルだけを見つけ出してリストアするという作業自体がにおいて、アプリケーションの理解も含めた非常に高い技術力を非常に要求されることに問題があるからです原因がありそうです。障害時に何がどうなったかわからない時には、システムが一貫した状態を保っていた静止点のフルバックアップに戻してしまうことが最も確実な方法の一つなのです。増分バックアップ、差分バックアップを取っていたとしても、フルバックアップされた状態に戻すことが基本運用になってしまった場合は、増分/差分バックアップの仕組みはリストア作業に悪影響を与えるだけなのでになってしまい、必然的にフルバックアップだけで運用するようになります。技術的には、ディスクベースのバックアップ、ミドルウエアやディスク装置の機能を使ったスナップショット、差分からフルバックアップを構成する手法等が多く採用されています。

さて、前回のメルマガで、更新されたデータを常に監視して変更があると直ちにバックアップするCDP(Continuous Data Protection)という方式を紹介しましたが、更新が激しいアプリケーションの場合に、バックアップされるデータ量がどのくらいになるのかは見積もっておく必要があります。この技術は、ある意味で増分バックアップからフルバックアップを構成しているようなものです。一つのファイルの変更された部分だけを最小限切り取ってバックアップするような方式や、ハードディスク装置のセクター、ブロックのレベルで更新部分をバックアップする方式がありますが、このような方式はバックアップされるクライアントPCからバックアップサーバへのデータ量が最小化されるのでバックアップ時間が短くなり、ネットワークへの負荷も小さくなるという利点があります。単純ないわゆるバックアップソフトを使ったバックアップでは、ファイルの更新があると、そのファイル全部をバックアップしています。私もそのような単純なバックアップ機能を備えたソフトも使っていますが、世の中には非常に行儀の悪いアプリケーションソフトがあり、ちょっと困ってしまうことがあります。何が行儀が悪いかって、そのソフトを起動すると、そのソフトが管理している大量のファイル全部にtouchするらしいのです。

このようなアプリケーションがあるとバックアップされるデータ量がドンドン増えるので用意していたバックアップ用ディスクはあっという間にパンクしてしまいます。こういう場合は増分バックアップが裏目に出るので時々フルバックアップして増分バックアップは速やかに切り捨てるのが賢い運用です。基幹系のアプリケーションではこのような事があるとは聞いたことがありませんが、個人ユーザは、買ってきた大容量ディスクについている、おまけバックアップソフトで何も考えずにバックアップしているとこのような事に遭遇するかも知れません。クライアントPCに関わる話題として最近気になった、あるIT系 Webサイトの記事をものを一つご紹介したいと思います。(ある雑誌に?あるブログに?)そこには、故人の使っていたパソコンにアクセスできなくて大事な記録が(事実上)全部無くなってしまった、という記事が掲載されていました。その故人は几帳面で大事なことをしっかりとパソコンで記録、管理していただけでなく、セキュリティもバッチリで、結局、誰もアクセス出来なかったらしいのです。クライアントPCにも大事なデータが大量にある時代になり、厳重に何重にもアクセス管理される(させられる)ようになっていますが、この場合にはこれが裏目に出てしまいました。私個人としては、私がそのようなことになったとしても、そこまで大事なデータは無い(ちょっと寂しい)というか、大事なものは家の奥さんに握られています。

この例は、会社でも同じことです。会社で使っているPCの最高特権レベルのアカウントとパスワードが安全に集中管理されている、という先進的な会社でもなければ、様々な手法で暗号化、アクセス管理されたデスクトップPCのデータは、その持ち主に何か事があれば二度とアクセスできなくなる確率は非常に高くなっていると思われます。世の中にはゴミのようなデータ、忘れ去られて 2度とアクセスされないデータも多いので大した問題ではない、と考えることもできるのですが、皆さんの周りではいかがでしょうか。ツタヤでレンタルされている米国の人気ドラマ「24(トゥエンティーフォー)」の中では、テロリストが残した暗号化ファイルをアッという間に解読してしまうシーンが時々出てきますが、そんなに簡単なんでしょうか(ドラマでは、US国防省の暗号化は難しくて解けないことになっていますけど)。

バックアップと対になるアーカイブという概念がありますが、最近のようにインターネット上に大量の知識が蓄積されるようになってくると、そこにあるデジタル化された知識、記録をどのようにアーカイブするのかが重大な問題になります。公共デジタルアーカイブとして大量のデータを永久に保管するための技術、運営方法を国のレベルで考える必要がありますが、個人のレベルでも、インターネット上に非常に有用な情報を体系立てて載せている個人ユーザの方がたくさんいます。そのような貴重な情報は出版物(紙)になると非常に永続性が高くなりますが、もし、運営者がいなくなると、そのホームページはきっと消えて無くなってしまいます。大事なホームページの喪失に備えてホームページを保存、維持する "メモリアルアーカイブサービス" というものがあることに最近気がつきましたが、まるでお墓の永代供養サービスのようで気色悪いのは私だけでしょうか。JDSFバックアップ部会で今作ろうとしている「バックアップ本(第2版)」もサイバー空間のお墓に葬られないように紙として出版したいものです。・・・手強し、ペーパーブック!





JDSF データ・マネジメント・ソリューション部会
株式会社エクサ 恋塚 正隆
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